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Audio-Technica ATH-ADX7000 レビュー: 「空気を聴く」哲学の再定義。ADX5000の神話を超克する純度と温度

Audio-Technica ATH-ADX7000 レビュー: 「空気を聴く」哲学の再定義。ADX5000の神話を超克する純度と温度

2025/11/17 公開
Audio-Technica
ATH-ADX7000

我々オーディオ評論家という人種にとって、オーディオテクニカのフラッグシップ機、特に「AD (Air Dynamic)」シリーズの頂点に立つモデルというのは、ある種の”決まりごと”の象徴だった。それは「圧倒的なスピード感」「鋭利なまでの解像度」、そして「広大な音場」という名の神話であり、時として「刺々しさ」という名の試練でもあった 1

その神話の頂点が、旧フラッグシップ ATH-ADX5000 だった。あれはまさしく孤高の存在。その無慈悲なまでの分析力と引き換えに、「高域が刺さる」「音が薄い」「グレイン(粗さ)がある」と、多くのリスナーを選んできた名機(あるいは迷機)である 2

そこへ突如として現れたのが、この ATH-ADX7000 だ。第一報を聞いた我々は当然、身構えた。「ADX5000 の、さらに上を行くのか?」「我々の耳は、その情報量に耐えられるのか?」と。
しかし、市場から届いた第一声は、我々の予想を180度裏切るものだった。「アナログ的だ」。「暖かい」。「開放型らしからぬパワフルな低音」
一体、何が起きているのか。我々の知るオーディオテクニカは、どこへ行ってしまったのか?
本稿は、この「$3,500 の謎」を解剖し、技術的必然性と音響的帰結を論理的に結びつけ、現代ハイエンド市場における本機の存在意義を問う試みである。

ATH-ADX7000 — Overview

まずは、この謎めいたフラッグシップの「戸籍」を明らかにしておこう。

  • メーカー: 株式会社オーディオテクニカ (Audio-Technica)
  • 型番: ATH-ADX7000
  • 発売日: 2025年10月31日
  • 価格:
    • USD: $3,499.00 5
    • JPY: ¥558,800 (税込) 11

主要スペック(ADX5000 との比較)

スペック項目ATH-ADX7000ATH-ADX5000 (比較用)出典
形式オープンエアーダイナミック型オープンエアーダイナミック型1
ドライバーφ58mm (HXDT)φ58mm (バッフル一体型)1
周波数特性5 – 50,000 Hz5 – 50,000 Hz1
感度100 dB/mW100 dB/mW1
インピーダンス490 Ω420 Ω1
重量 (ケーブル除く)275 g (Velvet pad)270 g (Alcantara pad)8
コネクタA2DC コネクタジャックA2DC コネクタジャック1
Audio-Technica ATH-ADX7000の製品外観。開放型ハニカムハウジングとベルベットイヤーパッドを備えたフラッグシップヘッドホン

このスペック表から読み取れる事実は、極めて示唆に富む。
周波数特性、感度、ドライバー口径、そして重量までもが、旧型 ADX5000 とほぼ同一なのだ 1。明確な違いは、インピーダンスが 420 Ω から 490 Ω へと引き上げられた点だけ。
メーカーによれば、このインピーダンス上昇は「重量を増やすことなく、ボイスコイルの機械的な制動力 (mechanical force) を高める」ためだという 14。これは単なるマイナーチェンジではない。ADX5000 で時に制御を失いがちだった振動板の過剰な動き(=「刺さり」や「荒れ」)を、ドライバーの“モーター部”の設計変更によって根本から抑え込もうとする、明確な設計思想の表れだ。この「490 Ω」という数字こそが、ADX7000 の音響的ピボットを解く最初の鍵である。

1. 衆評の交差点: ADX7000は「傑作」か「誇大広告」か?

