Audio Review Blog Logo
Abyss AB-1266 Phi TC レビュー:ヘッドホン界の異端児、その深淵へ

Abyss AB-1266 Phi TC レビュー:ヘッドホン界の異端児、その深淵へ

2025/08/24 公開
2025/09/10 更新
Abyss
AB-1266 Phi TC
abyss-ab1266-phi-tc

ハイエンドオーディオの世界には、時として既存の常識を根底から覆すような製品が登場する。米Abyss Headphones社のAB-1266 Phi TCは、まさにそのような存在だ。単なる高級ヘッドホンというカテゴリーに収まらず、その設計思想、人間工学、そしてサウンドチューニングの全てにおいて、オーディオファイルに挑戦状を叩きつけるかのような、大胆不敵なステートメントである 1

このヘッドホンを取り巻く評価は、極端な二極化を示している。一部の熱狂的な支持者からは「地球上で最高のサウンドを持つヘッドホン」とまで称賛される一方で 3、その特異なデザインや装着感、そしてメーカーの姿勢に対しては厳しい批判も存在する 5。この評価の乖離こそが、AB-1266 Phi TCが単なる音響機器ではなく、一つの「現象」であることを物語っている。

本稿の目的は、この両極端な評価の狭間にある真実を探求することにある。熱狂と批判の双方に耳を傾け、AB-1266 Phi TCという製品を設計思想、物理的構造、主観的なサウンド体験、そして客観的な測定データの観点から包括的かつ中立的に解体・分析する。この深く、時に難解な「深淵(Abyss)」を覗き込むことで、この比類なきヘッドホンが一体誰のために存在するのか、その本質を明らかにしたい。

関連記事

Abyss AB-1266 Phi TC — Overview

  • メーカー / 型番: Abyss Headphones (a division of JPS Labs LLC) / AB-1266 Phi TC (Total Consciousness)
  • 発売日: 「Phi」モデルの国内受注開始は2018年2月頃。「TC」はその後継にあたる最新バージョンである。
  • 価格帯:
    • USD: Standard Packageが5,995USDから。CompletePackageは8,595 USDから始まり、ケーブルの仕様によっては$12,000 USDを超える。
    • 日本円: 2018年の国内発売時、AB-1266 Phiはパッケージにより約680,000円から1,100,000円の価格帯であった。Complete Packageは1,188,000円(税込)で販売されていた記録がある。現在の価格は為替レートや代理店によって変動する。
  • 主要スペック:

1. JPS LabsからAbyssへ:異端の血統

Abyss AB-1266 Phi TCを理解するためには、まずその出自、すなわち母体であるJPS Labs LLCの哲学に触れなければならない。Abyss Headphonesは、独立したブランドでありながら、JPS Labsの一部門として設立された経緯を持つ 7

JPS Labsの遺産:信号純度の徹底追求

1990年にジョー・スビンスキー氏によって設立されたJPS Labsは、ハイエンドオーディオケーブルの分野で確固たる地位を築いてきたメーカーである 7。彼らの設計哲学の根幹にあるのは、冶金学や材料科学といった基礎科学に基づいた、信号伝達における純度の徹底的な追求だ 7。特に、独自に開発したアルミニウムと銅の合金導体「Alumiloy」は、従来の導体では達成し得なかった帯域幅と透明度を実現したとして知られている 9。彼らにとってケーブルとは、単なるコンポーネント間の接続手段ではなく、音楽信号というエネルギーをいかに損失なく、汚染なく伝達するかという物理的課題への挑戦そのものである。

この思想は、製品の構造にも色濃く反映されている。完璧なシールドによる外部ノイズの遮断、共振の排除、そして信号経路の最短化。これらは全て、音楽信号以外の余計な要素を徹底的に排除し、ソースに記録された情報のみを忠実に伝えるための手段だ 7

ケーブルからヘッドホンへ:哲学の物理的顕現

スビンスキー氏がヘッドホン市場に参入を決意したのは、この「妥協なき信号伝達」という哲学を、ケーブルという受動的なコンポーネントから、音を実際に生成するトランスデューサーへと拡張する試みであった 2。5年もの歳月をかけた研究開発の末、2013年に発表された初代AB-1266は、既存のヘッドホン設計のルールをことごとく無視した異端児として登場し、瞬く間に市場に衝撃を与えた。「初打席でのホームラン」と評されるほどの完成度で、Abyssの名をハイエンドオーディオ界に刻みつけたのである 2

本稿で取り上げるAB-1266 Phi TCは、その初代モデルからPhi、CCと続く改良の系譜の頂点に立つモデルだ 12。「TC」とは「Total Consciousness(完全なる意識)」を意味し、新設計された66mm平面磁界型ドライバーがもたらす、前例のない解像度への自信の表れである 14。そして、その製造工程の全て—アルミニウムフレームのCNC切削加工からドライバーの生産、組み立てに至るまで—がニューヨーク州バッファローの自社工場で一貫して行われていることは、品質管理への徹底したこだわりを示している 3

