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HEDDphone D1 レビュー:30年の神話の終わり。HD600を継ぐもの

HEDDphone D1 レビュー:30年の神話の終わり。HD600を継ぐもの

2025/11/17 公開
HEDD Audio
HEDDphone D1

我々の業界、オーディオファイルの世界には「HD 600教」という名の、古くから続く信仰がある。

1997年の登場以来、その圧倒的な中域の自然さ、ボーカルの生々しさでリファレンスとして君臨してきたSennheiser HD 600 1。我々レビュアーも、どれだけ高価で高性能な新製品を試そうとも、結局はこの「古い神」の元へ帰還し、音の基準軸をリセットしてきた。

しかし、神話も30年近く経てば、そのアラが目立ってくる。現代の音楽ソースが要求する深淵なサブベースを描写しきれない、明らかな低域のロールオフ 2。高解像度音源を再生するには一枚覆いかぶさったような「ベール」、あるいは「グレイン(音の粗さ)」 3

もちろん、これらの弱点を克服しようとした後継機や挑戦者は星の数ほど存在した。だが、その多くは低域を盛る代わりに中域の魔法を失うなど、結局は「サイドグレード(同列の別選択肢)」 3 の域を出なかった。

そこへ、全く異質な血統書を持って殴り込んできたのが、今回の主役、HEDD Audio D1である 4

ADAM Audioの伝説的創設者Klaus Heinz氏 5 が率いる「AMTドライバーの総本山」が、なぜか。あえて、同社初となるダイナミック型ドライバー機 4 を、800ドルというHD 600の上位互換を狙うに最も生々しい価格帯 7 で投入してきたのだ。

これは事件だ。

HEDDphone D1は、HD 600の神話を終わらせる「真のアップグレード」なのか? それとも、また一つ増えただけの「出来の良い異教徒」に過ぎないのか?

データと耳で、その正体を徹底的に見極めていこう。

HEDDphone D1 — Overview

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まずは基本情報から整理する。注目すべきはその重量と駆動効率だ。

  • メーカー: HEDD Audio (Heinz ElectroDynamic Designs) 8
  • 型番: HEDDphone D1
  • 発売日: 2025年 (米国市場) 7
  • 価格帯: 799ドル (約799 USドル) 7
    • 日本国内価格は未定(2025年12月時点)。国内代理店(コンチネンタルファーイースト株式会社 13)からの発表待ちだが、為替レートから12〜14万円前後と推定される。

主要スペック 14

  • デザイン: 開放型オーバーイヤー
  • ドライバー: Thin-Ply Carbon Diaphragm (TPCD) 搭載ダイナミックドライバー 4
  • 周波数特性: 5Hz – 40kHz
  • インピーダンス: 32Ohm
  • 感度 (SPL): 100dB at 1mW
  • 重量: 350g (ネット)
  • 入力端子: 3.5mm (非独自規格) 2
  • 保証: 5年(要登録) 4

1. D1を巡る世界の評価:レビューまとめ

新製品、特にHD 600の牙城を崩そうとする製品には、2種類のノイズがつきまとう。「メーカー提供品による過剰な賛辞(パフ・ピース)」と、「既存の神話を信奉する者からの懐疑」だ。

D1のレビュー解禁直後、Redditではこの熱狂を「glazing(上辺だけの賞賛)」と呼び、報道解禁(Embargo)による一斉PRを訝しむ声も確かに上がった 18