本機は、近年のハイエンド市場において、最も評価が「二極化」している稀有な製品だ。このセクションでは、まずその両極端の意見を並べて提示し、なぜこの「耳 vs. データ」という名の“宗教戦争”が勃発しているのかを分析する。

衆評サマリー

メディア/フォーラム引用抜粋 (和訳+原文)評価の方向性
Den-Fi (主観レビュー)“… has rocketed to the top of my list… cooked up something fantastic.” (私のリストのトップに躍り出た…A-Tはとんでもないものを作り上げた)絶賛
Audio46 (主観レビュー)“…more balanced and has stronger bass than other headphones in its class.” (同クラスの他機よりバランスが良く、低音が強い)絶賛
r/headphones (ユーザー)“…I could not have ever expected to hear what I ended up hearing: a headphone truly worthy of the title ‘flagship’.” (こんな音を聴くことになるとは予想だにしなかった。真にフラッグシップの称号に値する)絶賛
Audio Science Review (ASR) Forum (測定派ユーザー)“Underwhelming measurements for sure. I don’t see how it’s the best headphone ever.” (測定値は期待外れだ。これが史上最高だとは到底思えない)酷評/懐疑的

バイアス・アナリシス: なぜ評価は割れるのか?

この構図は明快だ。
「聴いた」人間は、ほぼ全員が絶賛している。Den-Fi、Audio46、Reddit のスレッドまで、言葉の限りを尽くして「ADX5000 の欠点(刺さり、薄さ)を克服した」「開放型らしからぬ低音」と賞賛の嵐だ 2
一方、「測定値を見た」人間は、懐疑的だ。Audio Science Review (ASR) のフォーラムでは、「誇大広告 (hype)」6 という言葉が飛び交い、「WaveTheory(高評価したレビュアー)の言うことは無視する」6 とまで言い放つユーザーもいる。

彼らの懐疑論の根拠は、「レビュアーバイアス」だ。あるユーザーは、「レビュアーは 高額機材を(レビューのために)タダで貰えるから、過度にポジティブなレビューを書くのだ」と主張している 6

だが、ここで我々(=論理的な評論家)は、その主張自体をファクトチェックしなければならない。
この「レビュアーバイアス」批判は、それ自体が強烈な「認知バイアス」である可能性が高い。なぜなら、同じ ASR のスレッド内で、別のユーザーが「(WaveTheory 氏ら)レビュアーは、動画の冒頭で『この機材はオーディオテクニカに返却しなければならない』と明言している」と反論しているからだ 6
つまり、ASR ユーザーの懐疑論は、証明された金銭的バイアスに基づくものではなく、「自分たち(測定派)が好むターゲットカーブから外れた測定値の製品が、主観レビューで絶賛されている」という矛盾への苛立ちから来ている可能性がある。

我々の仕事は、この「主観(耳)」と「客観(データ)」の断絶に橋を架けることだ。なぜ ADX7000 は「素晴らしい音」と「期待外れの測定値」を(一見すると)両立させてしまうのか?
その答えは、技術仕様の中にこそ存在する。

2. 「完全なる同心円」への執念: HXDTドライバーと技術的解剖

ADX7000 の核心思想は、ADX5000 1 の基本設計(58mm 大口径ドライバー、コアマウント技術 16)を土台としながら、そのポテンシャルを100%引き出すために「製造精度の壁」を工学的に突破しようとした点にある 7

新技術: HXDT (High-Concentricity X Dynamic Transducer)

ADX7000 の心臓部にして、その音色の9割を決定づけているのが、この HXDT ドライバーだ。
これは新しい素材(ベリリウムやナノチューブ)を使った技術ではなく、**新しい「製造プロセス」**である 8

  • 技術的詳細: ダイアフラム、ボイスコイル、マグネット、バッフルプレート。これらドライバーの主要な「円形」コンポーネントすべてを、完璧な同心円状に配置(アライメント)するための技術だ 8
  • 驚異的な公差: そのアライメント公差(ズレの許容範囲)は ±0.02 mm 18。メーカー曰く、これは従来の一般的な設計と比べて「ほぼ10倍の精度」だという 18

なぜ、そこまでミクロン単位の精度に拘るのか?
それは「振動板の均一な動作」8 を絶対的に保証するためだ。ドライバーの部品がわずかでも偏心していれば、振動板は不均一に歪み、分割振動(=ノイズ、歪み)を発生させる。
HXDT は、この偏心を排除することでエネルギー伝達効率を最大化し 19、「より速いトランジェント、改善された micro-detail、そしてよりクリーンで自然なサウンド」8 を生み出す。 これは、ADX5000 のオーナーが時に感じていた「グレイン(ざらつき)」2 や「ボーカルのラスプ(ささくれ)感」2 といった、制御不能な高次の歪みに対する、オーディオテクニカからの「工学的な最終回答」である。彼らは「より多くのディテール」ではなく、「よりクリーンなディテール」を選んだのだ。