JPS Labsのケーブル哲学が、AB-1266というヘッドホンでどのように具現化されたのかを考察することは極めて重要である。JPS Labsのケーブルが、外部ノイズから信号を守るための完璧な「シールド」を追求したように、AB-1266の重厚長大なオールメタルフレームは、ドライバーにとっての完璧な「シールド」として機能する。これは、シャーシ自体が発生させる不要な共振や振動という内部的な「ノイズ」からドライバーを隔離し、純粋な音楽信号のみを音波に変換させるための、音響的かつ機械的な要塞なのだ 14。この文脈で捉えれば、その常軌を逸した重量、工業製品然とした無骨なデザイン、そして高価なJPS Labs製ケーブルが標準パッケージに含まれるという販売戦略 15 も、一貫した設計思想の論理的帰結として理解できる。Abyssにとって、ヘッドホンとケーブルは別個の製品ではなく、一つの完璧な信号伝達システムを構成する不可分の要素なのである。

2. 設計と構造:機能美か、それとも拷問器具か

AB-1266 Phi TCのデザインは、一目見れば忘れられない強烈な個性を放つ。それは、一般的な「美しさ」とは異なる、機能性を突き詰めた結果としての造形美であり、同時に多くのユーザーを戸惑わせる原因ともなっている。

2.1. 工業デザインとビルドクオリティ

手に取ると、まずその圧倒的な物質感に驚かされる。シャーシはすべてCNC切削加工されたソリッドアルミニウム製で、耐久性の高いポリマーセラミックコーティングが施されている。プラスチック部品は一切使用されておらず、並外れた剛性と長寿命を約束する 12。イヤーパッドには柔らかいラムスキンレザー、ヘッドバンドにはクッション性の高いレザーが奢られ、素材選びにも一切の妥協がない 14。製品は手作りの木製ボックスに収められ、レザー製のキャリーバッグが付属するなど、パッケージング全体が一つのラグジュアリー体験として演出されている 2

2.2. 常識を覆すフィッティング機構

AB-1266 Phi TCの評価を二分する最大の要因が、この特異なフィッティング機構である。一般的なヘッドホンが側圧(クランプ力)によって頭部に固定されるのに対し、本機は頭部を締め付けるのではなく、「頭頂部に浮遊するように乗り、耳に軽く触れる」ように設計されている 1。この独特の装着感を実現するため、ユーザーには複雑で、ある種の「学習曲線」を要求する調整プロセスが委ねられている 20

  1. 幅調整: ユーザーはまず、ヘッドバンド上部の金属フレームを物理的に曲げることで、全体の幅と側圧の基本値を設定する必要がある。これは一度設定すれば頻繁に変えるものではないが、最初のステップとして極めて重要だ 12
  2. カップの回転と角度調整: 強力な磁石で固定されたイヤーカップは、取り外して回転させたり、前後方向に傾けたり(トーイン/トーアウト)することができる。これにより、耳に対するシールの具合を微調整する 1
  3. 高さ調整: 2ピース構造のヘッドバンドをスライドさせることで、垂直方向の位置を決める 12

重要なのは、この一連の調整が単なる快適性のためのものではなく、**「機械的なイコライゼーション」**として機能する点である。特にイヤーカップのシール具合は、サウンドに劇的な影響を与える。シールを甘くすると、一種のバスレフ効果により低域が増強されると感じられる一方、シールをきつくすると中高域のバランスが変化する 12

この設計思想は、ヘッドホンという製品の定義そのものを問い直す。ほとんどのヘッドホンが、誰が装着してもある程度一貫したサウンドを提供できるよう設計されているのに対し、AB-1266はユーザーを最終的なチューニングプロセスの当事者として巻き込む。ユーザーが自らフレームを曲げ、カップの位置をミリ単位で調整する行為は、いわば製品の「最終組み立て」に他ならない。これは、AB-1266が箱から出した時点で完成している「製品」ではなく、ユーザーのスキルと忍耐によってその真価が引き出される「楽器」や「ツール」に近い存在であることを示唆している。オンラインで見られる「低音が全く出ない」から「衝撃的な低音」まで、両極端なレビューの数々は、このユーザー依存のパフォーマンス特性を如実に反映していると言えるだろう 5。したがって、「装着感が悪い」という批判は、「ユーザーが最適なセッティングを見つけられていない」という可能性と表裏一体であり、このヘッドホンを語る上での最も根源的かつ難解な論点なのである。

3. サウンド分析:Abyssのハウスサウンドを暴く

AB-1266 Phi TCのサウンドは、その外観同様、唯一無二である。それは一般的なヘッドホンの音作りとは一線を画し、聴き手に強烈な体験を強いる。ここでは、その特徴的なサウンドシグネチャーを周波数帯域ごとに分析し、「Abyssのハウスサウンド」の正体に迫る。

3.1. 伝説的な低域:物理的な衝撃体験

このヘッドホンの名を最も轟かせているのが、その伝説的な低域再生能力だ。多くのレビューで共通して語られるのは、単なる量感ではなく、聴覚を超えて身体に直接訴えかけるような物理的なインパクトである。「衝撃的(concussive)」と表現されるその低音は、ハイエンドスピーカーシステムのサブウーファーがもたらす空気の振動に近い 1

しかし、その本質は量感だけではない。ドライバーの驚異的な応答速度が、複雑なベースラインのテクスチャーやディテールを一切の混濁なく描き分ける。ドラムのアタックは鋭く、その後の胴鳴りや皮の振動といった微細な情報までをも克明に再現する 2。そして前述の通り、この低域の量感はイヤーカップのシール具合によってユーザー自身が調整可能であり、音楽や好みに応じて変化させられるという、他に類を見ない柔軟性も持ち合わせている 12