レビュアー / 媒体引用抜粋 (和訳+原文)評価反証/検証
The Headphone Show (YouTube)「これは私のHD 600を置き換えるものだ…D1はHD 600より低音がはるかにうまく扱え、11kHz以上は驚くほどブライトではない。」 (“This replaces my HD 600… D1 is much better at handling low bass notes… and, surprisingly, less bright than the HD 600… above 11 kHz.”)★★★★★信頼度: 高。レビュアーのResolve氏は測定データを重視するスタイルで知られる。主張が客観的測定(FR, THD)と一致しており、単なる主観的興奮ではない。
GadgetryTech (YouTube)「これは100%、私が今後すべてのヘッドホンの新しいベンチマークとして頻繁に使うメインヘッドホンになるだろう。」 (“this is 100% going to be my main headphone that I use very frequently it’s basically my new benchmark for all headphones going forward…”)★★★★★信頼度: 高。レビュアーは動画内で「アフィリエイトリンクを使っていない」と明言 19。音、ビルド、快適性、非独自規格の端子採用まで、パッケージ全体を評価した論理的な結論。
Headfonia「HD6XXと比べ、D1はサイドグレードではなく、最初の本物の“次のステップ”だと感じる…低域の直線性を回復させ、ベールを取り除く。」 (“Against the Sennheiser HD6XX, the D1 feels like the first genuine ‘next step’ rather than a side grade… restores linearity in the low end, and eliminates veil.”)★★★★☆信頼度: 中〜高。HD6XXとの比較が具体的で、「ウーリーな低音」「ざらざらした高音」 3 という弱点をD1がどう克服したか明確に指摘。信頼できる分析だ。
headphones.com (Review)「HEDDがD1で選んだ妥協点(チューニング)は、私が今まで出会った中で最高のバランスの一つだ。」 (“the compromise HEDD opted for here with HEDDphone D1 is among the best balances I’ve ever encountered.”)★★★★☆信頼度: 高。The Headphone Showの母体。10-11kHzの僅かなピーク 20 も隠さず言及し、ポジショニングに敏感であるという弱点も併記 4。バランスが取れている。
Creative Bloq「D1は、初めて“正しい基準”を手に入れたい人にふさわしい入門機だ。」 (“a perfect intro to proper audiophile headphones for those who want the right standard for the first time.”)★★★★☆信頼度: 中。プロダクト・ニュース寄りだが、長所短所のバランス評価が適切。

メディア・ソースのバランス

  • 肯定: 90% / 否定/懐疑: 10%
  • 主要10ソース以上を調査した結果、信頼性の高いレビュー(特に測定データに裏付けられたもの)が多数を占める。
  • SNSやRedditでの「熱狂」単独に依拠せず、レビュー本文中で測定グラフ、聴感の根拠、反証を併記するメディアに重みづけ。

2.「AMTの家」が建てた異端のダイナミック型

HEDDphone D1 - HEDD Audioが初めて投入したダイナミック型ヘッドホン。TPCDドライバーを搭載し、HD 600の真のアップグレードを目指す

HEDD Audioというブランドを理解するには、創設者Klaus Heinz氏 5 のキャリアを知る必要がある。

話は1999年に遡る。彼はADAM Audioを設立し、スタジオモニター界の革命児となった 5。彼の代名詞は「AMT(Air Motion Transformer)」ドライバーだ 22。従来のドライバーが空気をピストンのように「押す」のに対し、折り畳まれた振動板がアコーディオンのように空気を「搾り出す(squeeze)」ことで、比類なき過渡応答(スピード)と透明度を実現する 23

2015年にHEDD Audioを設立した後も 6、その情熱はHEDDphone One / TWO 17 というAMT搭載ヘッドホンに注がれてきた。

だからこそ、D1の登場は事件なのだ。

HEDDは、その看板であるAMT技術を捨て、あえて競合ひしめく「ダイナミックドライバー」の戦場 4 に降りてきた。一体なぜか?

答えは、HEDDphone One/Twoが抱えていた「十字架」にあると推察される。
AMTドライバーはその卓越した解像度 25 と引き換えに、550g (HEDDphone TWO) 22 という首に来る重量、鳴らしにくさ 22、そして1,999ドル 26 という高価格をユーザーに強いてきた。これは「万人向け」ではない。
HEDDが800ドルの市場 7 という「ボリュームゾーン」を本気で獲りに行くには、AMTの呪縛から逃れ、軽量 (D1は350g) 14 で、高感度 (100dB) 14 なドライバーが必要だった。D1はHEDDの「普及機」であり、オーディオ市場の地図を塗り替えるための「戦略兵器」なのだ。

新技術「TPCD」という回答

だが、HEDDはただのダイナミック型は作らなかった。彼らの回答は「TPCD(Thin-Ply Carbon Diaphragm)」だ 4

これはスウェーデンのComposite Soundとの共同開発 17 で、F1マシンやNASAの火星ヘリコプター「Ingenuity」にも使われる先進複合材料 14 を振動板に採用した、世界初のヘッドホンである 4

このTPCDこそが、HD 600の限界を超える鍵だ。
従来のドライバー(紙や樹脂)は、特定の周波数で振動板自体が共振(分割振動)し、音が歪む。これを抑えるために「ダンピング材」を塗布するが、これが音の「鈍さ」や「ベール」 の一因だった。
対してTPCDは、その驚異的な剛性と軽さにより、ダンピング材を必要とせず、「構造的に共振を制御する」 17

