Audio Review Blog Logo
Overview
オーディオガチ勢のための音質評価ガイド

オーディオガチ勢のための音質評価ガイド

sound-quality-evaluation-guide

序章:聴くことの芸術と科学

クリティカルリスニング、すなわち批判的聴取という行為は、単に音を受動的に受け取る作業ではない。それは積極的かつ継続的に磨かれるべき技術である。本稿は、オーディオ評価の世界を深く探求し、その核心に存在する客観的測定と主観的知覚という二つの要素の間の緊張関係、そしてそれらが織りなす相乗効果を解き明かすことを目的とする 1。周波数特性や歪率といった測定値は、オーディオ機器の性能を評価する上で不可欠な基盤を提供する。しかし、ハイフィデリティ・システムの最終的な目標は、聴き手にとって個人的に満足でき、感情的に深く関与できる音楽体験を創出することにある点を忘れてはならない 4

本稿の構成は四部から成る。第一部では、音質を表現するための共通言語を確立し、世界中のオーディオ評論で用いられる専門用語を体系的に解説する。第二部では、評価の背後にある文化的哲学を探り、日本と欧米のオーディオ評論文化がどのように異なる価値観を形成してきたかを考察する。第三部では、従来の測定値では変化が見られないにもかかわらず、なぜ聴感上の差異が生まれるのか、その深遠な科学的背景に踏み込む。そして第四部では、これらすべての理論的知識を実践に移すための具体的な評価フレームワークを提示する。この包括的なガイドが、読者自身のリスニング哲学を確立するための一助となることを願う。

第一部:リスニングの言語 — グローバル用語集

オーディオの音質を正確に議論するためには、まずその表現に用いられる語彙の共通理解が不可欠である。このセクションでは、音を構成する基本的な要素から、空間的、音色的、時間的な側面を表現する高度な概念に至るまで、世界中のオーディオ評論で用いられる専門用語を体系的に解き明かす。各用語について、その技術的な定義と、それが聴感上どのような印象として知覚されるかを関連付けて解説する。

1.1 基礎概念 — 音の構成要素

音質評価の議論は、物理的な音響現象を記述する基本的なパラメータから始まる。これらの概念は、より複雑で主観的な表現を理解するための土台となる。

周波数帯域 (Frequency Range)

人間の可聴周波数帯域は、一般的に 20Hz から 20kHz の範囲とされる 6。オーディオ機器の性能評価において、この帯域をどれだけ広く、かつ平坦に再生できるかが一つの指標となる。この再生能力が広い場合、「ワイドレンジ」と評価される 7。この帯域は、聴感上の印象に応じて、さらに細かい領域に分類されることが多い。

  • サブベース (Sub-Bass): 20Hz – 60Hz。聴くというより体で感じる領域。
  • ベース (Bass): 60Hz – 250Hz。音楽の土台や深みを担う。
  • ミッドレンジ (Midrange): 250Hz – 5kHz。人間の声や多くの楽器の基音が含まれる最も重要な帯域。
  • トレブル (Treble): 5kHz – 20kHz。音の明瞭度やきらびやかさを司る 6

人間の聴覚は、特に年齢と共に高周波数の感度が低下する傾向がある 9。また、音量によっても周波数ごとの感度は変化する。これは「等ラウドネス曲線(フレッチャー・マンソン曲線)」として知られ、小さい音量では人間の耳は低域と高域の感度が鈍くなるという特性を持つ 10。この心理音響学的特性は、小音量でのリスニング時にラウドネス補正が必要とされる理由の一つである。

ダイナミックレンジ (Dynamic Range)

ダイナミックレンジとは、オーディオシステムが再生できる最も静かな音と最も大きな音の差を示す 7。このレンジが広いシステムは、静寂の中から微細な音が立ち上がり、オーケストラの強烈なトゥッティ(全合奏)までを破綻なく表現する能力を持つ。ダイナミックレンジは、二つの側面から評価される。

  • マクロダイナミクス (Macrodynamics): ピアニッシモからフォルティッシモへの大きな音量変化を表現する能力。これが優れていると、音楽にスケール感と迫力が生まれる 13
  • マイクロダイナミクス (Microdynamics): 一つの音の中での微細な音量変化や、演奏のニュアンスを再現する能力。これが優れていると、演奏の繊細な表情が伝わり、音楽がより生々しく感じられる 13

S/N比 (Signal-to-Noise Ratio)

S/N比は、目的の音楽信号(Signal)と、機器自体が発生する不要な背景ノイズ(Noise)の比率をデシベル(dB)で表したものである 7。この数値が高いほど、ノイズが少ないことを意味する。聴感上、S/N比の高さは、無音時の「静寂感」として知覚される。背景が完全に「黒い」と感じられる状態では、これまでノイズに埋もれていた微細な音楽情報(ローレベル・ディテール14)が明瞭に聴き取れるようになり、演奏中の音は付帯音がなくクリアに感じられる 7

歪み (Distortion / 歪感)

歪みとは、元の信号には存在しなかった不要な成分が、再生過程で付加されてしまう現象を指す。最も一般的に測定されるのは、全高調波歪+ノイズ(Total Harmonic Distortion + Noise, THD+N)であり、これは信号の整数倍の周波数に現れる高調波歪と、その他のノイズ成分を合わせたものである 15

測定上の歪率が低いことはハイフィデリティの前提条件であるが、その歪みがどのように知覚されるかは非常に複雑である。例えば、偶数次高調波歪(2次、4次など)は、元の音と協和しやすいため、比較的耳障りが少なく、場合によっては音に「豊かさ」や「厚み」を与える「ユーフォニック(euphonic)」な効果として好意的に受け取られることがある 6。真空管アンプの「暖かい」音色は、この偶数次歪が支配的であることに起因するとされることが多い。一方で、奇数次高調波歪(3次、5次など)は不協和音を形成しやすく、冷たく硬い、耳障りな音として知覚されやすい。

聴感評価で用いられる具体的な歪みの表現には以下のようなものがある。

  • サ行が刺さる (Sibilance): 女性ボーカルの「サシスセソ」やシンバルの音などが、耳に鋭く突き刺さるように感じられる現象。これは高周波帯域における特定の歪みやピークに起因する 19
  • ざらつき (Grain): 音、特に中高域に微細な粗さや粒子感を感じる状態。写真の粒子に例えられる 6

1.2 空間次元 — 音による情景描写

ステレオ再生の醍醐味は、スピーカーの間に三次元的な音響空間を再現することにある。この空間の質を評価するために、専門的な語彙が用いられる。

サウンドステージ (Soundstage / 音場感)

サウンドステージとは、ステレオ再生によってリスニング空間に現れる、仮想的な演奏空間の広がりを指す 21。優れたシステムは、スピーカーの存在を感じさせず、あたかも目の前で生演奏が繰り広げられているかのような錯覚を生み出す。サウンドステージは、主に以下の三つの要素で評価される。

  • 広がり (Width): 音場が左右のスピーカーの外側まで広がるか。
  • 奥行き (Depth): 最前列の楽器から最後列の楽器までの距離感が表現されるか。
  • 高さ (Height): 音場に上下方向の広がりが感じられるか。

評論においては、音がスピーカーの間に「窮屈に詰め込まれている(crammed)」あるいは「曖昧(vague)」なサウンドステージは否定的に評価される 24。対照的に、「広大(enormous)」、「雄大」、あるいは「深い(deep)」サウンドステージは、そのシステムが高い空間再現能力を持つ証として高く評価される 24

イメージングとフォーカス (Imaging / 定位, Focus / フォーカス)

イメージングとは、サウンドステージ内に個々の楽器やボーカルがどの位置にあるかを明確に描き出す能力を指す 20。フォーカスは、その音像の輪郭がどれだけシャープであるかを示す。優れたイメージングを持つシステムでは、ボーカルは中央に、ギターは右に、ピアノは左に、といった具合に、それぞれの音源が「明確に定位(specific)」し、「シャープにフォーカス」されていると感じられる 13。逆に、イメージングが悪いと、音像が「ぼやけ(blurred)」たり、位置がふらついたりする。究極の目標は、スピーカーが「仮想的に消え去り(virtually disappear)」、音楽そのものだけが空間に立ち現れることである 24

