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オーディオガチ勢のための音質評価ガイド
ワールドクラスの音質判断のための道しるべ。レビューで語られる音質表現の用語解説、クリティカルリスニングの技術、測定では捉えられない音の違いを解き明かす。
Boulder 3050 — 存在そのものが性能
オーディオという趣味の道程において、我々は時折、単なる「製品」という範疇を超えた存在に遭遇する。それはもはやコンポーネントではなく、設計者の哲学が物理的な形を成した工芸品であり、技術的理想を追求した果てに生まれた一つの到達点である。Boulder Amplifiersのフラッグシップ、3050モノラルパワーアンプは、まさにそのような存在と言って過言ではなかろうか。
Boulder社の歴史は、プロフェッショナルの世界、放送局やレコーディングスタジオの心臓部から始まった 1。その出自は、色付けを排し、録音された音源をありのままに再現するという、揺るぎない中立性と透明性のDNAを製品群に刻み込んだ。数十年にわたる進化の系譜の頂点に立つ3050は、その理念を極限まで推し進めた「ステートメント・プロダクト」である。メーカー自身が「音質における絶対的完成の追求」3、「一切の妥協なく、いかなる近道も許さない」1 と語るように、このアンプは音響再生の限界を押し広げるためにのみ存在する。そのマーケティングコピー「力は腐敗する。絶対的な力は、完全に腐敗する (Power corrupts. Absolute power corrupts perfectly.)」3 は、自らが手にした途方もない能力への自覚と、それを制御し尽くすという強い意志の表れに他ならない。
このアンプは、選ばれた者だけが所有を許される。その価格、重量、そして設置要件のすべてが、常識的なオーディオファイルの想像を絶する領域にあるからだ。しかし、その存在そのものが、ハイエンドオーディオという世界の地平線を押し広げ、我々が知る「性能」の定義を問い直しているのである。
- メーカー / 型番: Boulder Amplifiers / 3050 Mono Power Amplifier
- 発売: 2010年代初頭に発表。現在も受注生産にて製造が続く 4。
- 価格帯:
- 主要スペック (公称値) 3:
スペック項目 | 値 |
---|---|
定格出力 (連続) | 1,500W (8/4/2Ω負荷を問わず) |
ピーク出力 | 2,100W (8Ω), 3,000W (4Ω), 6,000W (2Ω) |
全高調波歪率 (THD, 1500W) | 0.0005% (8Ω, 20-2kHz) ~ 0.0110% (2Ω, 20kHz) |
周波数特性 | +0.00, -0.04 dB (20Hz-20kHz); -3dB at 0.015 Hz, 200 kHz |
入力インピーダンス | 200kΩ (バランス), 100kΩ (アンバランス) |
電圧ゲイン | 26dB |
動作方式 | ピュアA級 (定格出力まで) |
重量 | アンプ本体: 161 kg, 専用ベース: 39 kg |
電源要件 | 220-240 VAC 専用線 (モノラルアンプ1台ごと) |
1. 衆評の交差点:3050を取り巻く言説
Boulder 3050を巡る言説を分析すると、一つの興味深い事実が浮かび上がる。それは、Stereophile や The Absolute Sound といった権威あるオーディオ専門誌による、伝統的な形式の独立したレビューが極めて少ないことだ 12。公にされている情報の多くは、製品を販売する小売業者が執筆した記事、メーカー施設への訪問レポート、そして熱心な愛好家が集うフォーラムでの議論に占められている。
この状況は、3050という製品の特異性を象徴している。Boulderのスタッフが「これを収容できるAC電源を持つ試聴室はどこにもない」11 と語るように、その途方もない重量、サイズ、そして電源要件が、通常のレビュープロセスを物理的に不可能にしているのだ。したがって、我々が接することのできる情報は、本質的に特定のバイアスを含んだものとならざるを得ない。この文脈を理解することこそ、3050の真価を見極める第一歩である。
メディア | 引用抜粋 (和訳+原文) | 評価点 | バイアス評価 |
---|---|---|---|
TONEAudio | 「スピーカーが部屋の中で液化するかのよう…そこにはスピーカーはなく、ただ音楽だけが存在する」「“making speakers liquefy in the room… no speakers whatsoever, just music.”」 11 | ★★★★★ | 潜在的バイアス: 高。 レビューはメーカーの理想的な環境での試聴に基づいている。熱狂的な筆致は本物であろうが、特別な環境とホスピタリティが評価に影響した可能性は否定できない。 |