3.2. 中高域:透明度と論争

中域: AB-1266の中域は、非常にクリーンでディテール豊かだが、全体的なバランスの中ではやや後退した、いわゆる「リセスされた」チューニングが施されている 12。この音作りは、後述する広大なサウンドステージの形成に大きく貢献しているが、同時にボーカルや中音楽器の温かみや肉厚感を重視するリスナーにとっては、物足りなさを感じる可能性がある 12。これは明確に「ウォーム」なサウンドではない 12

高域: 高域はどこまでも伸びやかで、空気感に満ち、極めて高い解像度を誇る。これがサウンド全体の透明感と広がりを生み出す重要な要素となっている 12。しかし、これもまた諸刃の剣となり得る。人によっては高域が強調されすぎていると感じる可能性があり、特に高域に敏感なリスナーにとっては聴き疲れの原因になるかもしれない 12。ただし、Phi TCモデルは旧モデルに比べて歯擦音(シビランス)が大幅に抑制されており、この点における洗練が見られる 12

3.3. 音場と定位:ザ・“ヘッドスピーカー”

低域と並ぶもう一つの柱が、その異次元のサウンドステージとイメージングだ。AB-1266は、音が頭の中で鳴っているという感覚を完全に払拭し、リスナーの頭の外側に広大で立体的な音響空間を構築する 1。ボーカルや楽器は、前後左右、そして高さの情報を伴って、あたかも適切にセッティングされたリスニングルームでスピーカーを聴いているかのように、ピンポイントで正確に定位する 1。Stereophile誌のハーブ・ライヒェルト氏は、その感覚を「まるでマイクが設置されたその場に立っているようだ」と評した 2

3.4. 全体的なキャラクターと音楽性

これらの要素が統合された結果、AB-1266 Phi TCのサウンドは、信じられないほどダイナミックで、高速、トランスペアレント、そして内臓を揺さぶるような(ヴィセラルな)ものとなる。その音作りは、音色の自然さや調和よりも、生の解像度、空間の正確な再現、そして物理的なインパクトを優先している。

この特性から、特定の音楽ジャンルでは無類の強さを発揮する。ダイナミクスと衝撃的な低域が求められるエレクトロニック・ミュージック、ドラムンベース、メタル、ロック、そして壮大なスケールの映画音楽などは、このヘッドホンの独壇場と言えるだろう 22。一方で、ピアノやアコースティックボーカルのように、楽器本来の自然な音色や豊かな響きが重視されるジャンルでは、その評価は分かれる。一部のレビューでは、ピアノの音が共鳴的な温かみよりも打鍵のパーカッシブな質感を強調しすぎると指摘されており、その独特なチューニングが好みを分ける要因となっている 26

なぜ、このように「不自然」とも言える中域や独特な音色を持つヘッドホンが、一部で「生音のようだ」と絶賛されるのだろうか。その答えは、心理音響学の領域にある。AB-1266が提示する、頭の外に広がる巨大な音場と物理的な低音の衝撃というラディカルな音響提示は、人間の脳を巧みに騙し、音が頭の「外」から、つまりスピーカーから来ていると錯覚させる。一度脳がこの「スピーカーを聴いている」という前提を受け入れると、伝統的な「頭内定位」のヘッドホンであれば違和感として認識されるはずの音色の逸脱に対して、寛容になるのだ。

つまり、AB-1266はリスナーに対して新しい「契約」を提示している。「私は他のヘッドホンのようには鳴らない。あなたのためのプライベートなリスニングルームとスピーカーシステムのように鳴る」と。この契約を受け入れられたリスナーにとって、その体験は超越的なものとなり得る。しかし、受け入れられなかったリスナーにとっては、そのサウンドは根本的に「間違っている」と感じられるだろう。これが、AB-1266に対する評価が「愛」か「憎」かに極端に分かれる理由である。それは単なる低域や高域の好みの問題ではなく、ヘッドホンという存在が「どうあるべきか」という、より根源的な認識の違いに起因しているのだ。

4. 測定データとEQの可能性:客観的指標との対話

主観的なリスニング体験が熱狂と困惑の間で揺れ動く一方で、客観的な測定データはAB-1266 Phi TCの音響特性について、また異なる側面を浮き彫りにする。

測定の難題

Audio Science Review (ASR) などで公開されている測定データを見ると、AB-1266 Phi TCの周波数特性グラフは極めて特異な形状をしている 18。一般的なターゲットカーブ(例えばハーマンターゲット)とは全く異なり、特に重要な中高域に大きな落ち込みが見られるなど、グラフ全体に渡って不規則なピークとディップが存在する 18

ただし、このヘッドホンの測定には本質的な難しさが伴うことを考慮しなければならない。その開放的な構造と、ユーザーによる調整が前提のフィッティング機構は、標準化された測定機器(イヤーシミュレーター)では、実際のリスニング体験を正確に再現しきれない可能性がある 28。測定値はあくまで一つの指標であり、その解釈には慎重さが求められる。

パワーの要求

スペックシートが示す88 dB/mWという低い感度と47Ωという公称インピーダンスは、このヘッドホンが市場で最も駆動が難しい部類に入ることを物語っている 14。その性能を最大限に引き出すためには、単に音量が取れるだけでなく、大電流を供給できる強力なヘッドホンアンプが不可欠である 1。一部のユーザーは、ヘッドホン出力ではなく、パワーアンプのスピーカー端子から直接駆動することを好むほどだ 25