セパレーションと空気感 (Separation / 分離, Air / 空気感)

セパレーションは、楽器と楽器の間の「空間」が聴き取れるか、つまり個々の音が混濁せずに分離して聴こえるかを示す 22。セパレーションが悪いと、音全体が「混濁した(congested)」あるいは「濁った(muddy)」塊のように聴こえてしまう。

「空気感(Air)」は、楽器の周囲を取り巻く微細な残響や雰囲気感を再現する能力を指す 27。これは、非常に優れた高域の伸びと、録音現場の微細な反響音を忠実に再生することによって生まれる。空気感が豊かだと、サウンドステージがより開放的でリアルに感じられる 8

ディープな音像定位の話題に興味ある方向けの記事(ΦωΦ)

1.3 音色次元 — 音の個性と性格

音の「色合い」や「質感」を表現する用語は、オーディオ評価において最も比喩的で主観的な領域の一つである。日本語の「音色」という言葉は、二つの異なる概念を内包しており、文脈による使い分けが重要となる。

ティンバーとトナリティ (Timbre / 音色 vs. Tonality / 音色)

  • ティンバー (Timbre): 物理学的には、音の波形、特に倍音(overtone)の構成によって決まる、楽器固有の音のキャラクターを指す 29。同じ音程(例えば中央の「ラ」)を弾いても、ピアノとバイオリンの音が違うのはティンバーが異なるためである。ハイフィデリティ・システムは、このティンバーを正確に再現し、ストラディバリウスとグァルネリの音色の違いを描き分ける能力が求められる。
  • トナリティ (Tonality): オーディオ機器やシステム全体が持つ、再生音の全体的な「音調」や「性格」を指す 15。これは機器固有の「色付け(coloration)」であり、ティンバーの忠実な再現とは異なる次元の評価軸である。トナリティは、以下のような記述語で表現される。

トナリティのスペクトラム

  • ウォーム / 暖かい (Warm): 中低域が豊かで、中域が充実している音調。聴き心地が良く、「心地よい(pleasant)」あるいは「芳醇(lush)」と表現されることが多い 8
  • ブライト / 明るい (Bright): 中高域から高域が強調された音調。ディテールが際立つ反面、過度になると「ハーシュ / きつい(Harsh)」あるいは「エッジの立った(Edgy)」刺激的な音になりやすい 6
  • ニュートラル / 色付けのない (Neutral / Uncolored): 特定の周波数帯域に偏りがなく、バランスの取れた音調。理論的には「正確(accurate)」な再生の理想形とされる 15
  • ダーク / 暗い (Dark): 高域が抑えられ、低域が強調された音調。「ブライト」の対極に位置する 8

1.4 時間次元 — 音楽の脈動

音楽は時間芸術であり、そのリズムや躍動感を正しく伝える能力は、オーディオシステムの性能を測る上で極めて重要である。

過渡応答 (Transient Response / トランジェント)

トランジェント(過渡応答)とは、音楽信号の急峻な変化、特に音の立ち上がり(アタック, Attack)と消え際(ディケイ/リリース, Decay/Release)に、システムがどれだけ俊敏に追従できるかを示す能力である 6

優れたトランジェント特性は、「速い(Fast)」あるいは「クリスプ(Crisp)」と表現され、ピアノのアタックやドラムのリムショットが鋭く、切れ味良く再生される。一方、トランジェントが悪いと、「遅い(Slow)」と感じられ、音が「にじんだり(Smear)」、不要な響きが「尾を引く(Hangover)」ことで、音楽の輪郭がぼやけてしまう 34

ペース、リズム、アンド、タイミング (Pace, Rhythm, and Timing / PRaT)

PRaTは、特に英国のオーディオジャーナリズムで重視される概念で、システムが音楽の持つ推進力やリズミカルな一体感をどれだけうまく伝えられるかを評価するものである 6。PRaTが優れているシステムで音楽を聴くと、自然と足でリズムを取りたくなり、音楽に引き込まれるような感覚が得られる。評論では、「リズミカルな躍動感(Rhythmic drive)」や「タイミングが良い(Good timing)」といった言葉で賞賛される 40。PRaTが劣るシステムでは、たとえ音色的に正確であっても、音楽が平板で生命感に欠けるように聴こえることがある。


表1:主要な主観的評価用語(比較用語集)

以下の表は、本章で解説した主要なオーディオ評価用語をまとめ、日英の表現と文化的背景を比較したものである。

用語(英語)用語(日本語)定義文化的ニュアンス・用例
Soundstageサウンドステージ、音場感ステレオ再生によって生み出される仮想的な三次元の演奏空間。広がり、奥行き、高さで評価される。日米欧で共通して使われる重要な評価軸。「スピーカーの存在が消え、ステージが目の前に広がる」26 のような表現が理想とされる。
Imagingイメージング、定位サウンドステージ内での個々の楽器やボーカルの明確な位置関係を描写する能力。「フォーカスがシャープ」「音像が前に出てくる」26 などと表現される。定位の正確さはリアリティの根幹をなす。
Timbreティンバー、音色楽器や声が持つ固有の音の響きや特徴。倍音構成によって決まる。日本語の「音色」はこの意味も含むが、文脈によっては後述のトナリティを指すため注意が必要 30
Tonalityトナリティ、音色オーディオ機器やシステム全体が持つ再生音の全体的な音調や性格。「色付け」とも言われる。Warm, Bright, Neutral などで表現される。日本語の「音色」はこちらの意味で使われることも多い 7
Transient Responseトランジェント、過渡応答音の立ち上がりや消え際など、急峻な信号変化に対するシステムの応答速度。「音離れが良い」44 という長岡鉄男氏の表現は、優れたトランジェント特性を指す。
Pace, Rhythm, and Timing (PRaT)ペース、リズム、タイミング音楽のリズミカルな躍動感や一体感を伝える能力。特に英国のオーディオ文化(Naim, Linn, What Hi-Fi?誌など)で重視される傾向が強い 39
Dynamicsダイナミクス、ダイナミックレンジ再生可能な最も静かな音と最も大きな音の幅。マクロ(大きな音量変化)とマイクロ(微細な音量変化)で評価される。「ダイナミックな表現力に欠ける (Lacks dynamic expression)」45 は、英国誌で頻出する批判的表現。
Air空気感楽器の周囲にある空間の雰囲気や、微細な残響のニュアンス。優れた高域特性とS/N比によってもたらされる。サウンドステージのリアリティを高める重要な要素 8

1.5 詳細用語集 — 音の質感と欠点を描写する語彙

基本的な用語に加え、より繊細な音のニュアンスや、特定の欠点を指摘するために用いられる専門的な表現が存在する。これらの語彙を理解することは、評論記事の意図を深く読み解き、自身の聴感を言語化する上で極めて有用である。

質感とディテール (Texture and Detail)

  • Texture / Texturing (テクスチャー): 音が持つ表面的な質感や構造の知覚を指す 15。写真の粒子(グレイン)のように、音が滑らかか、あるいはざらついているかといった感覚を表現する 15。弦楽器の弦が擦れる音の質感や、ボーカルの息遣いなどがこれにあたる 22
  • Resolution / Definition (解像度 / ディフィニション): 音楽に含まれる微細な情報をどれだけ細かく描き出すことができるかという能力 100。解像度が高いシステムは、リバーブの最後の消え際や、オーケストラ内の個々の楽器の音など、ローレベル・ディテールを明瞭に再現する 14
  • Transparency (透明感): 音に濁りや曇りがなく、見通しが良い状態 15。あたかも汚れた窓ガラスを拭いた後のように、音楽の細部までが明瞭に知覚できる感覚を指す。S/N比の高さや歪みの少なさが、高い透明感につながる 32
  • Palpable / Tangible (実体感 / 触知可能性): 音像が単なる音の集合体ではなく、あたかも触れることができるかのような実体を伴って空間に存在する感覚 102。ボーカルや楽器が、生々しい存在感を持って目の前に現れる様を指す。
  • Holographic (ホログラフィック): サウンドステージとイメージングが極めて高いレベルで両立し、音像が幅、高さ、奥行きを持つ三次元的な存在として知覚される状態 103。スピーカーの存在が完全に消え、リスニングルームに演奏空間そのものが再現されたかのような錯覚を生む 103

