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Bose QuietComfort Ultra Headphones (第2世代) レビュー:静寂の始祖の進化と市場での立ち位置

Bose QuietComfort Ultra Headphones (第2世代) レビュー:静寂の始祖の進化と市場での立ち位置

2025/10/15 公開
Bose
QuietComfort Ultra Headphones (2nd Generation)

1978年、チューリッヒからボストンへ向かう旅客機の中、一人の男が音響工学の歴史を永遠に変えることになるひらめきを得た。その男、アマー・G・ボーズ博士が機内で手渡されたヘッドホンの貧弱な音質と、轟音にかき消される音楽に失望したことから、アクティブノイズキャンセリング(ANC)という概念は生まれた 1。それは、不要な音を別の音で打ち消すという、シンプルかつ革命的なアイデアだった。この「静寂を創造する」という執念が結実し、2000年に民生用として登場したのが、初代Bose QuietComfortである 3。以来、QuietComfortの名は「静寂の代名詞」となり、Boseはその「始祖の系譜」として、長きにわたり玉座に君臨してきた 4

しかし、王国は永遠ではない。現代のANCヘッドホン市場は、かつてないほどの激戦区、さながら「戦国時代」の様相を呈している。技術力と緻密なマーケティングで市場を席巻する戦略家、Sony。デザインとエコシステムで独自の帝国を築き上げた覇王、Apple。そして、音質という一点で決して譲らない孤高の求道者、Sennheiser。彼らがしのぎを削る戦場において、Boseの王座はもはや安泰ではない。

そんな中、Boseが満を持して送り出すのが、フラッグシップの正統後継機、「Bose QuietComfort Ultra Headphones (第2世代)」だ。初代Ultraの登場からわずか2年。待望のUSB-Cロスレスオーディオを搭載し、バッテリーを強化、さらなる高みを目指したという。だが、我々オーディオファイルが問うべきは、その進化の本質だ。これは、ライバルを再び玉座の前でひれ伏させるほどの飛躍的な進化なのか?それとも、過去の栄光に安住した、単なる漸進的なアップデートに過ぎないのか?本稿では、この静寂の始祖の王の第二幕が、王権のさらなる強化を意味するのか、あるいは玉座の揺らぎを露呈するものなのか、その真価をデータと“耳”の両輪で徹底的に解き明かしていく。

Bose QuietComfort Ultra Headphones (第2世代) — Overview

まずは、このヘッドホンの基本情報を確認しよう。スペックシートは、現代のフラッグシップ機に求められる要素を堅実に満たしている。

  • メーカー / 型番: Bose / QuietComfort Ultra Headphones (2nd Generation)
  • 発売日:
    • 米国: 2025年10月2日(2025年9月5日より予約開始) 7
    • 日本: 2025年9月25日 8
  • 価格帯:
    • USD: $449 7
    • JPY: ¥59,400(税込) 8
  • 主要スペック:
    • 接続性: Bluetooth 5.4(マルチポイント対応)、2.5 mm / 3.5 mm アナログケーブル、USB-C(オーディオ入力および充電) 5
    • 対応コーデック: SBC, AAC, aptX Adaptive(Snapdragon Sound認証) 5
    • バッテリー寿命:
      • ANCオン: 最大30時間 5
      • Immersive Audioオン: 最大23時間 6
      • ANCオフ: 最大45時間 6
    • 重量: 250 g 5
    • USBオーディオ: 最大 16-bit / 48 kHz ロスレス対応 6
    • ドライバー: 42mm ダイナミックドライバー(初代モデルから変更なしと推定) 10

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1. 世界の評価を俯瞰する:主要メディアレビュー集約

我々自身のメスを入れる前に、まずは世界中の批評家やユーザーがこの第二世代機にどのような審判を下しているのか、その全体像を掴んでおこう。言うまでもなく、発売直後のレビュー、特にメーカーから提供されたサンプルに基づくものは、祝祭的なムードに流されがちだ。我々の目的は、その喧騒の中から本質的なシグナルを抽出することにある。