歪率(THD):潜在能力と限界

メーカー公称の全高調波歪(THD)は1%未満、さらに耳が最も敏感な帯域では0.2%未満と、スペック上は極めて優秀な数値を誇る 14。この数値は、ドライバーが持つ基本的なポテンシャルの高さを示唆している。

しかし、第三者による測定では、より複雑な側面が明らかになる。Audio Science Reviewのテストでは、通常の使用範囲を超える非常に高い音量で駆動した場合に、歪みが増加することが報告されている 18。具体的には、大音量の女性ボーカルで高域が歪み、ブザーのようなノイズが発生したり、ベースが重い楽曲ではピークで「チッキング」音が生じたりするという 18。また、一部のユーザーからは、EQで低域をブーストして大音量で聴くと歪みが発生するという報告もある 44

これらの事実は、このヘッドホンの性能の限界点を示していると同時に、その卓越した能力の裏返しでもある。AB-1266 Phi TCは、その巨大なダイナミックレンジを活かすために莫大なパワーを要求する。アンプの限界、あるいはヘッドホン自体の物理的な限界まで追い込んだ時に初めて、歪みという形でその限界が露呈するのだ。高性能なレーシングカーが、一般車では到達不可能な超高速域で初めてタイヤのグリップ限界やブレーキ性能の限界を見せるように、AB-1266 Phi TCもまた、並のヘッドホンでは到底到達できない極限のパフォーマンス領域で初めて、その物理的な限界(歪み)を露呈するのだ。重要なのは、これが常軌を逸した条件下での話であり、通常のリスニングレベルでは問題にならないという点である 18。むしろ、後述するように周波数特性を補正するEQを適用すると、不要なピークが抑えられることで歪み感が減少し、明瞭度が向上するという報告もある 32。これは、ドライバー自体の歪み特性が本質的に優れている可能性を示していると言えるだろう。

イコライゼーション(EQ)の力

ここからが重要な点である。一見すると不規則でバランスの悪い周波数特性を持つにもかかわらず、AB-1266 Phi TCはイコライゼーション(EQ)に対して驚くほど良好な反応を示す。ASRのレビューでは、パラメトリックEQを用いて周波数特性の乱れを補正したところ、サウンドが劇的に改善したと報告されている 18。レビュアーは、EQ適用後のサウンドを「素晴らしい」と評し、「音色が大幅に改善され、最も素晴らしかったのは空間的な効果だった」と述べている。結果として、EQなしでは推奨できないとしながらも、EQを適用することを前提とすれば、高く推奨する、という結論に至った 18

この事実は、単に「EQで音が変わる」以上のことを示唆している。もしドライバー自体の性能(過渡応答、歪率など)が低ければ、EQを適用しても根本的な問題は解決せず、不自然な音になるだけである。AB-1266がEQによってこれほど劇的に、かつ肯定的に変化するということは、そのドライバーが技術的に極めて優れていることの客観的な証明に他ならない。つまり、歪みが非常に少なく、応答速度が速く、広大なダイナミックレンジを持つという、優れたドライバーの資質を備えているのだ。

ここから導き出されるのは、箱出しの状態の特異なチューニングは、技術的な限界によるものではなく、設計者による意図的かつ芸術的な選択であるということだ。Abyssは、音色のニュートラルさを犠牲にしてでも、特定の空間表現を優先したのである。EQを積極的に活用するユーザーにとって、AB-1266は二つの世界を提供する。一つは、設計者のラディカルな音響ビジョンをそのまま体験する世界。もう一つは、その並外れた技術的ポテンシャルを基盤に、自分好みの、よりオーソドックスでありながらも最高レベルのサウンドを彫琢する世界である。AB-1266は、箱出しの「完成度」が主観に大きく左右される一方で、計り知れない「潜在能力」を秘めたヘッドホンなのである。

5. 市場の声:毀誉褒貶の交差点

AB-1266 Phi TCほど、評価が真っ二つに割れる製品も珍しい。その評判は、熱烈な賛辞と手厳しい批判が交錯する、まさに毀誉褒貶の坩堝である。

メディア引用抜粋 (和訳+原文)評価点
Stereophile「JPSのヘッドホンは、完璧主義者のオーディオにおいて最高の価値を持つに違いない。」“The JPS ‘phones must also be the best value in perfectionist audio.”★★★★★
The Absolute Sound「これは世界クラスのヘッドホンであり、その音質は最先端の競合製品リストの頂点近くに位置する。」“…this is a world-class headphone whose sound quality places it near the top of any list of state-of-the-art contenders.”★★★★★
Positive Feedback「適切に駆動された時、Abyssは信じられないほどのスピーカーのようなプレゼンテーションと、体で感じられる深い低音であなたに応えてくれる。」“When driven properly, the Abyss rewards you with an incredible speaker like presentation and deep bass that you can feel.”★★★★☆
Audiokey Reviews「しかし、Abyss AB1266 Phi TCは全く別のレベルにあり、これほど圧倒的な性能差があるとは予想していなかった。」“The Abyss AB1266 Phi TC, however, is on another level altogether… I did not expect… such a commanding gap in performance between it and all others.”★★★★★
Head-Fi / Community「一般的に、市場で最もパンチがあり、衝撃的な低音を持っている。」“In general, they have the best, most punchy, and concussive bass on the market.”★★★★☆
Passion for Sound (YouTube)「特定のジャンルにとっては楽しいリスニングだが…6,000ドルという価格を考えると、私がお勧めするものではない。」(18:15)“It’s a fun listen for certain genres… but for $6,000 it’s not one I’m going to recommend.”★★★☆☆
Audio Science Review「EQなしではAbyss AB-1266 Phi TCを推奨できない。EQを使えば、価格を無視すれば喜びとなる。」“Without EQ, I cannot recommend the Abyss AB-1266 Phi TC. With EQ, it is a joy and recommended ignoring price.”(評価なし)
Reddit (r/headphones)「王様は裸だ…このヘッドホンは意味をなさない。」“The emperor has no clothes… this headphone makes no sense.”★☆☆☆☆