音調の性格と豊かさ (Tonal Character and Richness)

  • Liquid / Fluid (流麗さ): 音が硬質でなく、滑らかで一体感があり、自然に流れるように聴こえる様 32。特に中域の表現で用いられることが多い。
  • Silky (シルキー): 高域がビロードのように滑らかで、繊細かつ開放的なさま 37。耳障りなピークがなく、心地よく伸びる高音を賞賛する言葉。
  • Sweet (スイート): 滑らかで、優しく繊細な高域の表現 37。過度な刺激がなく、聴き疲れしない心地よい高音を指す。
  • Rich / Lush (リッチ / 芳醇): 豊かで充実した、官能的な響き 14。特に中低域の倍音が豊かで、音楽全体に厚みと暖かみを与える。
  • Bloom (ブルーム): 音が花開くように、豊かに広がる感覚 107。特にチェロやアコースティックギターのような楽器の胴鳴りが、暖かく空間に満ちていく様を指す。
  • Weight / Heft (重厚感): 特に低域において、音に重みと安定感、そして物理的なパワーが感じられること 12。音が軽くならず、どっしりとした土台の上に音楽が構築されている印象を与える。
  • Lean (リーン / 痩せた): 低域がやや不足しており、全体的に音が細く感じられる状態 14。クール(Cool)な音調よりもさらに低域が控えめな場合に用いられる。
  • Dry (ドライ): 残響成分が少なく、響きが乏しい音 101。デッドな録音環境や、過度に吸音されたリスニングルームで聴く音に近い。
  • Sterile / Clinical (無菌的 / 分析的): 極めてクリーンで歪みがないが、音楽的な魅力や感情的な響きに欠ける音 37。分析的な聴取には向くが、没入感に乏しいというニュアンスで使われることが多い。

負のアーティファクトとカラーレーション (Negative Artifacts and Colorations)

  • Glare (グレア / 眩しさ): 過度に明るく、耳に突き刺さるような不快な音 108。特に中高域にエネルギーが集中しすぎている場合に生じる。
  • Etch / Edgy (エッジ / 輪郭の鋭さ): 音の輪郭が過度に強調され、硬く鋭く感じられる状態 101。ディテールは明瞭に聴こえるが、不自然で聴き疲れしやすい。
  • Shrill / Strident (シュリル / 甲高い): 金属的で耳障りな、甲高い音 37。高域のピークや歪みが原因で生じる、極めて不快な音質。
  • Gritty / Grainy (グリッティ / ざらつき): 音に粗い粒子感やざらつきを感じる状態 15。滑らかさの対極にある表現。
  • Hash (ハッシュ): 非常に粗く、鋭いエッジを持つノイズのような質感 109。歪みの中でも特に耳障りなものを指す。
  • Smear / Blurred (にじみ / ぼやけ): トランジェント特性が悪く、音の輪郭が不明瞭になること 6。個々の音が時間的ににじんでしまい、ディテールが失われる。
  • Congestion / Muddy (混濁 / 濁り): 音が分離せず、ごちゃ混ぜになって聴こえる状態 14。特に中低域の解像度が低い場合に生じやすく、音全体の見通しが悪くなる。
  • Veiled (ヴェールを被った): 音の鮮明さが失われ、まるで薄いヴェールを通して聴いているかのように、ディテールが覆い隠されてしまう状態 32。高域のロールオフやノイズが原因となることが多い。
  • Boomy (ブーミー): 中低域(特に125Hz付近)が過剰に響き、コントロールされていない状態 107。特定の低音だけが強調され、「ワンノート・ベース」になりやすい。
  • Boxy (箱鳴り): スピーカーのエンクロージャー(箱)自体が共振し、音が箱の中で鳴っているように聴こえるカラーレーション 107。特に中低域(250-500Hz付近)に不要な響きが付加される。
  • Honky / Nasal (ホンキー / 鼻声): 手をメガホンのようにして喋った時のような、あるいは鼻をつまんだ時のような不自然な響き 15。中域の特定の周波数(500-700Hz付近)に強いピークがある場合に生じる。

ダイナミクスとインパクト (Dynamics and Impact)

  • Slam / Punch (スラム / パンチ): 低域のインパクトや衝撃力を表現する言葉。ドラムのキックやベースのアタックが、物理的な衝撃として体に伝わってくるような力強い再生音を指す 37
  • Coherence (コヒーレンス / 統一性): マルチウェイスピーカーにおいて、各ドライバーユニット(ウーファー、トゥイーターなど)の音が継ぎ目なく滑らかに繋がり、あたかも単一の音源から鳴っているかのように聴こえること 107
  • Speed (スピード): システムが音楽の急峻な変化に追従する速さの知覚的な印象 37。トランジェントの速さや、音楽全体のペースを遅滞なく再現する能力を指す。

第二部:評価の文化 — 哲学的対立と共通基盤

オーディオ機器の音質を評価する行為は、単なる技術的分析にとどまらない。そこには、評価者がどのような音を「良い音」と考えるかという、深い哲学と文化的な価値観が反映されている。本章では、日本のオーディオ評論を形作った二人の巨匠、欧米の主観主義評論の潮流、そして現代における客観主義の台頭という三つの異なる視点から、オーディオ評価の文化を探求する。

2.1 日本の美学 — 職人技、実在感、そしてエネルギー

日本のオーディオ評論文化は、独自の美意識と哲学に根差している。その代表格として、菅野沖彦氏と長岡鉄男氏という、対照的ながらも絶大な影響力を持った二人の評論家が存在する。

菅野沖彦:「機械の美」の哲学

菅野沖彦氏は、オーディオ機器を単なる音の再生装置としてではなく、工芸品としての美しさを持つ「機械」として捉えた。彼の哲学の核心は、「機械の美しさは、必然的に、その性能を追求したときに生まれる味わいだと思う」という言葉に集約される 47。機能的な必然性から生まれたデザイン、つまり虚飾を排した形態にこそ真の美が宿り、そうした美しさを持つ機器は必ず優れた音を奏でる、と彼は信じていた。この思想は、日本の「匠」の精神にも通じるものであり、精緻な作り込みや触感といった感覚的な要素が、音質と不可分であるという独自の価値観を示している。彼の評論は、単なる音質報告に留まらず、オーディオ機器を生活空間に置き、音楽と対峙するライフスタイルそのものを描くような、文学的な趣を持っていた 48

長岡鉄男:「音離れ」とダイナミックパワーの追求

菅野氏の美学的アプローチとは対照的に、長岡鉄男氏は極めて実践的かつ性能至上主義的な哲学を貫いた。彼の評価基準で最も重視されたのは、「音離れ」、すなわちトランジェントの速さであった 44。音が俊敏に立ち上がり、すっと消えることこそが良い音の第一条件であると考え、その実現のためには多少の音色的クセ(カラーレーション)は許容した。彼が設計・推奨したバックロードホーン型スピーカーは、まさにその哲学の具現化であり、圧倒的なダイナミクスとスピード感を持つ一方で、固有の響きを持つことで知られる 44。また、「オーディオは音量である」「アンプは重量である」といった彼の有名な言葉は、音楽の持つエネルギーを余すことなく再現するためのパワーと、それを支える堅牢な物理的基盤(重い筐体や電源部)を重視する姿勢を端的に表している 44。彼は常にコストパフォーマンスを意識し、多くのオーディオファンが自作で挑戦できる設計を公開するなど、実践的な指導者としての一面も持っていた。