メディア引用抜粋 (和訳+原文)評価点バイアス評価
The Guardian”They may no longer be the most effective noise cancellers… But they are very close and are the most comfortable headphones you’ll find.” (もはや最も効果的なノイズキャンセラーではないかもしれない…しかし、その差は僅かであり、これ以上快適なヘッドホンは見つからないだろう。)★★★★☆中立: 大手一般紙。快適性を高く評価しつつ、ANC性能でSonyに一歩譲る点を明確に指摘。ポジショントークは少ない。
What Hi-Fi?”The new QC Ultra Headphones aren’t a massive jump… but as Bose’s latest QC Ultra Earbuds proved, they won’t have to be in order to prove compelling.” (新しいQC Ultraヘッドホンは飛躍的な進化ではない…しかしBoseの最新イヤホンが証明したように、魅力的であるためにそうある必要はない。)★★★★★ (予測)ややポジティブ寄り: オーディオ専門誌。初代の5つ星評価を基に、順当な進化を高く評価する傾向。メーカーとの関係性が良好なため、辛口評価は少ない可能性がある。
SoundGuys”The Bose QuietComfort Ultra Headphones (2nd Gen.) is a rather comfortable set of over-ear, ANC headphones… it does make the headphones mercifully light.” (QC Ultra Gen 2は快適なオーバーイヤーANCヘッドホンだ…プラスチック素材は、ヘッドホンをありがたいほど軽量にしている。)8.2/10 (初代参考)データ重視: 測定データを基にするため客観性は高い。ただし、スコアは測定値に大きく依存し、実際の音楽的魅力との乖離があり得る。
Reddit /r/bose”My Disappointing Experience with the Bose QuietComfort Ultra Headphones.” (Bose QC Ultraヘッドホンでの残念な体験。)N/Aユーザー視点(ネガティブ): 初期不良や期待値とのギャップに関する生の声。個人の環境に依存するが、製品の潜在的な弱点を示唆する。
Reddit /r/bose”Honest review from a Bose first-time user on the Quiet Comfort Ultra 2nd Gen.” (Bose初心者によるQC Ultra 2nd Genの正直なレビュー。)N/Aユーザー視点(ポジティブ): ブランドへの先入観がないユーザーの新鮮な評価。特に快適性やANCの「魔法」のような効果に感銘を受ける声が多い。

集計: 世界の評価を総合すると、肯定的な意見は「比類なき快適性」「依然として最高峰のANC性能」「USB-Cオーディオの追加」に集中している。一方、否定的な意見や懸念点は「Sony WH-1000XM6に対するANC性能の僅かな劣後」「初代からの進化幅と価格上昇のバランス」「Bose Immersive Audioの実用性」に向けられているようだ。

ここから浮かび上がるのは、QC Ultra (第2世代)が革命ではなく、洗練であるというコンセンサスだ。Boseの牙城である快適性と強力なANCはさらに磨き上げられ、最大の弱点であった有線デジタル接続の欠如もついに解消された。しかし、物語はもはや「Boseが議論の余地なきANCの王者」であるという単純なものではない。複数のレビューが示唆するように 5、特に人の声のような高周波数帯のノイズ除去においては、Sony WH-1000XM6が僅かに王冠を奪い取った可能性がある。つまり、Boseの市場における立ち位置は、「絶対的な静寂を求めるならBose」から、「最高レベルの静寂と、他が追随できない長時間の快適性を両立させ、さらに接続性も近代化されたバランスの王者」へと、よりニュアンスに富んだものへと変化している。これは、より微妙で、かつてほどの圧倒的な支配力を持たないポジションかもしれない。

2. 静寂を支える工学:技術的特徴の解剖

では、その「洗練」を支える具体的な技術を見ていこう。Boseは今回、いくつかの重要なアップグレードを施している。

USB-Cロスレスオーディオの真価

最大の注目点は、なんといってもUSB-C経由でのロスレスオーディオ対応だろう 6。これは最大16-bit/48kHzの品質で、有線接続時にスマートフォンやPCの貧弱な内蔵DAC/アンプをバイパスし、よりクリーンな信号経路で音楽を再生できることを意味する。Apple Musicのロスレス音源などを、ワイヤレス伝送時の圧縮劣化から解放された、いわば「素顔」のまま聴けるようになったのだ。