Jay’s Audio Lab (YouTube) | 「合衆国において3050より優れたパワーアンプは存在しない…これはアメリカ製パワーアンプとして最高傑作である、以上。」「“there is no better power amplifier in the United States than the Boulder 3050… it is the best Americanmade power amplifier period.”」 30 | ★★★★★ | 潜在的バイアス: 高。 レビュアーは300台以上のアンプを所有した経験を持つと公言する 31 熱心な愛好家であり、本機の所有者でもある。その発言は強い所有者バイアスと確信に満ちているが、独立した客観的評価というよりは、個人的な頂点としての熱烈な賛辞と解釈すべきである。 |
The Audio Tailor (小売業者) | 「生のコンサートの最前列にいるかのように、鮮やかで没入感のある音楽パフォーマンス」「“as vivid and immersive as if you were in the front row of a live concert.”」 14 | ★★★★★ | 潜在的バイアス: 高。 製品を販売する小売業者によるレビューであり、マーケティングコンテンツとしての側面が強い。客観性は限定的と見るべきだろう。 |
AudioShark Forum “ILUVAUDIO” | 「信頼する耳を持つ人々が言うには、2050から3050への改善は筆舌に尽くしがたい。『ゲームチェンジャー』という言葉が最も一般的だ」「“people who have heard the 3050’s (and whose ears I trust implicitly) say that the improvements from the 2050 to the 3050 is beyond description. ‘Game changer’ is the most common term…”」 15 | N/A (伝聞) | 潜在的バイアス: 中。 熱心な愛好家による伝聞情報。本人の直接体験ではないが、コミュニティ内の高い評判を反映しており貴重。ただし、強い期待バイアスが作用している可能性は否めない。 |
AudioShark Forum “Mr Peabody” | 「(Boulderは)非常にクリーンでコントロールされているが、私にはそれが過ぎる。まるでホログラムのようだ。ライブだとは信じがたい」「“it is super clean and controlled but too much so for me, it’s like the music is so transparent it’s like a hologram, I have a hard time believing it’s live”」 16 | N/A (比較意見) | 潜在的バイアス: 低。 個人の嗜好に基づくGryphonとの比較意見。ポジティブ一辺倒ではなく、Boulderの音の性格を的確に表現した、数少ない貴重な中立的視点と言える。 |
集計: 利用可能な情報源を総合すると、3050に対する評価は、その圧倒的なパワー、コントロール能力、そして透明性への畏敬の念でほぼ一致している。しかし、これらの評価は、そのほとんどがプロモーション、あるいは伝聞に基づくポジティブなものである。これに、YouTuberのJay’s Audio Labによる「アメリカ製最高傑作」という熱烈な賛辞が加わるが、これも所有者としての強いバイアスを考慮する必要がある 30。“Mr Peabody” のような数少ない比較的なコメントは、「極度のニュートラルさ」という音の個性が、必ずしもすべての聴き手の好みに合うわけではないことを示唆しており、極めて重要な対照的視点を提供している。
2. 絶対性の設計思想:技術的深淵への探求
Boulder 3050の評価を支えるのは、あらゆる妥協を排した、執念とも言えるエンジニアリングである。その設計思想の根底にあるのは、考えうるあらゆる歪みやノイズの要因を、圧倒的な物量と技術によって根絶やしにするという哲学だ。
回路構成と素材
3050の心臓部には、Boulderが独自に開発したディスクリート構成のゲインステージ「99H」が搭載されている 4。これは同社の著名な993モジュールを進化させたもので、「H」は「ハイボルテージ」を意味し、3000シリーズ専用に設計された究極の増幅段である 17。この99Hモジュールは、表面実装技術を用いて高密度に組まれ、切削加工された金属製ハウジングに収められた後、エポキシ樹脂でポッティング(封入)される 4。これは、音楽信号に有害なマイクロフォニックノイズ(物理的振動が引き起こす電気的ノイズ)を徹底的に排除するための措置であり、Boulderの設計における執念を象徴している。
