オーディオの世界には時折、「ゲームチェンジャー」と呼ぶべき製品が登場する。それは単に性能が良いだけでなく、その価格帯における価値の基準そのものを書き換えてしまうような存在だ。2019年末に発表されたMagico A5は、まさにそのような期待を一身に背負って現れた。上位機種であるQシリーズと同じ航空機グレードアルミニウムの密閉型エンクロージャ、新開発の5インチ・ピュアミッドレンジ、そしてグラフェン・ナノテック振動板を採用した3基の9インチウーファー。そのスペックリストは、当時の2万ドル台前半という価格を疑わせるほどに野心的だった 1。
しかし、ここ日本では状況が少し異なる。発売当初から価格改定を経て、現在の国内定価はペアで600万円を超える 3。もはや「ハイエンドへの入り口」ではなく、堂々たるハイエンドの主役級だ。この価格は、A5が本来持っていたはずの「コストパフォーマンス」という概念を、我々日本のオーディオファイルから奪い去ってしまったのだろうか?
本稿では、世界中のレビュー、フォーラムでの議論、そして第三者による精密な測定データを横断的に分析し、このアルミニウムのスピーカーが奏でる音の真実と、その価格に見合う価値が本当にあるのかを、忖度なく解き明かしていく。これは単なる製品紹介ではない。Magico A5という現象を深く理解するための、包括的な分析レポートである。
Magico A5 — The Unmistakable Silhouette
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- メーカー / 型番: Magico, LLC / A5
- 発売日:
- 価格帯:
主要スペック
- 形式: 3ウェイ、5ドライバー、密閉型(アコースティック・サスペンション)フロアスタンディング・スピーカー 5
- 使用ユニット:
- ツイーター: 1.1インチ (28mm) ベリリウム・ドーム ×1
- ミッドレンジ: 5インチ (127mm) グラフェン・ナノテック・コーン ×1
- ウーファー: 9インチ (229mm) グラフェン・ナノテック・コーン ×3 1
- 周波数特性: 24Hz – 50kHz 5
- 公称インピーダンス: 4 Ω 5
- 能率: 88 dB/2.83V/m 5
- 推奨パワー: 50 – 1000 W 5
- 寸法 (H×W×D): 1137mm × 267mm × 378.5mm (スパイク含む) 5
- 重量: 81.6 kg (180 lbs) /本 5
(出典: Magico Official Site 11, Stereophile 5)
1. 現場からの声:意見のコーラス
A5が世界中のオーディオファイルや評論家からどのように受け止められているかを見てみよう。その評価は驚くほど一貫しているが、光の当て方によって見える景色は少しずつ異なる。
| メディア | 引用抜粋 (和訳+原文) | 評価点 | バイアス/背景チェック |
|---|---|---|---|
| Stereophile | 「私はこれまで聴いたことのない、未知のニュアンスを聴いているという印象を受けた」 (“I had the impression of hearing unfamiliar nuance, not heard before.”) | ★★★★★ | メーカー提供のサンプルによる専門誌レビュー。極めて肯定的だが、試聴室での「低域の過剰さ」も指摘 12。2021年の「プロダクト・オブ・ザ・イヤー」を総合とスピーカー部門でダブル受賞しており、編集部の強いコンセンサスが見て取れる [13]。 |
| The Absolute Sound | 「これぞまさしく、正しく作られたミッドレンジだ。アロン(・ウルフ)にブラボー!」 (“It’s simply midrange done right. Bravo, Alon!”) | ★★★★★ | こちらもメーカー提供サンプルによるレビュー 14。非常に熱狂的で、A5をMagicoラインナップにおける価格対性能のベンチマークとして位置づけている [2, 14]。 |
| Hi-Fi News | 「A5でデビューした、そして間違いなくこのショーの主役は、ブランド初の『ピュア・ミッド』ユニットである新しい105mmミッドレンジドライバーだ」 (“Debuted in the A5, and surely the real star of the show here, is Magico’s new 105mm midrange driver – the first ‘pure mid’ unit from the brand.”) | ★★★★☆ (89%) | 英国の技術志向の専門誌。好意的な論調だが、駆動の難しさと価格を潜在的な欠点として挙げている [15, 16]。 |