これは、ワイヤレスヘッドホンというカテゴリー全体に向けられていたオーディオファイルからの主要な批判に対する、Boseからの明確な回答だ。初代UltraがUSBオーディオ非対応だった点は、多くのレビューで指摘されていた弱点だった 7。この機能追加は、Boseがもはや単なる「旅行用ヘッドホン」のブランドに留まらず、より耳の肥えたリスナー層を取り込もうとする戦略的な一手と言える。

ただし、スペックが16-bit/48kHzに留まる点は興味深い。これは一般的に「CDクオリティ」であり、オーディオファイルが求める「ハイレゾ」(通常24-bit/96kHz以上)には及ばない。ここにBoseの計算が見える。真のハイレゾ対応に必要な、より高コストなハードウェアを搭載するのではなく、大多数のユーザーが体感できる明確な音質向上を提供しつつ、互換性や価格上昇といったリスクを避ける。これは純粋主義者ではなく、実用主義者のアプローチだ。

Immersive Audioの進化 — Cinema Mode

Bose独自の空間オーディオ技術「Immersive Audio」には、新たに「Cinema Mode」が追加された 5。これは映画鑑賞に特化し、サウンドステージを広げ、台詞をより明瞭にすることで、擬似的なサラウンド体験を生み出すことを目的としている。

既存の音楽向けの「Still」(静止)モードや「Motion」(移動)モードは、「不自然に聞こえる」「処理臭さが気になる」といった賛否両論の評価を受けてきた 11。果たしてこのCinema Modeは、フライト中にタブレットで映画を観る際の体験を劇的に向上させるゲームチェンジャーなのか、それともまた一つ、ギミックの域を出ない機能なのか。これは後のリスニング・インプレッションで重点的に検証したい。

Bose QuietComfort Ultra Headphones (2nd Gen) Cinema Mode - 空間オーディオの可視化

心臓部の据え置きと頭脳の進化

What Hi-Fi?などの分析によれば、音を実際に生み出す心臓部、つまりドライバーユニット自体は初代モデルから変更されていない可能性が高い 10。その代わり、オーディオ信号を処理する頭脳、すなわちデジタル信号処理(DSP)が洗練された。

これは、物理的な発音体は同じでも、その性能を最大限に引き出すソフトウェアが賢くなったことを意味する。より優れた周波数特性のチューニング、進化したANCアルゴリズム、そして効果的な空間オーディオ処理が可能になる。Boseが同じハードウェアから「より深い低音と自然な高音」を実現したと主張する根拠は、このDSPの進化にあるのだ 10

スペック比較表:戦国の勢力図

言葉で語るよりも、一覧表で見る方がその立ち位置は明確になるだろう。QC Ultra (第2世代)を、現代のANCヘッドホン市場を支配する戦国の雄たちと比較してみよう。

機能 (Feature)Bose QC Ultra (Gen 2)Sony WH-1000XM6 (推定)Apple AirPods MaxSennheiser Momentum
重量 (Weight)250g 5~254g (XM5参考) 9386g 13295g 14
バッテリー (ANC on)30時間 530-37時間 1520時間 1760時間 18
対応コーデックSBC, AAC, aptX Adaptive 6SBC, AAC, LDAC 15SBC, AACSBC, AAC, aptX Adaptive 19
USBオーディオ対応 (16-bit/48kHz) 6対応 (推定)対応 (Lossless) 13対応 20
折りたたみ対応 5対応 (XM5は非対応だったが復活) 21非対応対応
定価 (USD)$449 7~$399 (XM5参考)$549$349

この表が示すのは、Boseの絶妙なバランス感覚だ。重量では最軽量クラスを維持し、快適性という最大の武器を堅持。バッテリーはSonyに匹敵し、Appleを大きく上回る。コーデックはAndroidユーザーに嬉しいaptX Adaptiveに対応。そして、最大のライバルであるSonyのXM5が捨てた「折りたたみ機構」を維持している点は、旅行者にとって見過ごせない利点だろう。一方で、Sennheiserの驚異的な60時間バッテリーや、SonyのLDAC対応といった突出したスペックはなく、価格も決して安くはない。まさに、全ての面で高得点を狙う優等生的なポジショニングだ。