集計: 調査した主要なレビューソースを分析すると、評価は大きく二つの陣営に分かれる。一つは、その唯一無二の「体験」を称賛する体験主義的陣営。StereophileやThe Absolute Soundといった伝統的メディアや、多くのフォーラムユーザーがこれに属し、スピーカーに比肩する広大なサウンドステージと物理的な衝撃を伴う低音を高く評価している。彼らの評価軸は、厳密な音色の忠実性よりも、音楽の持つエネルギーやスケール感の再現に重きを置いているように見受けられる。これらのレビューには、高価な投資を正当化しようとする確証バイアスが働いている可能性も否定できない。

もう一方は、客観的な測定データを重視する客観主義的陣営である。Audio Science Reviewや一部のRedditコミュニティが代表的で、不規則な周波数特性や、大音量時に増加する歪みを厳しく批判する。彼らにとって、体験主義者たちの賛辞は、プラセボ効果か、あるいは単に色付けされた音への個人的な嗜好に過ぎないと見なされる傾向がある。

この評価の二極化は、単なる製品の好き嫌いを超えている。AB-1266は、その特異な音響特性――すなわち、卓越したダイナミクスとサウンドステージ、そして個性的なトーンバランス――によって、ハイエンドオーディオにおける根源的な対立、すなわち「主観的な音楽体験」と「客観的な測定性能」のどちらを優先すべきかという問いを、リスナーに突きつけるリトマス試験紙のような役割を果たしているのだ。このヘッドホンを評価することは、自らのオーディオ哲学を表明することと同義なのかもしれない。

ジャンル別聴感印象

  • クラシック音楽: 大編成のオーケストラでは、その広大で立体的なサウンドステージと圧倒的なダイナミクスが、コンサートホールにいるかのような臨場感を生み出すと評価されている 14。しかし、やや後退した中音域の特性により、ピアノや弦楽器の音色が本来の豊かさを失い、痩せて聴こえるという指摘も少なくない 26。音色の正確さよりも、空間の再現性とパワーに重きを置いたサウンドと言えよう。
  • ジャズ: 特にCC/TCモデルで採用された新しいイヤーパッドは、解像度と分離感を向上させ、ステージ上のミュージシャンの位置関係を驚くほど明瞭に描き出す 46。パーカッションやブラスの鋭いトランジェント(過渡応答)は、本機の高速なドライバーの独壇場である。一方で、ボーカルやサックスの持つ温かみや艶やかさは、独特の中音域のカラーレーションによって損なわれると感じる可能性もある 44
  • EDM / ロック / メタル: これらのジャンルこそ、AB-1266が真価を発揮する領域であると広く認識されている。他のいかなるヘッドホンも追随を許さない、内臓を揺さぶるような物理的な低音の「スラム(衝撃)」は、本機の最大の魅力に他ならない 12。その圧倒的なパワーとスピード感、そしてダイナミックなインパクトは、リズムとエネルギーを重視する音楽に、他に代えがたい興奮と身体的な快感をもたらす。

「スピーカーライク」という比喩の本質

レビューで頻繁に用いられる「スピーカーライク」という言葉は、何を意味しているのか。それは、一般的なヘッドホンが苦手とする二つの要素の達成を指していると解釈すべきだろう。第一に、空気を振動させ、聴覚だけでなく身体で感じる物理的な低音のインパクト。第二に、音が頭の中からではなく、頭の外、前方に定位する広大なサウンドステージである。

AB-1266の設計思想は、まさにこの二つの特性を最大化するために最適化されているように見える。その結果として生じるであろう、測定上の周波数特性の凹凸は、この至上命題の前では二次的な問題、あるいは意図的なチューニングの結果とさえ考えられる。多くのスピーカー愛好家が本機に惹かれるのは、彼らがスピーカーシステムに求める物理性と空間性を、ヘッドホンという形式で最も高いレベルで実現しているからに他ならない 22

6. 忖度なき競合製品比較:頂上決戦

AB-1266 Phi TCが存在する「サミットファイ(Summit-Fi)」と呼ばれる領域には、他にも独自の哲学と卓越した性能を持つ強豪がひしめいている。ここでは、その代表格であるHiFiMan SusvaraとAudeze LCD-5との比較を通じて、AB-1266の位置づけをより明確にする。

平面磁界型三強:スペック比較

まず、これら3つのフラッグシップモデルの基本的な仕様と市場での立ち位置を概観する。この比較は、各モデルがどのような物理的・電気的特性を持ち、リスナーにどのようなトレードオフを迫るのかを端的に示している。