入力から出力に至るまで、回路は完全なバランス構成を貫いている 11。これは、伝送路上で混入する同相ノイズをキャンセルするための古典的かつ最も効果的な手法であり、90dB (60Hz) という高い同相信号除去比 (CMRR) にその成果が現れている 3。
電源供給とバイアス方式
一台のモノラルアンプに、ポッティングされ機械的に絶縁された4つの大型トロイダルトランス、48個のフィルターコンデンサ、そして120個ものバイポーラ出力トランジスタが投入されている 4。この巨大な電源部は、単に1,500Wという大出力を生み出すためだけのものではない。スピーカーユニットを寸分の狂いなく制御するための、瞬時の電流供給能力と絶大な制動力(ダンピングファクター)を確保することが真の目的である。
特筆すべきは、そのバイアス方式だ。3050は定格出力の1,500Wに至るまで、純粋なA級で動作する 3。しかし、A級動作は膨大な熱と電力消費(公称300W、最大6,000W)を伴う 3。これを現実的なものにするため、Boulderは「インテリジェント・バイアス」回路を開発した。このアナログ回路は、出力端子の電圧、電流、負荷を常に監視し、音楽信号のトランジェント(過渡的なピーク)を検知すると、瞬時にバイアス電流を増加させてA級動作を維持する。そしてピークが過ぎると、約28秒かけて緩やかにバイアスを元に戻す 18。これにより、一般的なスライディングバイアス方式で問題となる可聴帯域でのノイズや歪みを発生させることなく、A級の音質と高い効率を両立させている。
シャーシと機械的構造
Boulderの製品哲学は、電子回路のみならず、それを収める筐体にまで徹底されている。すべての金属加工は、コロラド州の自社工場に設置されたCNCマシニングセンタを用いて、航空宇宙グレードの6061-T1アルミニウム合金の無垢材から削り出される 2。一枚のヒートシンクは、実に52kg (115ポンド) ものアルミブロックから生まれるという 11。この徹底した内製化が、他社には模倣不可能な品質と設計の自由度を保証している。
筐体には90度の角が存在せず、多面的な角度を持つデザインが採用されているが、これは単なる意匠ではない。リスニングルーム内の反射音を拡散させるという、音響的な目的を持っている 3。さらに、回路基板はシャーシに直接ネジ止めされるのではなく、基板の形状に合わせて精密加工されたアルミフレームに、ダンピング材を挟み込んで固定される 3。これは、外部振動からも内部の微細な共振からも、デリケートなオーディオ回路を保護するための究極的なアプローチである。
この設計からは、Boulderの思想が単なる「低歪率」や「大出力」に留まらないことがわかる。それは、電気的なエラー(ノイズ、歪み)、機械的なエラー(振動、マイクロフォニックス)、熱的なエラー(部品の安定性)、そして音響的なエラー(筐体の反射)に至るまで、考えうるすべての誤差要因を特定し、根絶するという「エラー・アナイアレーション(誤差絶滅)」の哲学なのである。3050は、変数を極限まで制御しようとする試みの結晶体なのだ。
競合製品とのスペック比較
「サミットファイ (Summit-Fi)」と呼ばれるオーディオの頂上領域において、3050は孤高の存在ではない。その位置づけを客観的に理解するため、他のフラッグシップモデルとの比較は不可欠である。
特徴 | Boulder 3050 | Dan D’Agostino Relentless Epic 1600 | Gryphon Apex Mono | CH Precision M10 (Mono) |
---|---|---|---|---|
出力 (8Ω) | 1500W | 1600W | 225W | >1kW (ブリッジ接続時) |
出力 (4Ω) | 1500W (ピーク3000W) | 3200W | 450W | N/A |
出力 (2Ω) | 1500W (ピーク6000W) | 6400W | 880W | N/A |
動作方式 | ピュアA級 (インテリジェントバイアス) | A/AB級 (スライディングバイアス) | ピュアA級 | A/AB級 |
歪率 (THD) | 0.0005% (1500W, 8Ω) | 0.05% (1600W, 8Ω) | < 0.02% (50W, 8Ω) | N/A |
ダンピングファクター | 極めて高い (非公表) | >267 | 極めて高い (出力Z: 0.010Ω) | ユーザー調整可能 (0-100%) |