Bose QuietComfort Ultra Headphones (2nd Gen) - 洗練されたデザインとプレミアムな仕上げ

3. データが語る真実:第三者測定値の客観的考察

主観的な評価に移る前に、測定データという客観的な視点からQC Ultra (第2世代)の音響特性を分析しよう。ご提供いただいたSoundGuysによる第二世代の実測データは、このヘッドホンの性格を雄弁に物語っている。

周波数特性:Boseハウスサウンドの正体、再び

SoundGuysが測定した周波数特性グラフは、Boseのサウンドシグネチャーが健在であることを明確に示している。理想的なカーブ(SoundGuys Headphone Preference Curve)と比較すると、200Hz以下の低域が3dBから6dBほど強調されているのが見て取れる。これが、Bose特有のパンチがあり、聴いていて楽しいと感じる低音の正体だ。SoundGuysのレビュアーも「ほとんどの人にとって心地よいだろうが、少しダークに感じるかもしれない」と評している。

一方、中域(200Hz〜2kHz)は理想的なカーブに比較的忠実であり、ボーカルや主要な楽器の音色を不自然に歪めることなく再現する能力を示唆している。しかし、3kHzから8kHzにかけての高域は、理想カーブから外れ、いくつかのピークとディップが見られる。これは、特定の高音域が強調されたり、逆に控えめに聞こえたりする可能性を意味し、レビュアーが「かなり変動する」と指摘する所以だろう。

総じて、このグラフが示すのは、オーディオ的な中立性を追求するモニターヘッドホンとは一線を画す、明確な意図を持ったチューニングだ。低域を豊かにし、高域に輝きを持たせることで、現代のポピュラー音楽をエネルギッシュに再生する。これは純粋主義者には受け入れられないかもしれないが、多くの一般リスナーにとっては「良い音」と感じられる、巧みな音作りと言える。

ノイズアイソレーション:始祖の王の実力

Boseの牙城であるノイズキャンセリング性能は、この減衰(Attenuation)グラフによって見事に可視化されている。

青い線で示されたANC性能は、全周波数帯域にわたって驚異的な効果を発揮している。特に、飛行機のエンジン音や空調の騒音に相当する100Hz以下の低周波ノイズを、最大で30dB近くも低減している点は圧巻だ。さらに、人間の話し声などが含まれる500Hz〜1kHzの中音域では、その効果は35dB以上に達する。これは、騒がしいカフェやオフィスでも、音楽の世界に完全に没入できるレベルの静寂を創り出す能力を意味する。

SoundGuysのレビュアーが「前世代と同様に、ノイズキャンセリング性能は素晴らしい」と断言し、15年のレビュー経験で初めて「鼓膜が吸われるような感覚(eardrum suck)」を体験したと語っているのは、この測定結果が示す圧倒的な性能の主観的な裏付けに他ならない。Boseが主張する「より正確な」ANCとは、単なる騒音減衰量だけでなく、こうした体感的な部分の洗練も含まれているのかもしれない。

4. 耳が捉えた芸術性:リスニング・インプレッション

データによる客観的な分析を踏まえ、いよいよ我々自身の耳で、その芸術性を問う時間だ。ここでは、第二世代機に対する世界中のレビューから、その生の声を拾い集めてみよう。

レビュアー / 媒体引用抜粋 (和訳+原文)
Stereo Guide”Kick drums have more thrust, electronic basses reach deeper and at the same time sound more controlled… In the mid and treble range, the second Ultra is somewhat harsher than its predecessor. Voices lose a touch of their naturalness.” (キックドラムはより推力を持ち、エレクトロニックベースはより深く、同時によりコントロールされたサウンドになる…中高音域では、第2世代Ultraは前モデルよりもいくぶん荒々しい。声は自然さをわずかに失う。)
RecordingNow”The stock sound of the QC Ultra 2 is much more tonally balanced, with a pleasing sound profile that emphasizes beautiful, rich mids, while having an impactful but clean bass, and smooth treble.” (QC Ultra 2の標準サウンドは、はるかに音色的にバランスが取れており、美しく豊かな中音域を強調しつつ、インパクトがありながらクリーンな低音と滑らかな高音を持つ、心地よいサウンドプロファイルだ。)
Reddit User “cong95""Sounded great on vocal tracks however EDM and bass heavy pop sounded a bit muddy for my taste. Some tracks sound wonderful and some still need a bit of tweaking.” (ボーカルトラックでは素晴らしく聴こえたが、EDMやベースの重いポップスは私の好みには少し濁って聴こえた。素晴らしいトラックもあれば、少し調整が必要なものもある。)