特徴Abyss AB-1266 Phi TCHiFiMan SusvaraAudeze LCD-5
価格 (USD)~$5,995~$6,000~$4,500
ドライバー66mm 平面磁界型平面磁界型 (Nanometer Diaphragm)90mm 平面磁界型 (Parallel Uniforce)
重量~640g~450g~420g
インピーダンス47 Ω60 Ω14 Ω
感度88 dB/mW83 dB/mW90 dB/mW
サウンドの特徴ダイナミック、衝撃的な低音、広大な音場ニュートラル、繊細、自然な音色緻密、パワフル、フォーカスされた中域
装着感特殊、調整必須、重い非常に快適、軽量非常に快適、クラス最軽量

データソース: 14

vs. HiFiMan Susvara:衝撃の巨人とニュアンスの巨匠

これは、まさに音響哲学の対決である。AB-1266がパワー、ダイナミクス、そして内臓を揺さぶる「楽しさ」を追求するのに対し 22Susvaraはその中立性、繊細さ、そして信じられないほど自然で淀みのない音色で崇拝されている 12。Abyssがリスナーの胸を打つパンチならば、Susvaraは耳元で囁かれるあらゆるディテールだ。特にSusvaraは中域がより前面に出ており、リニアなため、オーケストラやボーカル主体の音楽ではAbyssよりも優れた選択肢となり得る 12

人間工学の面では、Susvaraが約450gと大幅に軽量で、長時間のリスニングでも快適であると広く認められている 34。しかし、駆動の難しさという点では、83dBという驚異的に低い感度を持つSusvaraがAbyssを上回り、アンプに途方もないパワーを要求する 33

vs. Audeze LCD-5:インダストリアリストとモダニスト

LCD-5は、Audezeが従来のダークで濃厚なハウスサウンドから、よりニュートラルでリファレンス志向のチューニングへと舵を切った象徴的なモデルである。それでもなお、パワフルで質感豊かな低域と密度感のある中域という、Audezeらしい特徴の片鱗は残している 37。AB-1266と比較すると、LCD-5の音響提示はより親密でフォーカスが合っており、頭の外に広がる広大な音場よりも、音源に直接迫るようなダイレクト感を重視している。Abyssの広大なルームシミュレーションに対し、LCD-5はより直接的で集中力の高いサウンドを提供する。

デザインと人間工学においては、LCD-5が420gというクラス最軽量を実現しており、Abyssの重厚長大さとは対照的だ 36。カーボンファイバーやマグネシウムといった先進素材を多用したその構造は、Abyssのブルータリズム的なオールメタル構造とは異なる、現代的なアプローチを象徴している。装着感も、LCD-5の方が遥かにオーソドックスで、箱出しの時点から多くの人にとって快適である。

7. 価値の審問:絶対性能と音楽性の天秤

AB-1266 Phi TCは、その絶対的な性能と引き換えに、多くのものをユーザーに要求する。その価値を判断するには、一般的な評価軸だけでは不十分かもしれない。

評価軸採点 (5点満点)解説
技術性能★★★★★ダイナミクス、スピード、解像度において比類なき性能を誇る。広大で層の厚いサウンドステージを構築する能力は最先端であり、静電型に匹敵するほどの微細なディテールを描き出す 45
音楽的魅力★★★☆☆ ★★★★★(特定ジャンル)ジャンルへの依存度が極めて高く、評価が分かれる。EDMやロックのような高エネルギーな音楽では最高の体験(★★★★★)を提供するが、自然な音色を重視するクラシックやボーカルジャズでは、その個性的な中音域が大きな欠点となりうる(★★☆☆☆)12
ビルドクオリティ★★★★★最高級。ソリッドアルミニウムからの削り出しで作られた筐体は、生涯にわたって使用できるほどの堅牢性を感じさせる。世界で最も堅牢に作られたヘッドホンの一つと評価されている。
価格対価値★☆☆☆☆従来の観点から見れば極めて低い。高価な本体価格に加え、高性能なアンプが必須であること、そして物議を醸すチューニングを考慮すると、合理的な選択とは言い難い。より安価な製品が、よりニュートラルで汎用性の高い性能を提供している 18
将来性 / 修理性★★★★☆堅牢な作りは長期使用を可能にする。メーカーはこれまでもドライバーやイヤーパッド、ヘッドバンドのアップグレードを提供しており、長期的な投資価値を維持する姿勢が見られる 9。ただし、修理は高額になり、本国送付が必要となる可能性が高い。

ポジティブ/ネガティブ要素の均衡

  • ポジティブ要素: 世界最高クラスのダイナミクスと「スラム」、息をのむような解像度、広大でスピーカーライクなサウンドステージ、比類なきビルドクオリティ、そして唯一無二のエキサイティングな音楽体験。
  • ネガティブ要素: 極めて高価な価格設定、独特で多くの人にとって快適とは言えない装着性、色付けされ後退した中音域、装着位置への高い感受性、そして非常にパワフルで高価なアンプが必須である点。また、メーカーが高価なアクセサリーケーブルを販売している事実は、一部のオーディオファイルから懐疑的な目で見られている 5