2.2 アングロ・アメリカンの伝統 — 主観主義、音楽性、そしてリズム

欧米、特にアメリカとイギリスのオーディオ評論は、「聴くこと」そのものを評価の中心に据える主観主義の伝統に深く根差している。

J. Gordon Holtと主観的評論の誕生

J. Gordon Holtは、現代の主観的オーディオ評論の父と見なされている。彼は1962年に雑誌『Stereophile』を創刊し、当時の主流であった測定値のみで機器を評価する風潮に反旗を翻した 51。彼の哲学は単純明快であった。「オーディオ製品を評価する最良の方法は、購入者がするであろうことと全く同じこと、すなわちそれを聴くことである」。彼は、「暖かい(warm)」や「きつい(harsh)」といった、今日では当たり前に使われる主観的な語彙を体系化し、オーディオ評論の言語を確立した 51。また、優れたコンポーネントをリストアップする「Recommended Components」という形式も彼が創始したものであり、その影響は計り知れない 53

Robert Harleyと『The Absolute Sound』:リスニング体験の至上性

J. Gordon Holtの遺産は、Harry Pearsonが創刊した『The Absolute Sound』誌、そして現在の編集長であるRobert Harleyへと受け継げられている。Harleyの哲学は、オーディオ機器は「本物の音(the real thing)」のように聴こえるか、そして音楽的な感動を伝えられるかによって評価されるべきだという点にある 4。彼は、測定値が我々の聴覚体験と必ずしも相関しないという考えを明確に支持しており、これは本稿の中心的なテーマとも共鳴する 4。彼の著作は、リスニングを通じてシステムの性能を最大限に引き出すための実践的な知見を提供している。

英国流のPRaT

イギリスのオーディオ評論、特に『What Hi-Fi?』誌などに代表される文化では、「Pace, Rhythm, and Timing (PRaT)」という概念が際立って重視される 39。これは、システムが音楽の持つテンポ感、リズムの正確さ、そしてタイミングの一体感をどれだけ巧みに表現できるかを評価する基準である。この哲学の下では、たとえ音色的に完璧にニュートラルであっても、音楽の躍動感や推進力を伝えられないシステムは高く評価されない。評論では、「リズミカルな躍動感(rhythmic drive)」や「正確なタイミング(precise timing)」が賞賛される一方で 40、「ダイナミックな表現力に欠ける(lacks dynamic expression)」ことは厳しい批判の対象となる 45。これは、分析的な忠実度よりも、音楽への没入感や「楽しさ(fun factor)」を優先する文化的な価値観を反映している。

2.3 現代の客観主義運動 — 検証可能な真実の探求

伝統的な主観主義評論への強力なカウンターとして、近年、測定値を絶対的な基準とする客観主義運動が大きな影響力を持つようになった。

Amir Majidimehrと『Audio Science Review』(ASR):測定第一のパラダイム

元マイクロソフトのエンジニアであるAmir Majidimehrが設立したウェブサイト『Audio Science Review (ASR)』は、この運動の震源地である 56。ASRの哲学は、Audio Precision社製の高性能測定器を用いて、SINAD(信号対ノイズ+歪み比)などの客観的なデータを徹底的に計測し、その結果に基づいて機器の性能を評価することにある。このアプローチにより、エンジニアリング的に優れた、聴感上透明(transparent)な機器を特定し、一方で性能の低い製品を科学的根拠に基づいて批判する。

客観主義者の主張と主観主義者への批判

ASRの視点では、十分に優れた測定値を持つ電子機器(DACやアンプなど)の間で知覚される音質差の多くは、実際の音響的な差異ではなく、プラセボ効果や確証バイアスといった認知バイアスによるものだとされる 56。そのため、主観的な主張の妥当性を検証する唯一の科学的な方法は、厳格に管理されたブラインドテスト(ABXテスト)であると彼らは主張する 58

主観主義者からの反論

一方で、ASRのアプローチに対しても批判が存在する。その批判の要点は、SINADのような限られた測定項目に過度に焦点を当てることで、過渡応答や空間表現能力といった、標準的な測定では捉えきれない他の重要な性能側面が見過ごされる可能性があるという点である 56。また、「測定できないものは存在しない」という姿勢は、まだ完全には解明されていない心理音響学の複雑さを軽視しているとの指摘もある 56

これらの異なる哲学を比較検討することで、一つの重要な結論が導き出される。「良い音」の定義は普遍的なものではなく、文化的な優先順位によって形成されるということである。日本の評論家が重視する工芸的な美意識(菅野)や生のエネルギー(長岡)、英国の評論家が求めるリズミカルな楽しさ(PRaT)、米国の主観主義者が追求するリアルな音響空間の再現(Holt/Harley)、そして客観主義者が信奉する測定上の完璧さ(ASR)。これらはすべて、オーディオという趣味の多様な側面を照らし出す、それぞれに正当性を持つ価値観なのである。評論を読む際には、その書き手がどの文化的・哲学的背景に立っているのかを理解することが、その評価を正しく解釈する鍵となる。


第三部:グラフの向こう側 — 聴感上の差異を生む要因の探求

オーディオの世界で最も熱い議論の一つに、「なぜ測定値が同じように見える機器間で、聴感上の違いが生まれるのか」という問いがある。周波数特性やTHD+Nといった基本的な測定値に有意な差がないにもかかわらず、多くのリスナーが明確な音質の違いを報告する。この現象は、単なる心理的な思い込み(プラセボ効果)として片付けられることも多いが、本章ではその背後にある科学的・技術的な要因を深く掘り下げる。デジタル領域のタイミング精度、アナログ回路の根幹をなす電源の質、そして最終的に音を放射する物理的な構造に至るまで、従来のグラフには現れにくい差異の源泉を探求する。

3.1 デジタル領域 — タイミングとフィルタリングの妙

デジタルオーディオの品質は、「0」と「1」のデータが正確であること(ビットパーフェクト)だけで決まるわけではない。そのデータが「いつ」処理されるかという時間軸の精度、そしてデータをアナログ信号に変換する際の哲学が、音質に決定的な影響を与える。

ジッター:時間軸精度の敵

ジッターとは、デジタル信号における時間軸の微細な揺らぎのことである 60。デジタルデータが正確なタイミングからずれてD/Aコンバーターに到達すると、アナログ波形に変換される際に歪みが生じる。現代の高性能なDACは、内部クロックによってこのジッターを抑制する能力(ジッターリジェクション)に優れているが、完全な排除は難しい。残留したジッターは、音の輪郭をぼやけさせ(「スミア」)、特にステレオイメージの安定性や音像のフォーカス感を損なう原因となり得る 61。AES(Audio Engineering Society)の論文でも、ジッターが聴感上の影響を及ぼす可能性は認識されており、たとえそのレベルが非常に低くとも、音の透明感や微細なニュアンスの再現性に影響を与えることが示唆されている 63。これは、二つのビットパーフェクトなデータストリームが、伝送経路(トランスポート)のタイミング精度の違いによって、最終的な音質に差を生む科学的根拠の一つである。

DAC設計思想の対立:ノンオーバーサンプリング (NOS) vs. オーバーサンプリング (OS)