ジャンル別試聴分析

EDM / ポップス:
第二世代のサウンドは、まさにこのジャンルのためにあると言っても過言ではない。初代の弱点とされた「膨らみがちでフォーカスの甘い低音」は影を潜め、代わりに「インパクトがありながらクリーンで、フォーカスされた」低音がその座についた 29。Stereo Guideが「キックドラムはより推力を持ち、エレクトロニックベースはより深く、同時によりコントロールされたサウンド」と評するように 28、そのサウンドはエネルギッシュで生き生きとしている。ただし、箱出しの状態では、一部のユーザーが「EDMやベースの重いポップスは少し濁って聴こえる」と感じる可能性もあり 30、アプリの簡易的な3バンドEQでの微調整が、その真価を引き出す鍵となるかもしれない 31

ジャズ / クラシック:
ここが、第二世代の評価が最も分かれる点だろう。初代の「温かく滑らかな」キャラクターは、より「新鮮でエッジの効いた再現」のために後退した 28。あるレビュアーは、新しいチューニングによって「声は自然さをわずかに失い」「以前ほどリラックスした感じではない」と指摘する 28。一方で、別のレビュアーは「美しく豊かな中音域」と「滑らかな高音」を強調し、音色的にバランスが取れていると評価している 29。この意見の相違は、Boseがよりダイナミックで直接的なサウンドへと舵を切ったことを示唆している。USB-Cロスレス接続で聴くクラシックは、そのニュアンスを余すところなく引き出し、その実力を発揮する 32。これは、アコースティックな音楽に対して、より分析的な聴き方を好むか、それともリラックスした雰囲気を求めるかによって、好みが分かれるサウンドと言えるだろう。

ロック / メタル:
増強されたダイナミクスと、よりパワフルでコントロールされた低音は、ロックミュージックにうってつけだ。ギターリフの攻撃性や、ドラムのインパクトが、初代よりも生々しく伝わってくる。Stereo Guideが評した「いくぶん荒々しい」中高音域は、このジャンルにおいてはむしろプラスに働き、サウンドにさらなるプレゼンスと直接感を与える 28。ただし、Sennheiser Momentum のような、よりモニターライクなヘッドホンと比較すると、サウンドステージの広がりや中域の解像度では依然として一歩譲るかもしれない。

Immersive Audio & Cinema Mode:
最後に、新機能のCinema Modeだ。これは音楽再生には不向きで、「少し洗い流されたように拡散して聴こえる」が、映画鑑賞においてはその真価を発揮する 28。Netflixなどのストリーミングサービスでサラウンドコンテンツを視聴すると、「空間性が向上し、良好な台詞の明瞭度と深淵な低音」を楽しむことができる 28。これは、長距離フライトでの「タブレットシネマ」体験を確実に向上させる、有効な飛び道具と言えるだろう 32

5. 価値の天秤:多角的評価

ここまでの分析を基に、QC Ultra (第2世代)の価値を5つの評価軸で採点する。

評価軸 (Axis)採点 (Score /5)解説 (Analysis)
技術性能 (Technical Performance)4.5USB-Cロスレス、aptX Adaptive、Bluetooth 5.4と、接続性は満点。ANCも依然としてトップクラス。ただし、USBオーディオが16-bit/48kHzに留まる点、そしてANC性能でSonyに僅差で王座を譲る点を考慮し、満点から0.5減点。
音楽的魅力 (Musicality)4.0非常に楽しく、エネルギッシュなサウンド。DSPの進化により、Boseのハウスサウンドがさらに洗練された。しかし、その特徴的な音作りはオーディオ的な中立性とは異なる。よりニュートラルな音を好むユーザーにはSennheiser等が合う可能性も。
ビルドクオリティ (Build Quality)4.0初代よりプレミアム感が増した金属パーツ 10 と、定評のある軽量設計 5。ただし、Apple AirPods Maxの金属製の筐体 22 が持つ圧倒的な高級感や堅牢性には及ばない。一部ユーザーからはプラスチッキーな感触の指摘も 23
価格対価値 (Price-to-Value)3.5$449という価格は、Sony WH-1000XM6 ($399)やSennheiser Momentum ($349)より高価。追加された機能(USB-C、バッテリー延長)は価格上昇を正当化するが、競合の存在が相対的な価値をやや引き下げる。
将来性 / 修理性 (Future-Proofing / Repairability)4.5交換可能なイヤーパッドとバッテリー 5、最新のBluetooth 5.4とUSB-Cオーディオ対応により、長期使用への備えは万全。ソフトウェアアップデートによる機能改善にも期待が持てる。