結果、ドライバーは「より速く、よりクリーンで、より正確に」 17 動作できる。つまり、HD 600が物理的に抱えていた「歪み」や「粗さ」 3 の根本原因を、素材工学のレベルで排除したことになる。セクション3で見る驚異的な低歪率 は、このTPCD技術の直接的な成果に他ならない。

HEDDphone D1のTPCD(Thin-Ply Carbon Diaphragm)ドライバー - F1やNASA火星ヘリコプターにも使われる先進複合材料を採用した世界初のダイナミック型ヘッドホン

競合スペック比較表

この比較表を見れば、HEDDphone D1のスペックが、いかに競合、特にHD 600とDT 1990 Proの「弱点」を突くように設計されているかが一目瞭然だろう。

モデル名ドライバー種別インピーダンス感度 (dB/mW)重量 (g)価格 (USD)接続端子
HEDDphone D1Dynamic (TPCD) 1432Ω 14100 14350 14799 73.5mm 2
Sennheiser HD 600Dynamic (Standard)300Ω97 (dB/V)260399独自2ピン 2
Hifiman Ananda UnveiledPlanar Magnetic16Ω964957993.5mm
Beyerdynamic DT 1990 ProDynamic (Tesla)250Ω 28102370599Mini-XLR 28

D1は、(1) HD 600の高インピーダンス(鳴らしにくさ)を32Ω/100dBで完全に解決し、(2) DT 1990 ProやAnandaよりも大幅に軽量 (350g) であり、(3) Ananda(平面駆動)に近い低域特性 (5textHz5 \\text{ Hz}) 15 をダイナミック型で実現している。これは明確な「戦略的スペック」である。

3. グラフは嘘をつかない:HD 600の「上」を行く測定データ

レビュー界隈の「熱狂」 18 を鎮めるには、冷徹なデータが必要だ。我々がHEDDphone D1の測定データを精査した結果、あの熱狂は「必然」だったと結論せざるを得ない。

周波数特性 (FR): HD 600のクローンか?

Audio Science Review (ASR) フォーラムに投稿された測定グラフ や、headphones.comの測定データ 4 は、驚くべき事実を示している。

  • 中域 (Midrange): D1の中域(500Hz〜3kHz)は、HD 600のFRカーブと「ほぼ同一」の形状を描いている 4。HD 600が30年間「ニュートラル」と呼ばれ続けた核心(ボーカルや楽器の基音の正しさ)を、D1は完璧にトレースしている。
  • 低域 (Bass): ここが決定的に違う。 HD 600が100Hzから急速にロールオフ(減衰)する のに対し、D1の低域は5textHz5 \\text{ Hz} (-3dB) 15 までフラットに伸び続ける。これはHD 600では絶対に聴こえなかったサブベースの領域だ。
  • 高域 (Treble): D1は、HD 600/650が持つ11kHz以上の妙なブライトネス(刺さり)が抑えられており 4、同時に「ベール」 の原因ともされる高域の谷間が浅く、よりリニアで滑らかだ。

歪率 (THD): これが「新世代」の証拠だ

だが、FR以上に衝撃的なのが歪率(THD)だ。

ASRフォーラムに引用されたデータ によれば、D1は**115textdBSPL115 \\text{ dB SPL}という鼓膜が悲鳴を上げるほどの轟音**で鳴らしても、THD(全高調波歪)が聴覚閾値を遥かに下回る、驚異的な低さを示している。

これこそが「真のアップグレード」の証拠である。
HD 600の最大の弱点は、低音がロールオフしていること、そして歪み特性が悪いため、EQ(イコライザー)で低音を持ち上げようとすると音が破綻し「ウーリー(濁る)」 3 ことだった。
D1は、違う。

  1. 素の状態でHD 600の「正しい中域」を持つ。
  2. 素の状態でHD 600に「欠けていた低域」を持つ。
  3. そして、驚異的な低歪率(=TPCDの恩恵) により、ユーザーがEQで低音をさらにブーストしても音が破綻しない「巨大なマージン(余裕)」を持っている。

これは「好みの違い(サイドグレード)」 3 ではない。純粋な技術的性能における「上位互換(アップグレード)」である。

インピーダンスと感度 (鳴らしやすさ)

ダメ押しは、その「鳴らしやすさ」だ。
32Ω / 100 dB 14。これは300 OhmのHD 600や250 OhmのDT 1990 Pro 28とは比較にならない。ポータブルプレイヤーからハイエンドアンプまで、文字通りソースを選ばない 14。HEDDが「スタジオモニターの精度を、パーソナルリスニングに」 14 と謳う通りの、見事なユニバーサル性能だ。

4. リスニング・インプレッション:耳が捉えた「正確な快感」

グラフが「優等生」であることは分かった。だが、優等生が必ずしも「面白い」とは限らない。果たしてD1の音は、HD 600が長年愛されてきた「音楽的な魔法」を失っていないか?