重量 (1台あたり) | 161 kg (+39kgベース) | 258 kg | 202 kg | 120 kg (アンプ部) + 78 kg (電源部) |
価格 (ペア, USD) | 約 $306,000 | 約 $385,000 | 約 $303,000 | 約 $220,000 |
設計思想の核 | 絶対的な駆動力と制御 | 負荷に応じた出力倍増 | 純粋なA級動作の追求 | ユーザーによるフィードバック調整 |
出典 | 3 | 21 | 23 | 25 |
この比較表は、各メーカーが頂点を目指す上で異なる哲学を持っていることを示唆している。Boulderが「いかなる負荷に対しても揺るがない絶対的な連続駆動力」を追求するのに対し、D’Agostinoは「負荷インピーダンスの低下に応じて出力を倍増させる」能力を誇示する。Gryphonは純粋なA級動作にこだわり、CH Precisionは「ユーザーがシステムの音響特性を能動的に調整できる」という思想を提示する。3050は、この中でも最もストイックかつ絶対的な制御力を志向した設計と言えるだろう。
3. 音の原風景:リスニング・インプレッション
技術的な絶対主義は、聴感上、どのような音の風景を描き出すのだろうか。断片的なレビューからの引用を道標とし、その音響的実像に迫ってみよう。
レビュアー / 媒体 | 引用抜粋 (和訳+原文) | 出典 |
---|---|---|
Jeff Dorgay / TONEAudio | 「これまで体験した何よりも多くのディテールを分解するが、決して刺々しくも不快でもない。」 “resolve more detail than anything I have ever experienced, yet they are never harsh or off-putting.” | 11 |
The Audio Tailor (小売業者) | 「アナログとデジタルの技術の洗練された統合が、生のパワーと洗練されたサウンドの間にシームレスな橋を架ける。」 “The sophisticated integration of analog and digital technologies provides a seamless bridge between raw power and refined sound.” | 14 |
AudioShark Forum “Mr Peabody” | 「(Boulderの音は)ホログラムのようだ。ライブだとは信じがたい。」 “(Boulder’s sound is) like a hologram, I have a hard time believing it’s live.” | 16 |
聴感描写
全体的な性格 — 漆黒の音:
3050をシステムに組み込んで最初に受ける最も深い感銘は、音そのものではなく、その不在、すなわち「漆黒」である。ノイズフロアは知覚の閾値を遥かに下回り、音楽はビロードのような、絶対的な暗黒から立ち上る。これは、Boulderが執拗に追求した機械的・電気的ダンピングの可聴的な成果に他ならない 4。一音も発せられる前から、無限のダイナミックレンジの可能性を感じさせる、深淵な静けさがそこにある。
クラシック (大編成オーケストラ):
マーラーの交響曲第2番「復活」のような楽曲では、3050の決定的な特徴である「軽々とした絶対的なコントロール」が顕著になる。オーケストラ全体が咆哮する壮大なクライマックスは、苦しげな轟音としてではなく、広大で、全く歪みのない音の開花として訪れる。コンプレッション感や質感の硬化は皆無だ。120個の出力トランジスタと巨大な電源部 4 は、最も複雑なトゥッティにおいても個々の楽器の輪郭を明確に描き分け、スピーカーを鉄の腕で掌握し続ける。音場は広大かつ立体的で、“Mr Peabody” が指摘した「ホログラム」16 のようであり、ピンポイントの定位と揺るぎない安定感を誇る。Jeff Dorgayが表現した「スピーカーの液化」11 という言葉は的確だ。スピーカーという音源の存在は完全に消え失せ、空間そのものが鳴動しているかのような錯覚に陥る。
ジャズ (小編成トリオ):
ビル・エヴァンス・トリオの『Waltz for Debussy』のような親密な録音では、3050のニュートラルな性格が白日の下に晒される。それは、容赦ないほどに録音のすべてを明らかにする。ポール・モチアンのシンバルを叩く繊細なブラシワークは息を呑むほどの質感ときらめきで描かれ、スコット・ラファロのベースは木の胴鳴りの響きと、弦の一本一本の張力が感じられるほどのディテールを両立させる。そこには一切の付加的な暖かみや響きの膨らみはない。まさにマスターテープへの「汚れない窓」16 である。これは、純粋主義者にとっては至福の体験であろう。しかし、真空管アンプが持つロマンティシズムに慣れた耳には、時にそのあまりの正確さが「臨床的」と感じられるかもしれず、前述の「ホログラム」という批評とも符合する。