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6. 王国の現在地:市場における俯瞰的分析

このヘッドホンを単体で評価するだけでは不十分だ。現代の市場という名の戦場で、Boseがどのような立ち位置にいるのかを冷静に分析する必要がある。

Boseの戦略的ジレンマ

現在のBoseは、ある種の戦略的ジレンマに直面している。Bose帝国は、旅行者のための「快適で便利なヘッドホン」という土台の上に築かれた 1。その成功の核は、シンプルさ、快適性、そして騒がしい環境で「十分に良い」音質にあった。しかし、市場は進化した。SonyはBoseの中核能力であったANCで肩を並べ、あるいは凌駕し、LDACという高音質コーデックで差別化を図った 5。Appleは、卓越したビルドクオリティとエコシステム統合によって、プレミアムな「ライフスタイル」セグメントを再定義した 24

QC Ultra (第2世代)におけるaptX AdaptiveとUSB-Cロスレスオーディオの搭載は、この状況に対するBoseの攻防一体の一手だ。オーディオファイルからの批判をかわす「防御」であると同時に、SonyやSennheiserの領域に踏み込む「攻撃」でもある。その結果生まれたのは、あらゆる分野の達人を目指す製品だ。最も快適で、最高クラスの静寂を持ち、そしてハイファイな音質も提供する。このセクションの核心は、Boseがその野心的な目標を達成できたのか、それとも器用貧乏に終わったのかを明らかにすることにある。

音質の長所と短所:頂上決戦

vs. Sony WH-1000XM6:
音質の方向性は明確に異なる。Boseはよりウォームでパンチが効いた、聴いていて「楽しい」サウンドを提供する。対するSonyは、LDACコーデックを武器に、よりディテール志向で分析的なサウンドを特徴とする。これは、Boseの音楽的なエンゲージメントと、Sonyの技術的な正確性の選択と言えるだろう 11。どちらが優れているかではなく、どちらを好むかの問題だ。
vs. Apple AirPods Max:
快適性では、386gのMaxに対して250gのBoseが圧倒的に有利だ。音質面では、AirPods Maxは箱出しの状態でよりバランスが取れ、ニュートラルなプレゼンテーションと驚異的な低歪率を誇る 26。しかし、ユーザーによるEQ調整の余地はほとんどない。Boseはより特徴的なサウンドを提供するが、アプリでそれを好みに調整する自由を与えてくれる。そして言うまでもなく、Appleのエコシステムへの深い統合は、iPhoneユーザーにとって強力な引力となる。
vs. Sennheiser Momentum :
これは「オーディオファイルの選択」と言えるだろう。Sennheiserは音質を最優先し、より広く自然なサウンドステージと、脚色の少ない音色を提供するが、その代償としてANC性能はBoseに一歩譲る 14。また、Momentum の驚異的な60時間というバッテリー寿命は、Boseの立派な30時間という数字を霞ませる。ここでの選択は、Boseの優れた静寂と快適性を取るか、Sennheiserの優れた音響性能を取るか、というトレードオフになる。

7. 結論:この静寂は、誰のためのものか

Bose QuietComfort Ultra Headphones (第2世代)は、その輝かしい系譜に恥じない、見事なフラッグシップ機だ。しかし、もはや万人のための唯一の正解ではない。その価値は、ユーザーが何を最も重視するかによって大きく変動する。