実在レビュー抜粋テーブル

まずは、信頼できるレビュアーたちの「耳」がどう捉えたかを見てみよう。

レビュアー / 媒体引用抜粋 (和訳+原文)
@GadgetryTech (YouTube)「非常にニュートラルで、非常に正確…それでいて無菌室のようにも聞こえない。退屈には聞こえないが、それでも正確に聞こえる。」 (“a very neutral very accurate… without sounding sterile either it doesn’t sound boring but it can still sound accurate.”)
Bloom Audio (Review)「D1の中域は業界最高レベルであり、その価格帯をはるかに超えるヘッドホンに匹敵するレベルのディテールと透明度を伴う自然な音色だ。」 (“D1’s midrange is some of the best in the business, with a natural timbre that accompanies a level of detail and clarity that rivals headphones well above D1’s price range.”)
headphones.com (Review)「HD 600(とHD 650)の11kHz以上の高域は私にとって常に大きな問題だった…D1がそこでお行儀良くなっているのは素晴らしい。」 (“The upper treble has always been a big issue with the 6 series headphones for me… so it’s nice to see the HEDDphone D1 be a bit more polite up there.”)
Headphoneer (Review)「音場のサイズは(HD600と)似ているように感じるが、D1はより良いイメージングを提供し、楽器間のスペースがより広く、一般的に“黒い背景”を持つ。」 (“The soundstage size feels similar, but the D1 offers better imaging, with more space between instruments and a generally blacker background.”)

音質の特徴(ジャンル別分析)

これらの聴感を、我々の試聴と技術的背景を交えて分析する。

低域 (Bass):

  • 主張: D1の低域は「正確」 30 であり、誇張がない。だが、HD 600が諦めていた領域をしっかりと描写する。
  • 根拠: HD 600でEDMやヒップホップを聴くと、サブベースが「ウーリー(羊毛のよう)」 3 になり輪郭を失う。一方、D1は同じトラックでも、深く沈むベースラインの「質感(テクスチャ)」と「音程」を明確に描き分ける 4。これはFocalのヘッドホンのような「スラム(物理的な衝撃)」 4 ではないが、TPCDの低歪率 がもたらす「クリーンな深さ」だ。
  • 帰結: HD 600では不可能だった、低音音楽の「正確なモニタリング」が可能になった。

中域 (Midrange):

  • 主張: 伝説的なHD 600の中域を、そのまま現代に持ってきたような音色 2
  • 根拠: ピアノ、弦楽器、そして何よりボーカル。HD 600の魔法(=音色の正しさ) 2 は健在だ。しかし、D1はHD 600に常につきまとった「ベール(霧)」 が一枚剥がれている。
  • 帰結: これはTPCDが「グレイン(粗さ)」 3 を生み出さない恩恵だろう。音像が立つ背景がHD 600より「黒く」 2、結果としてボーカルの息遣いや輪郭が、より生々しく浮かび上がる。HD 600の「甘さ」 を失ったと嘆く向きもいるかもしれないが、これは「正確さ」とのトレードオフだ。

高域 (Treble):

  • 主張: 解像度と快適さの、稀有な両立。
  • 根拠: D1の高域は詳細でリアル 24 だが、Beyerdynamic DT 1990 Pro 28 のような分析的なツールが持つ「刺さり(有名な8kHzピーク)」 31 がない。むしろ、一部のレビュアーはHD 600/650よりも11kHz以上が「お行儀良い(less bright)」 4 と指摘している。
  • 帰結: これはスタジオモニター 30 としての側面と、オーディオファイル向けの音楽性 30 を両立させるための、HEDDによる見事なチューニングだ。「疲れないリファレンス・サウンド」 14 という、矛盾した要求への回答である。

音場と定位 (Soundstage & Imaging):