ここで、我々は製造元であるJPS Labsの哲学に立ち返らざるを得ない。彼らがケーブルにおいて追求する「絶対的な中立性」という理念と、フラッグシップヘッドホンであるAB-1266が示す個性的なサウンドシグネチャーとの間には、明らかな矛盾が存在する。これは、社内でケーブル部門とヘッドホン部門の哲学が異なることを意味するのか、あるいは彼らにとってトランスデューサーにおける「中立性」や「リアリズム」とは、測定上のフラットさとは異なる何か――例えば、音楽の持つエネルギーを最も忠実に伝達すること――を意味するのだろうか。この根本的な矛盾をどう解釈するかによって、AB-1266への評価は大きく変わってくるだろう。

8. 結論:深淵を覗く者へ

結論として、AB-1266は「最高のヘッドホン」という単一の王座を巡るレースに参加しているのではない。それは、競合製品が目指すバランスや普遍性といった妥協を拒絶し、独自の道を往く異端者である。ヘッドホンにおける「スラム」と「スピーカーライクな空間表現」という、他に類を見ない領域において、議論の余地なき王として君臨する。それは、その特定の、そして他では得難い体験を求めるリスナーにとっての、最終目的地となる製品なのである。まさに「異端の孤高」と呼ぶにふさわしい存在と言えよう。

  • おすすめしたい人:
    • 音色の自然さよりも、物理的なインパクト、マクロダイナミクス、そして頭の外に広がる広大なサウンドステージを優先するリスナー。
    • EDM、ロック、メタル、そして壮大な映画音楽のファン。
    • ハイエンドな2チャンネルスピーカーシステムが持つ物理性をヘッドホンで体験したいと願うオーディオファイル。
    • 価格を度外視し、妥協なき職人技による設計を評価するコレクターやエンスージアスト。
    • その厳しい要求に応えられる、パワフルで高品質なアンプを所有している、あるいは投資を厭わないリスナー。
    • そのポテンシャルを完全に引き出すため、独自のフィッティングシステムを習得する時間と労力を惜しまないリスナー。
    • ドライバーの計り知れない技術的能力を評価し、時にはEQを駆使してサウンドを自分好みに仕立て上げることを楽しむ「音の探求者」。
  • おすすめできない人:
    • ニュートラルなトーンバランス、ボーカルの自然さ、音色の正確性を重視するリスナー。
    • 重量や装着感に敏感な方。
    • あらゆるジャンルに対応できる、汎用性の高いヘッドホンを求める方。
    • 合理的なコストパフォーマンスを求める方。

そのモジュラー構造(イヤーパッド、ヘッドバンド)とメーカーのこれまでの姿勢は、将来的な進化の可能性を示唆している。サードパーティ製のアクセサリーによる更なるチューニングの余地もあるが、それは追加の投資を意味する。

AB-1266 Phi TCは、万人向けの製品では断じてない。しかし、その設計思想に共鳴し、その要求に応える覚悟のある者にとって、それは他のいかなるヘッドホンも提供し得ない、音楽の深淵を覗き込むような、唯一無二の体験を約束してくれるに違いない。

総合評価:★★★☆☆ (3.5)

この評価は、本機が brilliant but deeply flawed(華々しいが、深い欠点も持つ)な専門特化製品であるという事実を反映している。特定の狭い層にとっては五つ星の体験であるが、多くの人々にとっては一つ星の提案となりうる。その平均値は、物議を醸すであろうが、正直な中間点に着地せざるを得ない。

音色のニュートラルさ、中域の温かみ、箱出しでの快適性、あるいは手持ちのシステムとの親和性を重視するリスナーは、SusvaraやLCD-5により大きな満足を見出すだろう。AB-1266 Phi TCは、万能のリファレンス機ではなく、特定の目的を極限まで突き詰めた専門家のための道具である。それは、音楽をただ聴くだけでなく、可能な限り最も深く、物理的な形で「感じる」ことを求める、ごく一部のリスナーにとっての、究極の終着点(エンドゲーム)なのである。