| Reddit ユーザー | 「速く、正確で、ダイナミック、そして音楽的…分析的、ブライト、あるいは聴き疲れすることなく」 (“fast, accurate, dynamic, and musical… without being analytical, bright, or fatiguing.”) | ★★★★☆ | オーナーによるレビュー。貴重な実世界の視点だが、購入を正当化したいという確証バイアスの可能性も。大電流アンプの必要性を強調している [17]。 |
| AudioShark フォーラムユーザー | 「最も重要なのは、そのミッドレンジが静電型レベルの純度と一貫性を持っていることだ」 (“Most importantly, the midrange is of an electrostatic level of purity and coherence.”) | ★★★★★ | Magico A3やQuad ESLとの直接比較を行っている経験豊富なオーナー。具体的な比較対象があるため信頼性は高い [16]。 |
| Audio Science Review (フォーラム) | 「(高域の)緩やかな下降スロープはリラックスしたリスニングを保証するだろう」 (“gently diving slope [in treble]… insure a relaxed listening”) | ★★★☆☆ (総合的な論調から) | 客観的な測定値を重視するコミュニティ。価格には懐疑的だが、優れたエンジニアリングは認めている。彼らの議論は、測定値(低域の盛り上がり、高域のロールオフ)と伝統的なレビューでの主観的な賞賛との間の乖離を浮き彫りにする [18, 19]。 |
集計: 世界中の評価を総合すると、A5の解像度、中域の透明性、そしてダイナミックな表現力については、ほぼ満場一致で絶賛されている。しかし、伝統的な主観レビューと測定値中心のコミュニティとの間には明確な断絶が見られる。前者はその音楽性を称賛し、後者はその非ニュートラルな周波数特性(低域の強調と高域のロールオフ)を批判的に分析する。この「聴こえ方」と「測られ方」のギャップこそが、A5を理解する上で最も重要な鍵となる。
2. 静寂の解剖学:Magicoのエンジニアリングへの深訪
Magico A5のサウンドは、偶然の産物ではない。それは、創業者アロン・ウルフが長年追求してきた設計思想の結晶だ。その音の根源を理解するために、A5を構成する技術の核心に迫ろう。
孤独の要塞:6061-T6 アルミニウム・エンクロージャ
アロン・ウルフがスピーカー設計において最も嫌うもの、それはエンクロージャの「鳴き」だ。彼は、一般的なスピーカーで多用されるMDF(中密度繊維板)を「使える素材の中で最悪のもの」と断言する 20。MDFはダンピングは効いているが剛性が低く、ドライバーが生み出すエネルギーを吸収・蓄積し、遅れて放出することで音を汚す、というのが彼の主張だ 22。
そのアンチテーゼとしてMagicoが採用するのが、航空機グレードの6061-T6アルミニウム合金である。A5のエンクロージャは、上位のQシリーズと全く同じ素材と工法で作られている 1。複雑な内部補強構造を持つこの筐体は、圧倒的な質量と剛性によって音響的に「不活性」となり、ドライバーユニットだけが純粋に発音することを可能にする。また、A5は密閉型(アコースティック・サスペンション)設計を採用しており、これがポート型とは異なる、俊敏でダンピングの効いた低域特性(12dB/octaveの緩やかなロールオフ)を生み出す要因となっている 12。
物事の核心:新開発5インチ・ミッドレンジ
多くのレビューで「このショーの主役」と評されるのが、A5で初めて搭載された5インチの「ピュア・ミッドレンジ」ドライバーだ 15。これは、従来のミッド/バス兼用ユニットとは異なり、中音域再生のためだけに最適化された専用設計である 1。
その心臓部である振動板には、グラフェン・ナノテック・コーンにアルミニウム・ハニカムコアを挟み込んだ新構造が採用された 1。グラフェンという炭素素材の驚異的な剛性と、ハニカム構造による軽量化を両立させることで、かつてないほどの剛性/重量比を達成。これにより、振動板は分割振動を起こすことなく、理想的なピストンモーションを実現し、静電型スピーカーに匹敵するほどの透明度と低歪みをもたらす。この貴重なユニットは、ウーファーからの強烈な背圧を完全に遮断するため、専用の密閉されたサブエンクロージャに格納されている 1。
パワー・トリオ:3基のウーファーとグラフェン