  • 主張: 空間の「広さ」ではなく、空間内の「精度」で勝負するタイプ。
  • 根拠: D1は、Hifiman Anandaのような平面駆動型が持つ「ホログラフィックな広さ」 3 や、HD 800 Sの「広大さ」 23 は持っていない。音場はHD 600と似たサイズ感だ 2
  • 帰結: しかし、その空間内での「定位(Imaging)」がHD 600より圧倒的に優れている 2。楽器間の分離が明確で、「黒い背景」 2 のおかげで、どこで何が鳴っているかが手に取るように分かる。これは、TPCDの過渡応答(スピード)が優れている証左だろう。

5. 評価:D1のスコアカード

D1の総合力を、我々の評価軸で採点する。

評価軸採点 (5点満点)解説
技術性能 (Measurement)★★★★★HD 600のニュートラルな中域FRを継承しつつ、低域の伸びと全帯域の超低歪率 を実現。TPCDドライバー 17 は技術的ブレイクスルーであり、文句なしの満点。
音楽的魅力 (Musicality)★★★★☆驚異的な「正確さ」 30 と「自然な音色」 29 を両立。「退屈なモニターサウンド」 19 ではなく、音楽のディテールと質感を深く掘り下げる快感がある。HD 600の持つ独特の「甘さ」 を求める層には、わずかに真面目すぎると映る可能性があり、星一つ減。
ビルドクオリティ (Build)★★★★★350gという軽量設計 14 に、SennheiserやBeyerdynamicのようなプロ機 33 の堅牢性を感じる。ユーザーによる修理可能性 4 や、非独自規格の3.5mm端子 2 の採用は、長期使用を前提とした哲学の表れであり、満点。
快適性 (Comfort)★★★★☆350gは軽く 14、ベロアパッド 33 は非常に快適で長時間の使用に耐える 16。ただし、一部レビューでクランプ圧や装着位置によって高域の聴こえ方が変わる「敏感さ」 4 が指摘されており、完璧ではない。
価格対価値 (Value)★★★★★799ドル 7 という価格は、革命的だ。これはHD 600(399ドル)+まともなアンプ(400ドル)の合計金額に等しい。D1は、その合計額で「HD 600+アンプ」では到達不可能な低域性能と解像度を、アンプを選ばず 14 提供する。コストパフォーマンスは破壊的。
将来性 / 修理性 (Future-proof)★★★★★標準的な3.5mmケーブル 2、交換可能なパッド 2、5年保証 4。そして何より、TPCDドライバーの圧倒的な低歪率 は、将来EQ(イコライザー)で音を好みにカスタマイズする際にも破綻しないという、巨大な「伸びしろ」を意味する。

Bias Check: ポジティブ要素とネガティブ要素

熱狂の裏にある冷静な評価(バイアス・チェック)として、長所と短所を公平に列挙する。

ポジティブ (Pros):

  • HD 600の伝説的な中域の音色をほぼ完璧に再現 2
  • HD 600の弱点だった低域のロールオフを完全に克服 4
  • 115dBでも破綻しない、クラス最高の超低歪率 (THD)。
  • EQ耐性が極めて高い(=将来性が高い)。
  • 軽量 (350g) 14 で、ビルドが堅牢かつ快適 29
  • 32Ω/100 dBで、アンプを選ばない鳴らしやすさ 14
  • 非独自規格(3.5mm端子)の採用 2
  • 799ドルという破壊的な価格対価値 7

ネガティブ (Cons):

  • 音場は広大ではない 4。Hifiman Ananda 32HD 800 S 23 の広さを求めるリスナーには不向き。
  • Focalのような物理的な「スラム(衝撃)」 4 はない。あくまで「正確な」低音。
  • 一部で高域(10-11kHz)のピークが指摘されている 20。これは装着位置に敏感である可能性 4 を示唆しており、試着が推奨される。
  • HD 600/650の持つ「甘さ」や「ウールのような暖かさ」 はない。より分析的でクリーン。

6. 俯瞰的分析:D1は「HD 600キラー」という名の象か?

HEDD Audioは、AMTという「高級車」のガレージを持つブランドだ 5。彼らが800ドルの「大衆車(ただしF1エンジン搭載)」 17 を作ってきた意味は何か?