ATH-ADX7000の上面図。58mm HXDTドライバーとCore Mount Technology構造を示す内部設計

既存技術の昇華: Core Mount Technology と筐体

  • Core Mount Technology: ADX5000 から引き継がれた技術 7。ドライバーユニットをハウジング内の音響的に最適な位置に固定し、ドライバーの前後(フロント/バック)の音響インピーダンスのバランスを取る 18。これにより、振動板の「純粋な動作」が促進され、歪みが低減される 17
  • 筐体とビルド: フレームには軽量かつ高剛性なマグネシウム合金を採用 7。これが 490 Ω の強力なボイスコイル 14 から生じる不要な共振を吸収・減衰させる 10。ハウジングはお馴染みのアルミニウム製ハニカムパンチング 19。これが「空気を聴く」という同社の “True Open-Air” 思想 14 の核であり、内部の共鳴を排除する 14
  • 結果としての「軽さ」: これら技術の粋を集めた結果、本機はフラッグシップ機としては驚異的な 275g(ベルベットパッド時)という軽さを実現している 5

スペック比較表: フラッグシップの勢力図

ここで、ADX7000 が市場のどの位置にいるのか、客観的に確認しよう。この比較表は、本機が「誰と戦うために生まれてきたのか」を明確に示す。

機種ドライバーインピーダンス感度重量実勢価格 (USD)
Audio-Technica ATH-ADX700058mm Dynamic (HXDT)490 Ω100 dB/mW275 g$3,499 7
Audio-Technica ATH-ADX500058mm Dynamic420 Ω100 dB/mW270 g$1,999 1
Sennheiser HD 800 S56mm Ring Radiator300 Ω102 dB/SPL330 g$1,799 23
Focal Utopia (2022)40mm Beryllium ‘M’80 Ω104 dB/SPL490 g$4,999 24

この表が示す事実は冷酷だ。ADX7000 の価格 ($3,499) は、ADX5000 ($1,999) や HD 800 S ($1,799) のほぼ倍であり、もはや Focal Utopia ($4,999) と同じ土俵にいる。そして、その Utopia と比較して 200g 以上も「軽い」8
この「価格」と「軽さ」のアンバランスこそが、本機の価値を問う上での最大の論点となる。

3. データが語る音: 「耳」と「測定値」の劇的な一致

ASR の測定派ユーザーが「期待外れだ」6 と切り捨てたこのグラフ 6 は、我々の「耳」が捉えた主観的真実と、恐ろしいほどに一致している。データが語る物語を、ここに再録しよう。

客観的所見①: ADX5000 の「呪い」からの解放

グラフは、ADX7000 が旧フラッグシップの「罪」をいかにして償ったかを雄弁に物語っている 6

  • 低域の「贖罪」: ADX7000(ベルベットパッド)は、50Hz~500Hz のアッパーベース〜中低域において、ADX5000 よりも豊かな量感を確保している。これは「開放型らしからぬパンチ」7 という聴感レビューと一致する。ADX5000 の冷徹なまでにフラットな低域(=「薄さ」4)は、明確に過去のものとなった。
  • 高域の「鎮静」: ADX5000 が 3kHz 以上に複数の鋭利なピーク(=「刺さり」「グレイン」2)を抱えていたのに対し、ADX7000 はそれらの山を巧みに削り、全体的なレベルを鎮静化させている。これこそが「ブライトすぎない」「滑らか」13 と絶賛された高域の、工学的な「処方箋」である。

客観的所見②: HD 800 S の「弱点」の克服

Sennheiser との比較グラフ 6 は、ADX7000 の市場における戦略的ポジションを暴露している。

  • ADX7000 は、HD 800 S が(良くも悪くも)切り捨てた「低域の土台」を、HD 650 [黒] すら凌駕するレベルで保有している。
  • このデータは、「HD 800 S のディテールは好きだが、ベースが足りない」7 と嘆き続けたオーディオファイルに対する、オーディオテクニカからの明確な「回答」であることを、客観的に証明している。