DACの設計哲学の違いは、測定値と聴感の乖離を説明する上で最も象徴的な例である。

  • オーバーサンプリング (OS) の仕組み: 現在の主流であるOS方式のDACは、入力されたデジタル信号を内部のデジタルフィルターで何倍にも高いサンプリング周波数に引き上げる(オーバーサンプリング) 65。これにより、D/A変換時に発生する不要な高周波ノイズ(エイリアシング)を可聴帯域から遠ざけることができる。その結果、後段のアナログフィルターを緩やかな特性に設計でき、可聴帯域内での位相歪みを抑えることが可能となる。この方式は、フラットな周波数特性や低い歪率といった、測定上非常に優れた結果をもたらす 65
  • ノンオーバーサンプリング (NOS) の仕組み: 一部のオーディオ愛好家から根強い支持を得ているNOS方式のDACは、このデジタルフィルターを意図的に省略し、入力信号を元のサンプリング周波数のままD/A変換する 66。この設計の支持者たちは、デジタルフィルターが引き起こす特有のアーティファクト、特にインパルス信号の直前に現れる不自然な響き(
    プリリンギング)を嫌う。プリリンギングは自然界には存在しない現象であり、これが音の立ち上がりの鋭さや生々しさを損なうと彼らは主張する。NOS DACは、このプリリンギングを原理的に発生させないため、より「自然で」「滑らかで」「アナログライクな」サウンドが得られるとされる 65
  • トレードオフの存在: NOS方式の「代償」は、測定値の悪化である。デジタルフィルターがないため、エイリアシングノイズを除去するために急峻なアナログフィルターが必要となるが、それでも高域の減衰(ロールオフ)や、高周波成分が折り返して可聴帯域内に歪みを生じさせる(イメージング・アーティファクト)といった問題が避けられない 66。ここに、測定値と聴感の評価が逆転しうる典型的な例が見られる。OS DACは測定上「正確」だが、一部のリスナーには「不自然」に聴こえる可能性があり、NOS DACは測定上「不正確」だが、一部のリスナーには「音楽的」に聴こえる可能性がある。これは、どちらが優れているかという単純な問題ではなく、どのような種類の「不完全さ」を許容するかという設計哲学の違いなのである。

3.2 アナログ領域 — 清浄な土台の重要性

デジタル信号がどれほど完璧であっても、最終的に我々の耳に届くのはアナログ信号である。アナログ回路の性能は、その土台となる電源の質と、信号が通過する物理的な部品の特性に大きく左右される。

電源の品位とノイズ

全てのオーディオ回路は直流(DC)電源で動作する。この電源にノイズ(リップルや変動)が含まれていると、それがオーディオ信号に変調をかけてしまい、音質を著しく劣化させる 70。理想的なテスト条件下での周波数特性やTHD測定では現れにくいこの電源ノイズは、聴感上は背景の「濁り」や「ヴェール」として知覚され、ダイナミックレンジの低下や微細なディテールのマスキングを引き起こす 72。オーディオ愛好家が高品質な電源ユニットや電源コンディショナーに投資する理由は、この「クリーンな土台」を確保し、信号の純度(シグナル・インテグリティ)を守ることにある。

スピーカーエンクロージャーの材質と共振

スピーカーは、ドライバーユニットだけでなく、それらを収めるエンクロージャー(筐体)も音質に大きな影響を与える 73。理想的なエンクロージャーは、音響的に完全に不活性(inert)で、それ自体が音を発しないことである。しかし、現実には全ての素材が固有の共振周波数を持つ。

  • MDF (中密度繊維板): 高い密度と均一な内部構造を持つため、共振を効果的に抑制(ダンプ)しやすく、スピーカーエンクロージャーの素材として広く採用されている 74
  • 合板 (Plywood): MDFと同様に広く使われるが、層構造のため特有の響きを持つことがある 74
  • 無垢材 (Solid Wood): 密度が不均一で、温度や湿度によって特性が変化しやすいため、共振のコントロールが難しく、一般的にはスピーカーエンクロージャーには不向きとされる 75
  • 樹脂・プラスチック (Plastic): 十分な厚みと内部補強がなければ、共振しやすく、音が「箱鳴り」する原因となりやすい 76

同じドライバーとクロスオーバーネットワークを使用していても、エンクロージャーの材質や内部の補強構造が異なれば、共振の管理方法が違うため、最終的な音は明確に変化する。この差異は、単純な軸上周波数特性測定だけでは完全には捉えきれない。

ケーブル論争:科学的視点

オーディオにおける最も白熱した議論の一つがケーブルである。客観主義的な立場からは、適切な導体断面積(ゲージ)を持ち、欠陥のないケーブルであれば、音質に聴感上の差は生じないとされる 77。一方で、主観主義者やメーカーは、導体の素材や純度、絶縁体(誘電体)の材質がエネルギーを吸収する「誘電吸収」現象、そして外部ノイズからの遮蔽(シールド)性能などが音質に影響を与えると主張する 78

この論争を科学的に捉えるならば、ケーブルが持つ静電容量(キャパシタンス)、インダクタンス、抵抗といった電気的特性が、接続される機器の入出力インピーダンスと相互作用し、特に高周波数域でフィルターとして機能する可能性は否定できない。その影響は通常、非常に微細であるが、システムの組み合わせによっては聴感上の変化として現れる可能性も理論的には存在する。しかし、それ以上に重要なのは、ケーブル交換という行為自体が、リスナーに強い期待バイアスを抱かせ、記憶に基づく比較の不確かさと相まって、心理的な影響を大きく受けるという点である 77

3.3 最後のフロンティア — 心理音響学と知覚

これまでの議論を統合するのが心理音響学の視点である。人間の脳は、オーディオアナライザーのような精密測定器ではなく、非常に高度なパターン認識システムとして機能する 79

エラーの心理音響的重み

重要なのは、測定されるエラーの「量」よりも、その「種類」である可能性が高い。人間の聴覚は、生存本能から、音の立ち上がりや時間的な変化(トランジェント)に対して極めて敏感にできている 79。そのため、デジタルフィルターによるプリリンギングや、ジッターによる音像の揺らぎといった「時間軸上のエラー」は、「不自然な」アーティファクトとして脳に認識されやすい。一方で、NOS DACに見られる緩やかな高域ロールオフや、真空管アンプが生成する低次の倍音歪みのような「音色的なエラー」は、自然界の音響現象と類似しているため、脳がより寛容に受け入れる、あるいは「音楽的」な響きとして好意的に解釈する可能性がある 81

マスキング効果

心理音響学におけるもう一つの重要な概念がマスキングである。これは、ある音が別のより大きな音によって聴こえなくなる現象を指す 79。音楽の複雑なパッセージの中では、かなりのレベルの歪み成分も元の音楽信号によってマスクされ、知覚されにくくなる。しかし、音楽が静かになった瞬間には、電源由来の微細なノイズフロアが知覚され、「静寂の質」や「黒い背景」といった印象を左右する。

結論として、測定値に現れない聴感上の差異は、単一の要因ではなく、時間軸の精度、アナログ回路の品位、物理的な共振、そしてそれらのエラーを人間の脳がどのように解釈するかという心理音響学的な要因が複雑に絡み合った結果として生じる。オーディオ評価における真の探求は、完璧な測定値を目指すことだけでなく、どの種の「不完全さ」が音楽体験にとって最も害が少ないか、あるいは最も心地よく響くかを見極めることにあるのかもしれない。


第四部:クリティカルリスニング実践ガイド

これまでの理論的な知識を基に、本章では読者自身が体系的かつ効果的な音質評価を行うための実践的なフレームワークを提供する。システムの性能を最大限に引き出すための環境設定から、評価の基準となるリファレンス音源の選定、そして主観的な印象を客観的に検証するための比較試聴法まで、具体的な手順を解説する。

4.1 環境の準備 — 最後のコンポーネントとしての部屋

オーディオシステムの音質は、部屋の音響特性によって大きく左右される。部屋そのものが最後の、そして最も影響力の大きいコンポーネントであると認識することが、クリティカルリスニングの出発点である。

スピーカーとリスナーの配置

最適な音場(サウンドステージ)と周波数バランスを得るためには、スピーカーとリスニングポジションの配置が極めて重要である。

  • 正三角形の配置: 左右のスピーカーとリスニングポジションが正三角形を形成するように配置するのが基本である。これにより、最も安定したステレオイメージが得られる 84
  • 壁からの距離: スピーカーを壁、特に背面と側面の壁に近づけすぎると、低音が不自然に強調されたり、一次反射音が直接音と干渉して音像をぼやけさせたりする原因となる(SBIR: Speaker-Boundary Interference Response)。一般的に、壁から少なくとも 1m 程度は離すことが推奨されるが、部屋の状況に応じて調整が必要である 84
  • リスニングポジション: 部屋の長さのちょうど中央や壁際は、定在波(standing wave)の影響で特定の周波数が極端に強まったり弱まったりする。部屋の長さの 38% の位置(いわゆる「38%ルール」)などを参考に、低域のレスポンスが最もフラットになる場所を探すことが望ましい 84