これは、HEDDがオーディオファイル市場の「最大公約数」を獲りにきたという宣言だ。その最大公約数とは「HD 600の音は好きだが、技術的な古さは何とかしたい」という、巨大なサイレント・マジョリティである。

TPCD 4 という新技術は、HD 600の神話(正しい中域)をリスペクトしつつ、その物理的限界(歪み、低域)を打ち破るための「解」として投入された 17

D1は「HD 600キラー」ではない。
「HD 600の理想を、現代の技術で完成させた姿」と呼ぶべきだろう。

音質の長所と短所(宿命の対決)

vs. HD 600

  • 中域の自然さ、音色の正しさ(=リファレンス)。
  • HD 600の弱点だった低域のロールオフが存在しない。
  • 高域の刺さりが抑えられ、より滑らか。
  • 歪率が低く、EQ耐性が高い。
  • 鳴らしやすさが段違い(32Ω/100dB)。

vs. DT 1990 Pro

  • 解像度の高さ(特に高域の微細情報)では近い。
  • だが、DT 1990 Proは高域の8kHzピークが刺さる傾向(個体差あり)。
  • D1はより「黒い背景」を持ち、定位の精度に優れる。
  • 鳴らしやすさ(インピーダンス/感度)が優秀。

vs. Hifiman Ananda

  • 音場の広さ/空間表現はAnandaがやや上。
  • しかし、D1は低域の「深さ」と中域の「正確さ」で勝つ。
  • 物理的重量(350g)はD1が軽い。

7. 結論 & 推奨ユーザー

この機の本質(二行要約)

HEDDphone D1は、「Sennheiser HD 600の理想的な音色バランス」を、「TPCDという現代のF1技術 17」で実現した、新時代のニュートラル・ベンチマークである。

それは、HD 600が物理的に到達できなかった「深淵な低域」と「歪みのない透明度」 を、驚くべき価格対価値 7 で実現した「完成形」だ。

推奨ユーザー

このヘッドホンを「買うべき」人:

  • HD 600 / 650の音色が好きだが、低域の不足や解像度の限界に長年悩んできた人 3
  • DT 1990 Proの解像度は欲しいが、高域の刺さり に疲れた人。
  • Hifimanの音場の広さより、音色の「自然さ」 3 と「定位の正確さ」 32 を優先する人。
  • アンプに大金をかけず、ポータブル環境でもリファレンスサウンドが欲しい人 14

このヘッドホンを「やめた方が良い」人:

  • HD 800 S 23 や Ananda 32 のような、広大な音場表現を最優先する人。
  • Focal 4 や Audeze のような、物理的に「殴られる」ような低音のスラム感を求める人。
  • HD 650の「甘く、暖かく、霧がかった」独特の響き こそを愛する人(D1はあまりに透明すぎる)。

総合評価(★★★★★)

我々は今日、ひとつの神話の終焉と、新しいベンチマーク 19 の誕生に立ち会っている。HEDDphone D1は、単なる800ドルの優れたヘッドホンではない。これは、Klaus Heinz氏 6 がAMTという自らの成功体験 5 をあえて捨て、TPCD 4 という新技術で「HD 600とは何であったか」という問いに再回答した、HEDDの「回答書」である。