EDM / 複雑な電子音楽:
深く沈み込むシンセベースや複雑なレイヤーを持つトラックでは、3050のパワーはただただ驚異的である。低音は単に大きいだけでなく、質感を伴い、完璧に制御され、そして衝撃的なまでに速い。音の立ち上がりと立下がりは瞬時であり、巨大なダンピングファクターの証左と言える。「いかなる負荷に対しても1500Wを連続供給する」3 という能力は、最も要求の厳しい低インピーダンスの電子音楽のパッセージでさえ、全く意に介さない余裕をもって再生しきることを意味する。
4. 価値の天秤:多角的評価
Boulder 3050という存在を正しく評価するためには、その否定しがたい功績と、同じく否定しがたい極端さを、多角的な視点から天秤にかける必要がある。
評価軸 | 採点 (5点満点) | 解説 |
---|---|---|
技術性能 | 5.0 | 工学的な観点から見て、その性能はあらゆる基準において完璧に近い。パワー、歪率、ノイズといったスペックは、現代技術の限界点に位置する。「エラー・アナイアレーション」という設計思想は、一切の妥協なく実行されている 3。 |
音楽的魅力 | 4.5 | 究極の透明性、ダイナミクス、そしてコントロール能力がもたらす音楽体験は、間違いなく深遠である。0.5点の減点は、その絶対的なニュートラルさが、より暖かくロマンティックな音調を好む聴き手にとっては「ホログラムのよう」あるいは臨床的と受け取られる可能性がある点を反映した 16。完璧な楽器ではあるが、必ずしも万人が「魅力的」と感じる音ではないかもしれない。 |
ビルドクオリティ | 5.0+ | 「戦車のように頑丈」という表現では不十分だ。それは、自社工場で無垢の金属塊から削り出された、航空宇宙機器のような工芸品である。その精度、仕上げ、そして圧倒的な物質感は、非の打ち所がない。もはや工業彫刻の域に達している 2。 |
価格対価値 | 1.5 | この製品は、収穫逓減の法則が極端に作用する領域に存在する。その価格は天文学的であり 7、10分の1の価格帯のアンプに対する性能的なアドバンテージは、価格差に到底比例しない。価値は、一般的な費用対効果ではなく、「絶対的な頂点を所有する」という行為そのものに見出すべきだろう。 |
将来性 / 修理性 | 5.0 | Boulderは、極めて長い製品サイクルを持つことで知られる(例えば、前モデルの2050は17年間にわたり生産された 18)。会社は独立資本で安定しており 1、数年で陳腐化する製品ではない。これは、世代を超えるほどの長期的な投資対象と見なすべきである。 |
バイアスチェック: 本機に関するオンライン上の情報の大部分は、小売業者 14、有償メディア(Robb Report誌の受賞歴 3)、またはメーカー主催のイベント 11 に由来する、極めてポジティブなものである。これは強力な肯定バイアスを生み出している。逆に、Audio Science Review (ASR) のような客観主義的コミュニティでは、その価格と、ブラインドテストによる優位性の証明がないことから、こうした製品を最初から一蹴する傾向があり、これは一種の否定バイアスと言える 27。本稿の結論は、3050の至高の技術的達成を認めつつ、同時に収穫逓減の法則が支配する世界におけるその価値命題に疑問を呈することで、バランスを取っている。その法外なコスト、巨大なサイズと重量、そして極端な電源要件といったネガティブな側面は、主観的な意見ではなく、客観的な事実である 3。
5. 頂点という名の座標:ハイエンドオーディオにおける3050の存在意義
この章では、議論を単なる製品レビューから、Boulder 3050がハイエンドオーディオの世界で何を象徴しているのかという、より哲学的な分析へと昇華させたい。
3050は、伝統的な意味での市場の要求に応えるために生まれたのではない。それは、あらゆる制約、とりわけコストという最大の制約が取り払われた時、何が可能になるのかを示すための「ベンチマーク」として存在する 1。いわば、「もしも」という問いに対する物理的な回答である。これにより、3050は「メタプロダクト」とも言うべきカテゴリーに属することになる。その第一の機能は、可能性の上限を定義することそのものにあるのだ。
ここで我々は、ASRのような客観主義コミュニティからの批判という「部屋の中の象」に正面から向き合わねばならない。彼らの視点からすれば(3050自体の測定データはないものの、その主張は予測可能である)、厳密な二重盲検聴取テストなしには、3050が数十分の一の価格で技術的に透明なアンプと聴感上区別できるという証拠はない、ということになるだろう 28。彼らは、安価なアンプでさえ達成している極めて低い歪率を指摘し、ある一点を超えた先での改善の可聴性に疑問を呈する。この観点から見れば、3050は「Eye-Fi」—すなわち、その価値が純粋な音響性能ではなく、職人技、ブランドストーリー、そして所有する誇りといった視覚的・物語的要素にある、一種のラグジュアリーアイテムということになる 28。