基本的な音響調整

専門的な測定器がなくとも、基本的な音響調整(ルームアコースティック・トリートメント)は音質を劇的に改善する。

  • 一次反射点の処理: スピーカーとリスニングポジションの間の側面壁と天井には、音の初期反射が発生する「一次反射点」が存在する。この点に吸音パネルを設置することで、音像のぼやけや周波数特性の乱れを大幅に抑制できる。一次反射点は、側壁に鏡を当てながらリスニングポジションに座り、鏡の中にスピーカーが見える位置として簡単に見つけることができる(「ミラー・トリック」) 84
  • 低域の処理: 低周波のエネルギーは部屋の隅に溜まりやすい。部屋の四隅に「ベーストラップ」と呼ばれる低域専用の吸音材を設置することで、ブーミーで不明瞭な低音を改善し、引き締まった再生音を得ることができる 84

4.2 リファレンス・プレイリストの構築 — 評価の道具

一貫性のある評価を行うためには、信頼できる「ものさし」となるリファレンス音源が不可欠である。

選定基準

リファレンス・プレイリストは、以下の基準に基づいて構築することが推奨される。

  • 熟知している音源: 最も重要なのは、その楽曲を細部まで熟知していることである。繰り返し聴き込むことで、その録音が「本来どのように聴こえるべきか」という内的な基準が形成される 88
  • 多様性: 特定のジャンルに偏らず、クラシック、ジャズ、ロック、電子音楽など、幅広いジャンルの楽曲を含める。これにより、システムの多様な側面(ダイナミクス、音色、リズムなど)を評価できる 89
  • 録音品質: 録音品質の高い、いわゆる「優秀録音盤」だけでなく、意図的に圧縮されたり、古い録音でダイナミックレンジが狭い音源なども含める。これにより、システムの解像度だけでなく、音楽を楽しく聴かせる「寛容さ」も評価できる 89

推奨リファレンストラック

以下の表は、システムの各性能を評価するために特に有用な楽曲の例である。それぞれの楽曲で、どの音響的側面に注目して聴くべきかの指針も示した。

表2:システム評価のための推奨リファレンストラック

アーティスト / 曲名アルバム主な評価項目聴きどころ典拠
Tom Waits / “Alice”Alice音色の質感、サウンドステージ、雰囲気彼の声の擦れたエッジやサックスのリードのざらつきに注目し、中域の解像度を評価する。背後から現れるように聴こえるウッドベースで、サウンドステージの奥行きを確認する。90
Gordon Lightfoot / “Sundown”Sundownディテール、空間表現、楽器のバランス重ねられたアコースティックギターのきらめきと明瞭度を聴く。各楽器がミックス内で占める明確な空間配置に注目し、システムの分離能力とサウンドステージの広さを評価する。90
Eagles / “Hotel California” (Live)Hell Freezes Overダイナミクス、サウンドステージ、低域の解像度冒頭のアコースティックギターの鮮明な響きと、観客の拍手による広大な空間表現を聴く。曲中盤で入るキックドラムの重量感と輪郭で、低域の再生能力とマクロダイナミクスを評価する。91
Dave Brubeck Quartet / “Take Five”Time Outイメージング、リズム(PRaT)、音色の忠実度ドラムソロにおけるシンバルやスネアの位置が明確に定位するかを確認する。アルトサックスの音色が自然で、かつピアノとベースのリズムセクションが一体となってスウィングしているかを聴き、システムのPRaTを評価する。91
Yosi Horikawa / “Bubbles”Vapor空間表現、トランジェント、超低域様々な物が跳ねる音の定位と移動が、三次元的にリアルに描写されるかを確認する。微細な音の立ち上がりの速さでトランジェント特性を、空間を揺るがすような超低域でサブベースの再生能力を評価する。91
Taylor Swift / “Anti-Hero”Midnights奥行き、ボーカルレイヤー、現代的なプロダクションドライなボーカルとリバーブのかかったボーカルの層が前後関係(奥行き)を形成しているかを聴く。シンセサイザーの各パートがボーカルの合間にどのように配置されているかで、現代的なポップスのミックスを再現する能力を評価する。92

4.3 比較の技術 — A/BテストとABXテスト

機器の比較評価をより厳密に行うためには、体系的な手法を用いることが有効である。

レベルを合わせたA/Bテスト

二つの機器(AとB)を比較する際、最も重要なのは両者の再生音量を厳密に合わせることである。人間の聴覚は、わずか 0.5dB 程度の音量差でも、音量が大きい方を「音質が良い」と誤認する傾向がある 93。比較には、同じ楽曲の短いフレーズを繰り返し再生し、素早く切り替えながら聴くのが効果的である。

ABXブラインドテスト入門

ABXテストは、知覚された音質差が本物か、それとも心理的なバイアスによるものかを科学的に検証するための手法である 94

  • 手順: リスナーは、既知の音源Aと音源Bを自由に聴き比べることができる。その後、未知の音源Xが提示される。XはAかBのどちらかと同一であり、リスナーはXがAとBのどちらであるかを当てる。この試行を複数回(例えば10回以上)繰り返し、その正答率が偶然によるもの(50%)を統計的に有意に上回るかどうかで、AとBの間に聴感上の差異が識別可能かを判断する 97
  • 実践: Foobar2000のようなPC用音楽再生ソフトウェアには、ABXテストを行うためのプラグインが用意されている 98。これを用いれば、例えば非圧縮のWAVファイル(A)と高ビットレートのMP3ファイル(B)の違いを自分で検証することができる。この手法は、高価なケーブルやアクセサリーの効果を自己検証する際の強力なツールとなる。

結論:あなた自身のリスニング哲学を育む

本稿では、オーディオ評価の多岐にわたる側面を包括的に探求してきた。音を記述するための精密な言語、その評価の背景にある文化的な価値観、測定値だけでは捉えきれない音質差を生む深遠な科学、そしてそれらを自ら検証するための実践的な手法。これらの知識は、オーディオという趣味をより深く、より知的に楽しむための羅針盤となるはずである。

重要なのは、一つの教義に固執しないことである。純粋な主観主義も、厳格な客観主義も、オーディオの全体像を捉える上ではそれぞれに限界がある。科学は、我々が何を聴いているのかを理解するための強力な基盤を提供する。ジッター、デジタルフィルターの特性、電源ノイズといった要因が、なぜ聴感上の差異を生み得るのかを知ることで、我々は根拠のない神話から解放される。同時に、ABXテストのような手法は、我々自身の認知バイアスを自覚させ、より謙虚なリスナーになるための手助けとなる。

しかし、最終的にオーディオシステムの価値を決めるのは、測定値の優劣ではなく、それがもたらす音楽体験の豊かさである。菅野沖彦氏が説いた機械の美学、長岡鉄男氏が追求した音楽のエネルギー、英国の評論家が重視するリズムの楽しさ。これら全てが、音楽を享受するための異なる、しかし等しく価値あるアプローチを示している。

本稿で得た知識を武器に、読者諸賢はもはや他人の評価を鵜呑みにする必要はない。自らの耳を信頼し、同時にその限界を認識し、自分自身の聴感を磨き上げることができる。そして、自分にとっての「ハイフィデリティ」とは何かを定義し、その個人的な理想を実現するシステムを自信を持って構築していくことができるだろう。この「リスナーズ・コンパス」が指し示すのは、唯一絶対の目的地ではない。広大で魅力的なオーディオの世界を、深い洞察と確信を持って航海するための、あなただけの方位磁針なのである。