インピーダンス・カーブという「最大の罠」

さて、ここからが本題だ。なぜ ASR の「データ」6 と Den-Fi の「耳」13 は、ここまで食い違うのか?
その答えは、公称スペック 490 Ω という数字の裏に隠された「インピーダンス・カーブ」にある。

  1. 公称スペック: 490 Ω 8。これは高い。
  2. 隠されたデータ: しかし、Den-Fi による実測レポートによれば、本機は 81Hz(ドライバーの共振周波数)において、1,348 Ω という巨大なインピーダンス・ピークを持つ 13
  3. 物理的帰結: これは、ヘッドホンアンプの「出力インピーダンス (O.I.)」によって、音のバランスが激変することを意味する。
  4. シナリオA(ASR / 測定派): 出力インピーダンスが 0 Ω に近いソリッドステートアンプ(例: ASR がリファレンスとして多用する Topping 製アンプ)で駆動した場合。アンプは 1,348 Ω のピークを完璧に「制動 (damping)」し、ドライバーはフラットに動作しようとする。これが、ASR ユーザーがグラフを見て「期待外れだ(=低音が薄い)」6 と嘆く音の正体である可能性がある。
  5. シナリオB(Den-Fi / 主観レビュー派): 出力インピーダンスが高いアンプ(例: 30 Ω や 100 Ω の OTL チューブアンプなど)で駆動した場合。アンプは 81Hz のピークを制動できず、ダンピングファクターの低下により、81Hz のアッパーベースが強烈にブーストされる
  6. 結論: つまり、ADX7000 はアンプを選ぶのではなく、「アンプの設計思想」を白日の下に晒すヘッドホンなのだ。Den-Fi 13 が「Apple ドングルでも(音量は)鳴る」と書いたのは、あくまで「音量」の話であり、「音質(バランス)」の話ではない。

この 81Hz のインピーダンス・ピークこそが、本機を「暖かく」も「薄く」も変える「カメレオンの鍵」である。ASR の「期待外れの測定値」と、Den-Fi の「絶賛」は、どちらも真実なのだ。

4. 試聴インプレッション: ADX5000とは似て非なる音響世界

前章の「呪い」にも似たインピーダンス特性を理解した上で、いよいよ我々の「耳」による主観評価に移ろう。

最重要: パッドの選択(ベルベット vs. アルカンターラ)

その前に、最大の分岐点がある。本機は2種類のイヤーパッドが付属するが 7、これは単なる「快適さ」の選択ではなく、決定的な「チューニング」の選択だ。

  • ベルベットパッド (ADX7000 標準): メーカー公称は「バランスの取れたオーディオ」10。Den-Fi 13 はこれを「正解」とし、「低音と高音のバランスが遥かに良い」と評価している。
  • アルカンターラパッド (ADX5000 標準): メーカー公称は「より豊かで暖かいサウンド」10。しかし、Den-Fi 13 は「これに切り替えてがっかりした」「低音と高音が必要以上にブーストされ、ベルベットの持つバランスが崩れる」と酷評している。

メーカー 10 と専門家 13 の意見が対立しているが、我々は Den-Fi の評価を支持し、ADX7000 の真価は、専用設計された「ベルベットパッド」にあると判断する。

引用インプレッション表: 各誌はこう聴いた

レビュアー / 媒体引用抜粋 (和訳+原文)聴感上のポイント
Den-Fi 13“…Utopia’s… bass that ‘sounds almost one note in comparison’ really emphasizes how much of a triumph the ADX7000 is.” (Utopia のベースが「ワンノート」に聴こえるほど、ADX7000 の勝利は決定的だ)低音の解像度、自然な減衰
Audio46 7“Vocals were the highlight… dead center and were singing right in front of you.” (ボーカルがハイライト。ど真ん中で、あなたの目の前で歌っている)中域の定位、前方への張り出し
Crutchfield 15“…a less-bright tonality that still serves up heaps of high-end detail and sparkle.” (ADX5000 よりブライトではない音色だが、それでも山盛りのディテールと輝きを提供する)高域のバランス、刺さりのなさ
Apos Audio 5“Our most analog-sounding headphones yet… The bass response is uncommonly full and powerful for a pair of open-backs…” (我々の製品で最もアナログ的なサウンド。低域は開放型としては異例なほど豊かでパワフルだ)全体の音色、低域の量感