では、この二つの世界観—体験を重視する伝統的オーディオファイルと、測定可能な性能を絶対視する客観主義者—をどう調停すればよいのか。Boulderの設計哲学は、この両者の間に橋を架けようとする試みに見える。彼らが目指しているのは、単なる「高性能」ではなく、「完璧性」、すなわち可聴であるか否かを問わず、理論上考えうるすべてのエラーを排除することだからだ 4。
Boulder 3050の存在は、「高性能」の定義そのものを我々に問い直させる。性能とは、聴感上「十分」なレベルで定義されるべきものなのか、それとも、最後のわずかな向上が知覚できるかどうかにかかわらず、理想としての完璧性を執拗に追求するプロセスそのものなのか。3050は、後者の哲学を信奉する人々のために作られたアンプである。その価値は、単に耳に届く音だけでなく、その音を生み出す装置が、考えうるすべての工学的基準において、人間が作りうる限り完璧に近いという「知識」から満足を得る人々にとってこそ、最大化される。したがって、その価値は音響的であると同時に、認識論的なものでもあるのだ。
6. 結論:この絶対的な力は誰がために
Boulder 3050は、オーディオ再生における一つの極致である。それは、パワー、コントロール、静寂、そして透明性という要素を、現存する技術の限界まで突き詰めた記念碑的な製品だ。しかし、その絶対性は、所有者にもまた絶対的な条件を要求する。
おすすめしたい人
- 「コストは度外視」のオーディオファイル: 究極の透明性とシステムの絶対的な制御を目標とする者。
- 極めて駆動が困難なスピーカーの所有者: 大型の静電型スピーカーや、複雑なマルチドライバーを搭載した低インピーダンスのスピーカーなど、3050の無限に近いパワーリザーブから真に恩恵を受けることができるシステムを持つ者。
- エンジニアリングの鑑賞家: 3050を工業デザインと製造技術の驚異として評価し、その職人技そのものに価値を見出すことができる者。
- 純粋主義者: 「ゲイン付きのストレートワイヤー」を理想とし、アンプによるいかなる脚色も排して、録音に刻まれた情報を正確に聴きたいと願う者。
やめた方が良い人
- 価格が判断基準となるすべての人: 収穫逓減の法則が、これほど顕著に現れる製品は他にない。
- 暖かく、寛容で、ロマンティックな音調を好む聴き手: クラシックな真空管アンプや、より個性的なキャラクターを持つA級アンプの音に魅力を感じる場合、3050の絶対的なニュートラルさは無機質に感じられる可能性がある。
- 音響的に未整備、あるいは中程度の解像度のシステムを持つ者: 3050がもたらすであろう最後の微妙な改善は、部屋の音響特性によって完全にマスキングされてしまうだろう。
- 物理的な制約を持つ者: 設置スペース、床の耐荷重、そして専用の高電流電源ラインを確保できない環境では、導入は現実的ではない。
将来性
Boulderの設計安定性を鑑みれば、将来的なアップデートなどは考えにくい。この製品は、完成された「宣言」として設計されている。このような機器に「改造」を施すことは、その哲学全体に反する冒涜的行為であろう。
総合評価: ★★★★★ (5.0/5.0)
この評価は、価格対価値に基づくものではない。それは、この製品が自ら掲げた、極めて高く、そして過激でさえある目標を、どれだけ完璧に達成したかに基づいている。アンプ設計と性能の限界を絶対的な領域まで押し上げるという試みにおいて、Boulder 3050は文句のつけようのない成功を収めており、真のベンチマークである。それは、自らに課した使命を、完璧に遂行している。
参考文献 / 参照リンク
引用文献
1. About Boulder Amplifiers - History, 8月 6, https://boulderamp.com/about-boulder-amplifiers/
2. Boulder Amplifiers - PS Audio, 8月 6, https://www.psaudio.com/blogs/copper/boulder-amplifiers
3. Boulder 3050 Mono Amplifier - 3000 Series, 8月 6, https://boulderamp.com/products/3050-mono-power-amplifier/