引用文献

1. Sounds Like? An Audio Glossary - Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/sounds-audio-glossary
2. 音質 - Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%B3%E8%B3%AA
3. Listening Tests and Subjective Evaluation - Arendal Sound, https://arendalsound.com/guide/listening-tests-and-subjective-evaluation/
4. Articles by Robert Harley’s Profile | The Absolute Sound Journalist | Muck Rack, https://muckrack.com/robert-harley-2/articles
5. Measurements, Listening, and What Matters in Audio - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/measurements-listening-and-what-matters-in-audio/
6. [Glossary] An Audiophile Guide to Describing Sound - Headphonesty, https://www.headphonesty.com/sound-description-glossary/
7. 第2回:オーディオ用語がよくわかりません。 | 音楽之友社が運営するWebマガジン「ONTOMO(オントモ)」のブログ。音楽/オーディオ雑誌発のこだわりの限定品や、情報を発信します。, http://blog.ontomo-shop.com/?eid=7
8. Audio Terms Defined - HiFiGo, https://hifigo.com/blogs/guide/audio-terms-defined
9. オーディオ理論>理想的なスピーカー周波数特性、人の聴覚、音質改善の方法、他 - TUMUGI, https://tumugi-wa.blog.jp/archives/80660984.html
10. A特性とは?C特性やZ特性など音圧レベル各特性の違いと使い分けについて - レックス, https://www.rex-rental.jp/feature/1073/note/acz-weighting
11. [補足2あり]周波数特性とイコライジングと・・・・ “音響心理学(?!)” と・・・・ (笑), https://ameblo.jp/powerdog/entry-11343442136.html
12. Audiophile Glossary: Sound - Audio Advisor Learning Center, https://learningcenter.audioadvisor.com/audiophile-glossary-sound/
13. Please help define these audiophile words | AudioShark Forums, https://www.audioshark.org/threads/please-help-define-these-audiophile-words.8148/
14. Sounds Like? An Audio Glossary Glossary: I-M | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/sounds-audio-glossary-glossary-i-m
15. HiFi Decoded: An Audiophile Terminology Guide - Moon Audio, https://www.moon-audio.com/pages/audiophile-terms-guide
16. Total Harmonic Distortion vs. THD+N: Differences Explained | Audio Precision | The Global Leader, https://www.ap.com/blog/thd-and-thdn-similar-but-not-the-same
17. Total harmonic distortion - Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Total_harmonic_distortion
18. THD (total harmonic distortion). : r/audiophile - Reddit, https://www.reddit.com/r/audiophile/comments/1e0x4di/thd_total_harmonic_distortion/
19. オーディオシステムの音を表現する10の「イケてる用語」を解説してみる【初心者入門】, https://www.omorodive.com/2021/10/audio-beginners-10-terms.html
20. Audiophile Terminology: A Beginner’s Guide - HIFI Trends, https://hifitrends.com/2023/08/29/audiophile-terminology-a-beginners-guide/
21. www.audioresurgence.com, https://www.audioresurgence.com/audiophile-reviewers-glossary-of-terms#:~:text=Soundstage%20%E2%80%93%20refers%20to%20the%20spatial,and%20vocalists%20within%20that%20space.
22. What do the commonly used “audiophile terms” mean (used mostly in product reviews) : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/19dzp0c/what_do_the_commonly_used_audiophile_terms_mean/
23. What is a Soundstage? - Audioengine, https://audioengine.com/explore/what-is-a-soundstage/
24. Perlisten S7t loudspeaker | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/perlisten-s7t-loudspeaker
25. 名門JBLサウンドをより身近にするSTAGE 250BとSTAGE 280Fをレビュー - PHILE WEB, https://www.phileweb.com/sp/review/article/202409/18/5729.html
26. 要注目の新興ブランド、ラトビア「アレタイ」スピーカー試聴 …, https://www.phileweb.com/sp/review/article/202412/18/5867.html
27. The concept of ‘sound stage’ seen in reviews. | Audio Science …, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/the-concept-of-sound-stage-seen-in-reviews.14409/
28. What Is Hi-Fi Audio? A Beginner’s Guide | Sonos Blog, https://www.sonos.com/en-us/blog/what-is-hi-fi-audio
29. 音色, https://tomari.org/main/java/audioapi/audio_neiro.html
30. 音楽における音色とは何か:完全初心者ガイド - eMastered, https://emastered.com/ja/blog/what-is-timbre-in-music
31. 音楽における音色とは何か? - eMastered, https://emastered.com/ja/blog/what-is-tone-in-music
32. Audiophile Glossary - Apos, https://apos.audio/blogs/news/audiophile-glossary
33. High fidelity - Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/High_fidelity
34. スピーカーに要求される重要な性能の中で、“Transient”(トランジェント)というものをご存じだろうか?英和辞書で引くと、「一時の、瞬間的な」と書かれている。オーディオ的にいえば - 小原 由夫の Sight and Sound | ECLIPSE Home Audio Systems, https://www.userlist-eclipse-td.com/sightandsound/ver1/vol6.html
35. 【オーディオ教養強化辞典】トランジェント・レスポンスとは, https://s.response.jp/article/2015/12/26/266862.html
36. 【オーディオ教養強化辞典】過渡特性(トランジェント)trasient response とは | Push on! Mycar-life, https://www.mycar-life.com/article/2015/12/25/3971.html
37. Sounds Like? An Audio Glossary Glossary: R-S - Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/sounds-audio-glossary-glossary-r-s
38. Sounds Like? An Audio Glossary Glossary: F-H - Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/sounds-audio-glossary-glossary-f-h
39. PRaT: Audio System Timing In Context | The Ear, https://the-ear.net/how-to/prat-a-matter-of-timing/
40. What Hi-Fi? Sound and Vision - September 2015 - Exact Editions, https://ocean.exacteditions.com/issues/45246/page/48
41. AudioStereo — ATC Reviews, http://www.audiostereo.ro/ATC_reviews.html
42. Leema Acoustics Stream review - TechRadar, https://www.techradar.com/reviews/audio-visual/hi-fi-and-audio/cd-players-and-recorders/leema-acoustics-stream-316718/review
43. オーディオと音色~アンプの音色を決める要 | オーディオ快路, https://function5.biz/blog/douraku/2025/02/25845.php
44. 長岡鉄男氏のこと - オーケストラ再生のオーディオ, http://audio.nomaki.jp/nagaoka/
45. EB Acoustics EB2 review - TechRadar, https://www.techradar.com/reviews/audio-visual/hi-fi-and-audio/hi-fi-and-av-speakers/eb-acoustics-eb2-916756/review
46. Devialet Phantom Reactor 600 review - What Hi-Fi?, https://www.whathifi.com/reviews/devialet-phantom-reactor-600
47. 集大成した「別冊ステレオサウンド『菅野沖彦著作集<上巻>』」、好評発売中, https://online.stereosound.co.jp/_ct/17319915
48. 追悼 菅野沖彦先生 - B&Wを鳴らす逆もどりオーディオ, https://mcintosh.exblog.jp/28745165/
49. 長岡鉄男の弊害 | ニャンコの音楽とオーディオでまったりした日々, https://ameblo.jp/tiromie/entry-12673369189.html
50. オーディオ批評界の巨人・長岡鉄男 ハイファイ堂メールマガジン 第876号 京都商品部, https://www.hifido.co.jp/merumaga/kyoto_shohin/201113/index.html
51. J. Gordon Holt - Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/J._Gordon_Holt
52. 40 Years of Stereophile, https://www.stereophile.com/content/40-years-stereophile
53. STEREOPHILE - HIGH-END AUDIO and Arthur Salvatore, https://www.high-endaudio.com/RR-STEREOPHILE.html
54. Best hi-fi systems 2025: CD, vinyl and streaming music players for the home, https://www.whathifi.com/best-buys/all-in-one-systems/best-hi-fi-systems
55. JBL HDI 5.1 review - What Hi-Fi?, https://www.whathifi.com/reviews/jbl-hdi-51
56. I’m tired of everyone’s bullshit. - Audio Science Review (ASR) Forum, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/im-tired-of-everyones-bullshit.63409/
57. A bit about your host… | Audio Science Review (ASR) Forum, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/a-bit-about-your-host.1906/
58. Letters to the editor – Weeks #28 – 30, 2022 | Darko.Audio, https://darko.audio/2022/07/letters-to-the-editor-weeks-28-29-2022/
59. Great interview with Amir Majidimehr of Audio Science Review : r/BudgetAudiophile - Reddit, https://www.reddit.com/r/BudgetAudiophile/comments/o8ke4z/great_interview_with_amir_majidimehr_of_audio/