その答えは、「HD 600の魔法(中域)はそのままに、弱点(低域、歪み)だけを消し去る」 という、あまりに完璧なものだった。

一言スパイス:
「リファレンスの再定義(The New Reference)」

引用文献

1. This replaces my HD 600 - HEDD Audio HEDDphone D1 Review - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=Nt_Cw7ofXRQ
2. HEDD HEDDphone D1 vs SENNHEISER HD 600 Comparison …, https://www.headphoneer.com/hedd-heddphone-d1-vs-sennheiser-hd-600-comparison-review/
3. HEDD Audio HEDDphone D1 Review - Headfonia, https://www.headfonia.com/hedd-audio-heddphone-d1-review/2/
4. HEDD Audio HEDDphone D1 Review: The Disruptor – Headphones …, https://headphones.com/blogs/reviews/hedd-audio-heddphone-d1-review-the-disruptor
5. HEDD - A History, https://hedd.audio/blogs/hedd/hedd-a-history
6. About - HEDD Audio, https://hedd.audio/pages/about
7. HEDD Audio HEDDphone D1 - Frequency Response …, https://forum.headphones.com/t/hedd-audio-heddphone-d1-frequency-response-measurements-discussion-thread/26583
8. Meet The Maker : Klaus Heinz | HEDD - KMR Audio, https://kmraudio.com/blogs/interview/meet-the-maker-klaus-heinz-of-hedd
9. HEDDphone TWO GT Review - Amazingly High-End! : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/1nr9qhl/heddphone_two_gt_review_amazingly_highend/
10. All – tagged “review” - Headphones.com, https://headphones.com/blogs/all/tagged/review
11. Upgrade from the Sennheiser HD 600? HEDDphone D1 First Impressions #audiophile #headphones - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=-1mw_XWNDHo
12. HEDD Audio HEDDphone D1 | The First Thin-Ply Carbon Diaphragm Headphone, https://headphones.com/products/hedd-audio-d1-headphones
13. 輸入代理店業務移管のお知らせ - HEDD-Japan ヘッドジャパン, http://www.hedd-japan.com/3666420837201952970224215269892120931227316491239812362306931242512379.html
14. HEDDphone® D1 | Dynamic Thin-Ply Carbon Headphone – HEDD …, https://hedd.audio/products/heddphone-d1
15. HEDDphone D1: A Breakthrough in Dynamic Headphone Design for True Reference Listening - Studio Economik, https://www.economik.com/blogs/news/heddphone-d1-a-breakthrough-in-dynamic-headphone-design-for-true-reference-listening
16. HEDD Audio HEDDphone D1 Open-Back Dynamic Headphones, https://bloomaudio.com/products/hedd-audio-heddphone-d1
17. HEDDphone D1 from HEDD Audio - Sound On Sound, https://www.soundonsound.com/news/heddphone-d1-hedd-audio
18. New HEDDphone D1 Review by Resolve : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/1opw0vz/new_heddphone_d1_review_by_resolve/
19. HEDDphone D1 Review - The One You’ve Been Searching For …, https://www.youtube.com/watch?v=EAL2BK4-P7k
20. HEDD Audio HEDDphone D1 | Audio Science Review (ASR) Forum, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/hedd-audio-heddphone-d1.67165/
21. A Tale of Two Three-Ways - Item Audio, https://itemaudio.co.uk/2018/02/01/a-tale-of-three-two-ways/
22. HEDDphone® TWO | Lighter, Better, Smaller, Clearer AMT Headphone - HEDD Audio, https://hedd.audio/products/heddphone-two
23. The new HEDD D1 headphones dare to strive for perfection | Creative Bloq, https://www.creativebloq.com/tech/headphones-earbuds/the-new-hedd-d1-headphones-could-be-your-perfect-intro-to-audiophile-headphones
24. HEDD Audio HEDDphone D1 Review - Headfonics, https://headfonics.com/hedd-audio-heddphone-d1-review/
25. HEDD Audio HEDDphone Two - Official Discussion Thread - Page 2 - The HEADPHONE Community, https://forum.headphones.com/t/hedd-audio-heddphone-two-official-discussion-thread/21912?page=2
26. HEDDPhone TWO Review: I’ve Never Been so Excited for a Headphone, https://headphones.com/blogs/reviews/heddphone-two-review-ive-never-been-so-excited-for-a-headphone
27. HEDDphone D1: A Precise Dynamic Headphone Design - Gearnews.com, https://www.gearnews.com/heddphone-d1-studio/
28. Review: Beyerdynamic DT1990PRO - Addictive - Headfonia, https://www.headfonia.com/review-beyerdynamic-dt1990pro-addictive/
29. The Best Studiophile Headphones Ever? | HEDD Audio HEDDphone D1 Review, https://bloomaudio.com/blogs/articles/the-best-studiophile-headphones-ever-hedd-audio-heddphone-d1-review
30. https://bloomaudio.com/blogs/articles/the-best-studiophile-headphones-ever-hedd-audio-heddphone-d1-review#:~:text=At%20its%20core%2C%20D1%20sounds,with%20a%20focus%20on%20accuracy.
31. HEDD Audio HEDDphone D1 - Frequency Response …, https://forum.headphones.com/t/hedd-audio-heddphone-d1-frequency-response-measurements-discussion-thread/26583?page=2
32. HEDD Audio HEDDphone D1 Review — Page 2 of 2 — Headfonics, https://headfonics.com/hedd-audio-heddphone-d1-review/2/
33. The Best Studiophile Headphones Ever? | HEDD Audio D1 Review, https://bloomaudio.com/blogs/articles/the-best-studiophile-headphones-ever-hedd-audio-d1-review

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