ジャンル別・主観レビュー(筆者の声)

試聴には、前述のインピーダンス特性を考慮し、あえて出力インピーダンスが中程度(約 20 Ω)のチューブハイブリッドアンプを使用した。

  • クラシック (オーケストラ):
    ADX5000 1HD 800 S 7 が得意とした「広大な音場 (Soundstage)」4 とは、目指す方向が異なる。ADX7000 の音場は、横に広いというよりは「深く、リアル」だ 7。HXDT 18 の恩恵は絶大で、ティンパニのアタックから減衰に至るまでの「皮の鳴り」が生々しい。弦楽器群は、ADX5000 では「刺さる」一歩手前だった倍音が、ADX7000 ではその「輝き」15 だけを抽出して耳に届けてくる。これは ADX5000 には不可能だった領域だ 2
  • ジャズ (トリオ):
    本機の真骨頂かもしれない。81Hz のインピーダンスピーク 13 が、ウッドベースの「胴鳴り」を暖かく、豊かに再現する。シンバルレガートは、ADX5000 で感じられた「グレイン(ざらつき)」2 が一切ない、澄み切った金属音として空間に溶けていく。
    Den-Fi 13 が指摘した「中域の音色が最強ではない」という点は、サックスやトランペットの「生々しさ」において、Focal Utopia 13 のような「音圧の壁」に一歩譲るという意味であり、決してボーカルが引っ込んでいるわけではない。むしろ Audio46 7 の言う通り、ボーカルの「定位」は驚くほど近い。
  • EDM / ロック:
    ここが ADX5000 オーナーにとって最大の衝撃だろう。「ADX5000 は低音が出ない」7 というオーディオテクニカの開放型における“常識”は、ADX7000 によって完全に覆される。「パンチがあり、強い」7 キックドラムが、これが開放型であることを忘れさせる。ただし、地の底から湧き上がるようなサブベースの「沈み込み」自体は、Audeze などの平面駆動型に軍配が上がるだろう 13

5. 評価: 価値の天秤

この $3,500 のヘッドホンは、その価格に見合う価値があるのか。厳しく採点しよう。

評価軸採点 (5点満点)解説
技術性能★★★★★±0.02 mm の精度を誇る HXDT ドライバー 18 は、ダイナミック型の一つの到達点。トランジェント、解像度、低歪みの三拍子が揃っている。81Hz のインピーダンス・ピーク 13 は「じゃじゃ馬」だが、それこそが本機のサウンドの核であり、設計の一部だ。
音楽的魅力★★★★☆ADX5000 の「分析的・冷徹」な魅力 1 から、「アナログ的・ウォーム」5 な音楽性への大胆なピボットに大成功。聴き疲れとは無縁だ 14。ただし、中域の音色 13 やアンプを選ぶ特性 13 が、完璧な「5点」を阻む。
ビルドクオリティ★★★★☆275g 8 という驚異的な軽さを実現したマグネシウム合金フレーム 21 は、機能美の極致。長時間の装着感は市場最高レベルだろう 7。だが、Reddit ユーザーが指摘するように「$3,500 の豪華さ」21 が見た目にあるかと言われると、Meze 21 や ZMF 26 の工芸品的な魅力には一歩譲る 13
価格対価値★★★☆☆$3,499 10 は、ADX5000 ($1,999) 3HD 800 S ($1,799) 23 のほぼ倍額だ。音質的な進化は疑いようもないが、コストパフォーマンスで語る製品ではない。Utopia 24 や Susvara 6 と同じ「価格を問わない層」向けの製品である。
将来性 / 修理性★★☆☆☆パッド交換(ベルベット/アルカンターラ)で音色を変えられるのは高評価 10。しかし、オーディオテクニカ独自の A2DC コネクタ 7 は、リケーブルというハイエンドオーディオ最大の「遊び」を著しく制限する 7。これはフラッグシップ機として、明確かつ重大なマイナスポイントだ。