60. Does AES to AES cause jitter? - Gearspace, https://gearspace.com/board/high-end/711273-does-aes-aes-cause-jitter.html
61. High-Resolution Audio - AES, https://aes2.org/audio-topics/high-resolution-audio-2/
62. Sound difference in digital audio interfaces ? Can such thing exist ? - Page 2 - Gearspace, https://gearspace.com/board/mastering-forum/1144482-sound-difference-digital-audio-interfaces-can-such-thing-exist-2.html
63. Detection threshold for distortions due to jitter on digital audio - ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/242508896_Detection_threshold_for_distortions_due_to_jitter_on_digital_audio
64. AES Convention Papers Forum » Jitter: Specification and Assessment in Digital Audio Equipment, https://secure.aes.org/forum/pubs/conventions/?elib=6772
65. (Non) Oversampling | Magna Hifi, https://www.magnahifi.com/blog/news-2/non-oversampling-282
66. NOS DAC. Non-Oversampling DAC [Advantages, Disadvantages] - AuI ConverteR 48x44, https://samplerateconverter.com/educational/nos-dac
67. Delta Sigma vs Non-oversampling (NOS) R2R DAC - Ultimate Guide - SW1X Audio Design, https://sw1xad.co.uk/technology_post/delta-sigma-vs-non-oversampling-r2r-dac-designs/
68. To over-sample or not. : r/audiophile - Reddit, https://www.reddit.com/r/audiophile/comments/2s6rq3/to_oversample_or_not/
69. The importance of upsampling when using a NOS DAC - Gieseler Audio - StereoNET, https://www.stereonet.com/forums/topic/624510-the-importance-of-upsampling-when-using-a-nos-dac/
70. The Importance Of Signal Integrity In Audio - FasterCapital, https://fastercapital.com/topics/the-importance-of-signal-integrity-in-audio.html/1
71. Power and Signal Integrity: Essential for Modern Electronics - Electrohob, https://electrohob.com/power-and-signal-integrity-in-todays-electronics/
72. How to enhance power and signal integrity with low noise and low ripple design techniques - Texas Instruments, https://www.ti.com/lit/pdf/SSZTD54
73. How to Choose Loudspeaker Enclosure Design, Material & Type - MISCO Blog, https://blog.miscospeakers.com/loudspeaker-enclosure-design/
74. Exploring Different Types of Speaker Enclosures - Audio Intensity, https://audiointensity.com/blogs/car-subwoofer-enclosures/types-of-speaker-enclosures
75. Speaker Box Material — Solid Wood or MDF? - Woodweb.com, https://woodweb.com/knowledge_base/Speaker_Box_Material__Solid_Wood_or_MDF.html
76. Will speakers with plastic enclosure sound better transplanted into mdf? : r/diyaudio - Reddit, https://www.reddit.com/r/diyaudio/comments/1943tw1/will_speakers_with_plastic_enclosure_sound_better/
77. Do cables really make a difference? And if so what are the factors at play? : r/audiophile, https://www.reddit.com/r/audiophile/comments/jbc4ng/do_cables_really_make_a_difference_and_if_so_what/
78. BREAK IN: REAL OR IMAGINED? - Galen Carol Audio, https://www.gcaudio.com/tips-tricks/break-in-real-or-imagined/
79. Psychoacoustics - Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Psychoacoustics
80. Master Quality Authenticated: The Interview - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/meridians-master-quality-authenticated-the-interview/
81. Psychoacoustics: how perception influences music production - iZotope, https://www.izotope.com/en/learn/psychoacoustics-how-perception-influences-music-production
82. Psychoacoustic Models for Perceptual Audio Coding—A Tutorial Review - MDPI, https://www.mdpi.com/2076-3417/9/14/2854
83. Psychoacoustics 101: How To Manipulate Emotions With Sound - Unison Audio, https://unison.audio/psychoacoustics/
84. Audiophile Room Treatment: Set Up Your Space for Pristine Sound - GIK Acoustics, https://www.gikacoustics.com/audiophile-2-channel-listening-room-acoustics/
85. The Perfect Listening Room - Audio Gear Talk - Roon Labs Community, https://community.roonlabs.com/t/the-perfect-listening-room/230169
86. From The Audiophile’s Guide: Optimizing the Listening Room - PS Audio, https://www.psaudio.com/blogs/copper/from-em-the-audiophile-s-guide-em-optimizing-the-listening-room-3
87. Building a Listening Room - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/building-a-listening-room/
88. Studio guy moving into the live world: What are your reference tracks for testing a space?, https://www.reddit.com/r/livesound/comments/w8xido/studio_guy_moving_into_the_live_world_what_are/
89. The ultimate music tracks to test your hi-fi system, https://www.whathifi.com/features/best-test-tracks-to-trial-your-hi-fi-system
90. The Listeners Compass: Reference Tracks by Jamie Madden - - Roon Labs, https://blog.roonlabs.net/the-listeners-compass-reference-tracks-jamie-madden/
91. What are your favorite audiophile/reference tracks? : r/audiophilemusic - Reddit, https://www.reddit.com/r/audiophilemusic/comments/11xr452/what_are_your_favorite_audiophilereference_tracks/
92. 10 Reference Tracks You Should Be Using for Mixing in 2024 - iZotope, https://www.izotope.com/en/learn/mixing-reference-tracks
93. SUMMER MUSINGS: Defining “subjective” and “objective” audiophile evaluations., http://archimago.blogspot.com/2024/07/summer-musings-defining-subjective-and.html
94. 目隠しABXテストとは? - 音風景ブログ, https://kamedo2.hatenablog.jp/entry/20111017/1318805121
95. ABX test - Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/ABX_test
96. Statistics of ABX Testing | madronadigital, https://www.madronadigital.com/statistics-of-abx-testing
97. ABX ダブル・ブラインドテスト, https://www.ne.jp/asahi/shiga/home/MyRoom/abx.htm
98. ABXテストって正確なの? : r/audiophile - Reddit, https://www.reddit.com/r/audiophile/comments/11pfv72/is_the_abx_test_accurate/?tl=ja
99. is the ABX test accurate? : r/audiophile - Reddit, https://www.reddit.com/r/audiophile/comments/11pfv72/is_the_abx_test_accurate/
100. 20 Audiophile Terms Explained: A Quick Guide - Plunge Audio, https://plungeaudio.com/blogs/news/20-audiophile-terms-explained
101. People using descriptive words on high-fi flat audio - Sound Design Stack Exchange, https://sound.stackexchange.com/questions/45402/people-using-descriptive-words-on-high-fi-flat-audio
102. Audiophile Glossary: Audio Descriptors - Audio Advisor Learning Center, https://learningcenter.audioadvisor.com/audiophile-glossary-audio-descriptors/
103. what is holographic imaging? : r/audiophile - Reddit, https://www.reddit.com/r/audiophile/comments/pms4v7/what_is_holographic_imaging/
104. What is holographic audio imaging? - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=luVAoECz0a0
105. Learn the language of good sound - Crutchfield, https://www.crutchfield.com/learn/homeaudio/introguideexcerpt.html
106. Audiophile Reviewers Glossary of Terms - Audio Resurgence, https://www.audioresurgence.com/audiophile-reviewers-glossary-of-terms
107. Sounds Like? An Audio Glossary Glossary: B-C | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/sounds-audio-glossary-glossary-b-c
108. Glare - PS Audio, https://www.psaudio.com/blogs/pauls-posts/glare
109. Sounds Like? An Audio Glossary Glossary: A | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/sounds-audio-glossary-glossary