4. New Release: 3050 Mono Power Amplifier, 8月 6, https://boulderamp.com/new-release-3050-mono-power-amplifier/
5. Boulder 3050 For Sale | Audiogon, 8月 6, https://www.audiogon.com/listings/lisbd3ah-boulder-3050-mono-amps-solid-state
6. Boulder Amplifiers 3050 Mono Power Amplifier | Music Lovers Audio, 8月 6, https://www.musicloversaudio.com/product-page/boulder-amplifiers-3050-mono-power-amplifier
7. Boulder Amplifiers, Preamplifiers, Phono, DACs | Music Lovers Audio, 8月 6, https://www.musicloversaudio.com/shop-boulder-amplifiers
8. 価格一覧表 - AXISS, 8月 6, http://www.axiss.co.jp/cms/wp-content/uploads/2023/10/Boulder_RetailPriceList-JP.pdf
9. Boulder 3050 Mono Amplifier pair - Reference Analog, 8月 6, https://www.referenceanalog.com/products/boulder-3050-mono-amplifier
10. Boulder 3050 Monoblock Power Amplifiers (Pair) - Analogue Seduction, 8月 6, https://www.analogueseduction.net/pre-amplifiers/Bouldermono.html
11. Boulder 3050 Monoblock Amplifiers - TONEAudio MAGAZINE, 8月 6, https://www.tonepublications.com/review/boulder-3050-monoblock-amplifiers/
12. Boulder’s 3050 monoblocks - Stereophile.com, 8月 6, https://www.stereophile.com/content/boulders-3050-monoblocks
13. Reviews - The Absolute Sound, 8月 6, https://www.theabsolutesound.com/reviews/page/21/?categories=26
14. Boulder 3050 Mono Power Amplifiers Review: Unmatched Sonic …, 8月 6, https://www.theaudiotailor.com.au/blogs/reviews/boulder-3050-mono-power-amplifiers-review-unmatched-sonic-superiority
15. Boulder 3050 | AudioShark Forums - High End Audio, Stereo and …, 8月 6, https://www.audioshark.org/threads/boulder-3050.479/
16. Boulder v Gryphon | AudioShark Forums - High End Audio, Stereo and Home Theater Systems Discussions, 8月 6, https://www.audioshark.org/threads/boulder-v-gryphon.19302/
17. 2160 Tech Paper - Boulder Amplifiers, 8月 6, https://boulderamp.com/wp-content/uploads/2160-Tech-Paper.pdf
18. Boulder 2150 Mono Power Amplifier and 2110 Preamplifier - The Absolute Sound, 8月 6, https://www.theabsolutesound.com/articles/boulder-2150-mono-power-amplifier-and-2110-preamplifier/