引用文献

1. Abyss AB-1266 Phi TC Reference Headphone - HeadAmp, https://www.headamp.com/products/abyss-ab-1266-phi-tc
2. Gramophone Dreams #17: Abyss AB-1266 Phi headphones | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/gramophone-dreams-17-abyss-ab-1266-phi-headphones
3. // ABYSS Headphones- High Performance Audiophile Luxury Headphones, https://abyss-headphones.com/
4. ABYSS Headphones Reviews, https://abyss-headphones.com/pages/abyss-reviews
5. Abyss 1266 TC Review - Confounding : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/vjofi4/abyss_1266_tc_review_confounding/
6. Quick, Drunk, and Dirty, Abyss 1266 Phi Tc Review. : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/unimu6/quick_drunk_and_dirty_abyss_1266_phi_tc_review/
7. About JPS Labs LLC — JPS Labs®, https://jpslabs.com/pages/about-jps-labs-llc
8. Contact ABYSS® Headphones, https://abyss-headphones.com/pages/contact-abyss
9. JPS Labs | High End Audio Cables, https://www.thecableco.com/jps_labs.html
10. Cables Part 1 - Joe Skubinski talks about The Beginnings of an Audio Company - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=HQkGnxEQdMo
11. jps - Positive Feedback, https://www.positive-feedback.com/Issue4/jpssuperconductor.htm
12. Abyss AB-1266 Phi TC - Page 7 - Official Headphone Model …, https://forum.headphones.com/t/abyss-ab-1266-phi-tc/3896?page=7
13. The Newly Updated Abyss AB-1266 Phi TC Headphones – One of the Very Best, Just Got Better!, https://headphone.guru/the-newly-updated-abyss-ab-1266-phi-tc-headphones-one-of-the-very-best-just-got-better/
14. Abyss AB-1266 Phi TC Headphones - Upscale Audio, https://upscaleaudio.com/products/abyss-ab-1266-phi-tc-headphones
15. ABYSS AB1266 Phi TC - Woo Audio, https://wooaudio.com/headphones/abyss-1266
16. Designing the ABYSS AB1266, https://abyss-headphones.com/pages/ab_1266_design
17. Abyss AB-1266 Phi TC Headphone Complete Package - Audio46, https://audio46.com/products/abyss-ab-1266-phi-tc-headphone-complete-package
18. Abyss AB-1266 Phi TC Review (Headphone) | Audio Science Review (ASR) Forum, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/abyss-ab-1266-phi-tc-review-headphone.23411/
19. The best sounding headphone on the planet — Abyss AB 1266 TC - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=RN34PvW0C-U
20. Abyss 1266 TC - Confounding - Den-Fi.com, https://den-fi.com/abyss-1266-tc-review/
21. Abyss 1266 Phi TC Review : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/tsgjta/abyss_1266_phi_tc_review/
22. The Abyss AB 1266 Phi TC, The Best Audiophile Reference Headphones? - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=rRfApjEW7eE
23. The FOCAL UTOPIA, The ABYSS AB-1266. Two contenders enter and…both..leave together? Its a Tie! : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/4z305i/the_focal_utopia_the_abyss_ab1266_two_contenders/
24. Abyss AB-1266 Phi TC: Reflections! - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=jaYmUKsBF5Y
25. Abyss AB-1266 Phi TC - Page 4 - Official Headphone Model Discussion, https://forum.headphones.com/t/abyss-ab-1266-phi-tc/3896?page=4
26. Jaw-Dropping Sound or Massive Rip-Off? Abyss 1266 Phi TC review - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=lS9Pf1bEyuw
27. Gramophone Dreams #17: Abyss AB-1266 Phi headphones Page 2 | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/gramophone-dreams-17-abyss-ab-1266-phi-headphones-page-2
28. Gramophone Dreams #72: Abyss Diana & Focal Utopia headphones; Eleven Audio Broadway & Naim Uniti Atom HE amplifiers | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/gramophone-dreams-72-abyss-diana-focal-utopia-headphones-eleven-audio-broadway-naim-uniti
29. Headphone Frequency Response Measurements & Why They Don’t Matter - Moon Audio, https://www.moon-audio.com/blogs/expert-advice/headphone-frequency-response-measurements-why-they-dont-matter
30. Measurements and Frequency Response in Headphones, https://headphones.com/pages/measurements-and-frequency-response
31. Why Do Planar Magnetics Have Weird Highs? : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/1fwxay8/why_do_planar_magnetics_have_weird_highs/
32. Abyss AB-1266 Phi TC Review (Headphone) | Page 15 | Audio Science Review (ASR) Forum, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/abyss-ab-1266-phi-tc-review-headphone.23411/page-15
33. Susvara - Headphones & portable audio - HIFIMAN.com, https://m.hifiman.com/products/detail/275
34. HiFiMAN Susvara Review - Endgame Flagship Planar - Headphones.com, https://headphones.com/blogs/reviews/hifiman-susvara-review-endgame-flagship-planar
35. HIFIMAN Susvara Planar Magnetic Headphone - Apos, https://apos.audio/products/hifiman-susvara-planar-magnetic-headphone
36. Audeze LCD-5 headphones Specifications - Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/audeze-lcd-5-headphones-specifications
37. Audeze LCD-5 Flagship Planar Headphones for Audiophiles, Open-Back, https://www.audeze.com/products/lcd-5
38. SUSVARA - Hifiman’s Store, https://store.hifiman.com/index.php/susvara.html
39. Audeze LCD-5 Open-Back Planar Magnetic Headphones 100-L5-1025-02 - B&H, https://www.bhphotovideo.com/c/product/1703202-REG/audeze_100_l5_1025_02_lcd_5_planar_magnetic_over_ear.html
40. Abyss AB1266 Phi TC Review - Weird, but fun? - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=zrnTkyEBUSs
41. HiFiMan SUSVARA Headphones - Moon Audio, https://www.moon-audio.com/products/hifiman-susvara-headphones
42. Audeze LCD-5 | Open-Back Planar Magnetic Headphones-Bloom Audio, https://bloomaudio.com/products/audeze-lcd-5
43. Abyss AB-1266 Phi CC edition planar magnetic headphones - The …, https://www.theabsolutesound.com/articles/abyss-ab-1266-phi-cc-edition-planar-magnetic-headphones/
44. Focal Utopia, Abyss Phi CC, and the Hifiman Susvara - Three End …, https://positive-feedback.com/reviews/hardware-reviews/focal-utopia-abyss-phi-cc-hifiman-susvara/
45. ABYSS AB1266 PHI TC - REVIEW - AUDIOKEY REVIEWS, https://www.audiokeyreviews.com/the-reviews/abyss-ab1266-phi-tc
46. Abyss AB-1266 Phi CC Lambskin - Not Your Daddy’s Ear Pads - Audio Bacon, https://audiobacon.net/2018/08/31/abyss-ab-1266-phi-cc-lambskin-not-your-daddys-ear-pads/

関連記事