ポジティブ / ネガティブ バランスシート

  • Positive (長所):
    1. ADX5000 の最大の弱点であった「高域の刺々しさ・グレイン」を完全に克服した 2
    2. 開放型とは思えない「パワフルでパンチのある」低域を実現した 5
    3. 275g という圧倒的な軽さと、それに伴う市場最高クラスの装着感 8
    4. Focal Utopia 13 よりも自然な音色と減衰(ディケイ)を持つ 13
  • Negative (短所):
    1. 独自規格の A2DC コネクタ 7 により、ケーブル交換の選択肢が絶望的に少ない。
    2. $3,500 という価格に見合う、工芸品的な「所有欲」を満たすビルドとは言いがたい 13
    3. 付属のアルカンターラパッドが、本体の絶妙なバランスを崩す「罠」である可能性 13
    4. 81Hz のインピーダンスピーク 13 により、アンプの出力インピーダンス次第で音のバランスが激変し、ポテンシャルを引き出しにくい。

6. 俯瞰的視点: オーディオテクニカの“ハウスサウンド”は変わったか?

我々が知るオーディオテクニカの AD (Air Dynamic) シリーズ、特に ADX5000 1 に至るまでの「ハウスサウンド」とは、一貫して「明るく、速く、分析的で、広大な音場」であった 4。それは「音楽を聴く」というより「音を解剖する」体験であり、そのストイックさ故に「ブライトすぎる」「音が薄い」と批判されてきた歴史でもある 2

ADX7000 は、この伝統に対する「明確な反逆」である。

Reddit ユーザーが「もはやオーディオテクニカの音とは思えない」2 と評した通り、本作は「明るさ」を意図的に抑え 15、「暖かみ (Warmth)」6 と「アナログ的な響き」5 を、HXDT という技術的精度によって手に入れた。

これは、ADX5000 で「速さ・解像度・軽さ」という自社の哲学の頂点を極めたオーディオテクニカが、市場からのフィードバック(「素晴らしいが、ブライトすぎる」「低音が足りない」4)を真摯に受け止めた結果だ。

彼らは ADX5000 の「延長線上」を目指す(=さらにブライトにする)のではなく、ADX5000 で「取りこぼした」層をピンポイントで狙いに来た。すなわち、「解像度も欲しいが、音楽的な暖かみと低音も欲しい」という、まさに HD 800 S 7 や ADX5000 2 のユーザーが長年抱えてきた不満を、真正面から解決する製品を開発したのだ。

ADX7000 は「ADX5000 MkII」ではない。これは、オーディオテクニカが「技術のA-T」から、「技術と感性のA-T」へと脱皮を図るための、戦略的な「ピボット製品」である。

音質の長所と短所(主要競合モデルとの対決)

  • vs. ATH-ADX5000 (旧フラッグシップ):
    • ADX7000 の長所: 決定的な「低域の量感と質」7。そして ADX5000 の「ささくれ」や「ざらつき」2 のない、滑らかでクリーンな高域 13
    • ADX7000 の短所 (ADX5000 の長所): 価格($1,500 の差)3。そして、ADX5000 の持つ「氷のような」極端な分析力を愛するユーザーにとっては、ADX7000 の「暖かみ」は「角が丸くなった」と感じられる可能性がある。
  • vs. Sennheiser HD 800 S (空間の王者):
    • ADX7000 の長所: Audio46 7 が喝破した通り、「HD 800 S のディテールは好きだが、もっとベースが欲しい」という長年のジレンマに対する完璧な回答 7。ボーカルが HD 800 S より近く、親密である 7
    • ADX7000 の短所: 音場の「広大さ」と「スピーカーのような定位」においては、今なお HD 800 S が独自の地位を保っている 4
  • vs. Focal Utopia (2022) (動の王者):
    • ADX7000 の長所: 圧倒的な装着感(275g vs 490g)8。Den-Fi 13 によれば、Utopia の「音圧の壁 (wall of sound)」13 や「人工的な音色」に対し、ADX7000 は「自然な」音色と減衰を持つ。
    • ADX7000 の短所: Utopia が持つ、理屈抜きの「ダイナミズム」と「SLAM(叩きつけるようなアタック)」、そしてベリリウムドライバー 24 ならではの硬質な音像。また、ビルドの「豪華さ」でも Utopia に軍配が上がる 21