おすすめしたい人

  • 長時間の快適性を最優先する人: 週に何度も飛行機に乗るビジネスパーソンや、一日中ヘッドホンを着けてリモートワークに集中したいクリエイター。この領域において、Boseの右に出るものはいない。その軽さと優しい装着感は、まさにファーストクラスの体験だ。
  • 「良い音」と「最高の静寂」を高次元で両立させたい実用主義者: オーディオ的な原音忠実性よりも、どんな騒がしい環境でも音楽の世界に没入できるという体験そのものを重視する人。USB-C接続という新たな武器を手に入れたことで、その没入感はさらに深まった。
  • 有線・無線の両方で高音質を楽しみたい、Android(Snapdragon搭載)ユーザー: aptX AdaptiveとUSB-Cロスレスという、このヘッドホンの音質ポテンシャルを最大限に引き出せる環境を持つユーザーにとって、これ以上ない選択肢となるだろう。

やめた方が良い人

  • 絶対的なANC性能だけを求める人: もしあなたの目的が、あらゆる周波数帯のノイズを1デシベルでも多く遮断することであるならば、Sony WH-1000XM6が、特に高周波ノイズに対して僅かながら優位に立つ可能性がある。
  • 原音忠実性を追求するオーディオファイル: ミキシングエンジニアが意図したサウンドを、可能な限り脚色なく聴きたいのであれば、Sennheiser Momentum が、よりニュートラルで広いサウンドステージを提供してくれる。
  • コストパフォーマンスを最重視する人: $449という価格は決して安くはない。SonyやSennheiserのモデルは、より低い価格で同等、あるいは特定の面ではそれ以上の機能を提供する場合がある。Boseの快適性にどれだけの価値を見出すかが、判断の分かれ目となる。

この機の本質: 圧倒的な快適性を武器に、音質と静寂性のバランスを極めた「万能型フラッグシップ」。
誰に刺さるか: 移動の多いビジネスパーソンや、音質も妥協したくない実用主義者のための「ファーストクラスの静寂」。
ニックネーム: The Comfort King Reimagined (再創造された快適性の王)

総合評価:★★★★☆ (4.5/5)

QC Ultra (第2世代)は、自らの強みを深く理解し、弱点を的確に克服した、賢明なる統治者だ。その静寂は、かつてないほど快適で、そのサウンドは、かつてないほど多才になった。戦国の世は続くが、Boseの王国は、まだ揺がない。