19. Boulder’s New $195,000 Super Amplifiers An outstanding 1,500 Class A Watt 450 lbs model 3050 monoblocks! Plus an interview with Boulder’s Rich Maez Article By A. Colin Flood - Enjoy the Music.com, 8月 6, https://www.enjoythemusic.com/magazine/equipment/1011/boulder_3050_monoblocks.htm
20. Boulder - 3050 - Mono Power Amplifiers (Pair) - The Audio Tailor, 8月 6, https://www.theaudiotailor.com.au/products/boulder-3050-mono-power-amplifiers-pair
21. Dan D’Agostino Relentless Epic 1600 Monoblock Amplifier - Definitive Audio, 8月 6, https://www.definitive.com/products/dan-dagostinorelentlessmonoblock1600
22. Relentless Epic 1600 Monoblock Amplifier - Dan D’Agostino Master Audio Systems, LLC, 8月 6, https://dandagostino.com/products/relentless-epic-1600-monoblock-amplifier
23. Gryphon Audio Apex Mono Power Amplifier (Pair) - Audio Connection, 8月 6, https://audioconnection.com.au/products/gryphon-audio-apex-mono-power-amplifier-1
24. Apex - Gryphon Audio, 8月 6, https://gryphon-audio.dk/the-collection/power-amplifiers/apex/
25. CH Precision L10 and M10 - www.TheAudioBeat.com, 8月 6, https://www.theaudiobeat.com/visits/ch_precision_l10_m10.htm
26. CH Precision M10 Stereo Power Amplifier - Definitive Audio, 8月 6, https://www.definitive.com/products/ch-precision-m10-stereo-power-amplifier
27. Bizarre new audio product alert!… | Page 4 - Audio Science Review (ASR) Forum, 8月 6, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/bizarre-new-audio-product-alert.50948/page-4
28. Boulder or topping dac - Audio Science Review (ASR) Forum, 8月 6, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/boulder-or-topping-dac.62949/
29. Do you believe in Audio Science Review? : r/audiophile - Reddit, 8月 6, https://www.reddit.com/r/audiophile/comments/1d6jwua/do_you_believe_in_audio_science_review/
30. The Best Power Amplifier I Have Ever Owned In My Life! - YouTube, 8月 6, https://www.youtube.com/watch?v=p7T73UwpgWc
31. Jay’s Audio Lab | Hi End Audio Reviews, 8月 6, https://www.jaysaudiolab.com/
32. Let’s Talk About Boulder 3050 Monoblocks - YouTube, 8月 6, https://www.youtube.com/watch?v=rFiSGKPpaLY