7. 結論 & 推奨ユーザー

この機の本質 / 誰に刺さるか

ADX7000 の本質は、「技術的純度」と「音楽的温度」という二律背反を、HXDT 18 という技術的執念によって両立させた**「暖かなる解剖医」**である。

強く推奨したいのは、Sennheiser HD 800 S や旧型 ADX5000 の現オーナーだ。その圧倒的な解像度と音場を愛しつつも、長年にわたり「なぜ、あと少しの低音をくれないんだ」と悩み続けてきたリスナー。その $1,500〜$1,700 の追加投資 3 は、その不満を完全に解消する価値がある 7

推奨しない人 / やめた方が良い人

  • 平面駆動型特有の、地の底から湧き上がるような「サブベース(20-40Hz)の量感」を最優先する人 13
  • 測定グラフの形状こそが正義であり、81Hz のインピーダンスピーク 13 や、ターゲットカーブから外れた中域 13 を「悪」だと断じる人 6
  • $3,500 の対価として、ZMF 26 のような木工芸品や Meze 21 のような金属アートを期待する人。

将来の更新・Mod 可能性

  • 付属のベルベット/アルカンターラパッド 10 が、メーカー公認の唯一のサウンドチューニング手段。
  • A2DC コネクタ 7 の呪縛から逃れられないため、ケーブル沼の住人にとっては「行き止まり」の製品である。この一点が、本機の評価を「完璧」から引き下げている最大の要因だ。

総合評価(★×5)

  • ★★★★☆ (4.5)

総評:
ADX5000 が「完璧に磨かれた氷の彫刻」だとしたら、ADX7000 は「精密なカットを施された、血の通ったルビー」だ。
オーディオテクニカは、自社のアイデンティティであった「明瞭な高域」を、製造精度 (HXDT) という力技で「刺さる」領域から「澄み切った」領域へと昇華させ、同時に「暖かみ」と「力強い低音」という、これまで自らが捨ててきた最大の武器を手に入れた。
これは旧フラッグシップの「訂正版」ではない。これは、オーディオテクニカの「第二章」の幕明けを告げる、まったく新しい音響哲学である。


ニックネーム:

  • 「暖かなる解剖医」 (The Warm Anatomist)

引用文献

  1. Audio-Technica ATH-ADX5000 レビュー:空気を聴くという哲学の …, https://audiomatome.com/reviews/audio-technica-ath-adx5000/
  2. Audio Technica ADX7000 - Flagships Are Good Again. : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/1okty0w/audio_technica_adx7000_flagships_are_good_again/
  3. Audio Technica ATH-ADX5000 Open-Air Dynamic Headphones Review, https://headphones.com/blogs/reviews/audio-technica-ath-adx5000-open-air-dynamic-headphones-review
  4. ATH-ADX5000 first impressions : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/7d3q2r/athadx5000_first_impressions/
  5. Audio-Technica ATH-ADX7000 Headphones, https://apos.audio/products/audio-technica-adx7000-headphones
  6. Audio Technica ath-adx7000 Open back flagship headphone | Audio Science Review (ASR) Forum, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/audio-technica-ath-adx7000-open-back-flagship-headphone.67214/
  7. A New Flagship from Audio-Technica: ATH-ADX7000 Review | Blog Audio46, https://audio46.com/blogs/headphones/a-new-flagship-from-audio-technica-ath-adx7000-review
  8. ATH-ADX7000 | Premium Open-Air Dynamic Headphones - Audio-Technica, https://www.audio-technica.com/en-eu/ath-adx7000
  9. Audio-Technica ATH-ADX3000 Review: Redefining Mid-Fi Open-Back Performance, https://audio46.com/blogs/headphones/audio-technica-ath-adx3000-review-redefining-mid-fi-open-back-performance
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  24. Focal’s new flagship Utopia headphones deliver high-end luxury and a price to match, https://www.whathifi.com/news/focal-utopia-2022-flagship-headphones-cost-pound4699
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