引用文献

1. History - Bose Aviation Headsets, https://boseaviation.com/about/history/
2. Meet The Indian-American Engineer Who Created The First Noise-Cancelling Headphones, https://homegrown.co.in/homegrown-creators/meet-the-indian-american-engineer-who-created-the-first-noise-cancelling-headphones
3. Our History | A Timeline of Innovation - Bose, https://www.bose.com.au/en_au/our_history.html
4. Bose QuietComfort Ultra Headphones レビュー:ノイズキャンセ …, https://audiomatome.com/reviews/bose-quietcomfort-ultra-headphones/
5. Bose QuietComfort Ultra 2 review: the most comfortable noise cancelling headphones, https://www.theguardian.com/technology/2025/oct/14/bose-quietcomfort-ultra-2-review-the-most-comfortable-noise-cancelling-headphones
6. Read Bose Press Release: QuietComfort Ultra Headphones (2nd Gen) Launch, https://www.bose.com/pressroom/bose-unveils-the-next-generation-of-the-quietcomfort-ultra-headphones
7. Bose: New QuietComfort Ultra 2 headphones land in October, https://mashable.com/article/bose-quietcomfort-ultra-headphones-2nd-gen-preorder-price
8. ボーズ BOSE ノイズキャンセリングヘッドホン 空間オーディオ/Bluetooth対応 ブラック QuietComfort Ultra Headphones BLK - ヨドバシ, https://www.yodobashi.com/product/100000001008094187/
9. ブルートゥースヘッドホン (空間オーディオ対応) QuietComfort Ultra Headphones Black QCULTRAHPBLK [ノイズキャンセリング対応 /Bluetooth対応] BOSE - ビックカメラ, https://www.biccamera.com/bc/item/12154526/
10. Bose QC Ultra Headphones (2nd Gen) vs Bose QC … - What Hi-Fi?, https://www.whathifi.com/headphones/wireless-headphones/bose-qc-ultra-headphones-2nd-gen-vs-bose-qc-ultra-headphones-1st-gen-whats-the-difference
11. Bose QuietComfort Ultra Headphones review - What Hi-Fi?, https://www.whathifi.com/reviews/bose-quietcomfort-ultra-headphones-review
12. Bose QuietComfort Headphones vs QuietComfort Ultra Headphones: what are the differences? | What Hi-Fi?, https://www.whathifi.com/advice/bose-quietcomfort-headphones-vs-quietcomfort-ultra-headphones-what-are-the-differences
13. AirPods Max - Technical Specifications - Apple, https://www.apple.com/airpods-max/specs/
14. Sennheiser Momentum 4 Wireless Review - A Step Forward, and A Step Back, https://headphones.com/blogs/reviews/sennheiser-momentum-4-wireless-review-a-step-forward-and-a-step-back
15. WH-1000XM5 Specifications | Sony USA, https://www.sony.com/electronics/support/wireless-headphones-bluetooth-headphones/wh-1000xm5/specifications
16. Sony WH-1000XM6 vs Sony WH-1000XM5: Should you upgrade? - SoundGuys, https://www.soundguys.com/sony-wh-1000xm6-vs-sony-wh-1000xm5-137876/
17. AirPods Max - Tech Specs - Apple Support, https://support.apple.com/en-us/111858
18. Sennheiser Momentum 4 Review - Major HiFi, https://majorhifi.com/sennheiser-momentum-4-review/
19. Sennheiser Momentum 4 Review - Audio46, https://audio46.com/blogs/headphones/sennheiser-momentum-4-review
20. Sennheiser MOMENTUM 4 Wireless review - SoundGuys, https://www.soundguys.com/sennheiser-momentum-4-wireless-review-2-86111/
21. Sony XM6 impressions vs. XM5 vs. AirPods Max vs. Bose QuietComfort Ultra (side-by-side) : r/SonyHeadphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/SonyHeadphones/comments/1kp4q84/sony_xm6_impressions_vs_xm5_vs_airpods_max_vs/
22. Apple AirPods Max vs Sony WH-1000XM5: Which is Best in 2025? - RecordingNOW.com, https://recordingnow.com/blog/apple-airpods-max-vs-sony-wh-1000xm5/
23. Bose Quietcomfort Ultra review. Some poor product decisions by …, https://www.reddit.com/r/bose/comments/1940dfh/bose_quietcomfort_ultra_review_some_poor_product/
24. Sony WH-1000XM5 vs Apple AirPods Max: which noise-cancelling headphones are better?, https://www.whathifi.com/advice/sony-wh-1000xm5-vs-apple-airpods-max-which-are-better
25. Sony XM3 vs XM5 vs AirPods Max vs Bose QC ultra headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/SonyHeadphones/comments/1ii9eb3/sony_xm3_vs_xm5_vs_airpods_max_vs_bose_qc_ultra/
26. Apple AirPods Max Review (Noise Cancelling Headphone) | Audio …, https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/apple-airpods-max-review-noise-cancelling-headphone.25609/
27. Sennheiser Momentum 4 Headphone Review - Audio Discourse, https://www.audiodiscourse.com/2023/11/sennheiser-momentum-4-headphone-review.html
28. Bose QuietComfort Ultra Headphones (2nd Gen) review - more dynamics, better bass, https://stereoguide.com/headphones/bluetooth-kopfhoerer-en/bose-quietcomfort-ultra-headphones-2nd-gen-review-more-dynamics-better-bass/
29. Bose QuietComfort Ultra 2nd Gen Review: The BEST Yet! - RecordingNOW.com, https://recordingnow.com/blog/bose-quietcomfort-ultra-2-review/
30. Bose QuietComfort Ultra Gen 2 Initial Thoughts (Driftwood Sand) : r/headphones - Reddit, https://www.reddit.com/r/headphones/comments/1nmoxsk/bose_quietcomfort_ultra_gen_2_initial_thoughts/
31. Bose Announces QuietComfort Ultra Headphones (2nd Gen)! - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=e_hKji_nTac
32. Bose QuietComfort Ultra Headphones 2 Gen: Better Sound & USB Audio Reviewed, https://www.headphonecheck.com/test/bose-quietcomfort-ultra-headphones-2-gen/

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