A5の圧倒的なスケール感を支えるのが、3基搭載された9インチウーファーだ。これらもミッドレンジ同様、強化されたグラフェン・ナノテック・サンドイッチコーンを採用 1。巨大な5インチ径のチタン製ボイスコイルと、1/2インチ(約12.7mm)もの直線的なストロークを許容する強力な磁気回路を備え、50Hzで115dBという轟音を極めて低い歪みで再生する能力を持つ 1。レビューで語られるパワフルで深みのある低音は、この物理的な物量投入に裏打ちされているのだ。
ベリリウムの輝き:ツイーターとクロスオーバー
高域を担うのは、Mシリーズの設計思想を受け継ぐ28mmのベリリウム・ドーム・ツイーターだ(ただし、Mシリーズのようなダイヤモンド・コーティングは施されていない)1。ベリリウムは、その極めて高い剛性と軽さにより、分割振動による共振周波数を可聴帯域のはるか上に追いやることができる理想的な素材である 25。
これらのユニットを統合するのが、Magico独自の「Elliptical Symmetry Crossover」と呼ばれるネットワークだ。急峻な24dB/octaveのリンクウィッツ・ライリー型フィルターを採用し、各ドライバーの帯域外の干渉を徹底的に排除しつつ、位相特性をリニアに保つことを目的としている 1。さらにA5は、独ムンドルフ社製の新型「M-Resist Ultra」フォイル抵抗を世界で初めて採用した製品でもあり、透明度と滑らかさの向上に貢献していると謳われている 1。
Aシリーズ、特にこのA5は、Magicoの設計思想における「選択と集中」の好例と言える。より多くのオーディオファイルに門戸を開くという目標のため、彼らは製造コストのかかる複雑な曲面を持つキャビネット形状や、ダイヤモンドコーティングのような最も高価な仕上げを「選択」的に省略した。その一方で、音質の中核をなす「超高剛性アルミニウム密閉筐体」と「可能な限り硬い振動板素材」という基本原則には一切の「妥協」を許さなかった。つまりA5とは、華美な装飾を削ぎ落とし、MagicoのDNAを最も純粋な形で蒸留した存在なのである。
競合機種スペック比較表
A5の設計思想をより深く理解するために、同価格帯のライバルたちと比較してみよう。エンクロージャの形式、素材、ドライバーの構成など、各社のアプローチの違いが鮮明に浮かび上がってくる。
| 特徴 | Magico A5 | Bowers & Wilkins 803 D4 | Revel Ultima Salon2 | KEF Reference 5 Meta |
|---|---|---|---|---|
| エンクロージャ形式 | 密閉型 5 | ポート型 (Flowport) [27] | ポート型 (下方放射) [28] | ポート型 (リア, 可変) [29] |
| キャビネット素材 | 6061-T6 アルミニウム 1 | プライウッド/アルミニウム (Matrix) 27 | 9層積層MDF (曲面加工) [28] | アルミニウム/複合材 [31, 32] |
| ツイーター | 28mm ベリリウム・ドーム 5 | 25mm ダイヤモンド・ドーム (オン・トップ) [27] | 25mm ベリリウム・ドーム (ウェーブガイド付) [33] | 25mm アルミニウム・ドーム w/MAT (Uni-Q) [29] |
| ミッドレンジ | 5” グラフェン/Alu.ハニカム 1 | 5” コンティニュアム・コーン (タービンヘッド内) [27] | 4” & 6.5” チタン逆ドーム [33] | 5” アルミニウム・コーン (Uni-Q) [29] |
| ウーファー | 3 x 9” グラフェン/Alu.ハニカム 1 | 2 x 7” エアロフォイル・コーン [27] | 3 x 8” チタン・コーン [33] | 4 x 6.5” アルミニウム・コーン [29] |
| 能率 / インピーダンス | 88dB / 4Ω (最小2.6Ω) [5, 34] | 90dB / 8Ω (最小3.0Ω) [27] | 86.4dB / 6Ω (最小3.7Ω) [33] | 88dB / 4Ω (最小3.2Ω) [29] |
| 重量 (1本あたり) | 81.6 kg 5 | 62.2 kg [27] | 66.3 kg [33] | 60.2 kg [29] |
| 価格 (日本円, 概算) | 約 ¥6,140,000 3 | 約 ¥4,200,000 ($27,000) [27] | 約 ¥3,400,000 ($22,000) [35] | 約 ¥3,400,000 ($22,000) [36] |
3. 機械の冷徹な視線:測定値の解釈
主観的な評価がいかに熱狂的であっても、我々は測定データという冷徹な事実から目を背けてはならない。A5の測定結果は、そのサウンドキャラクターの秘密と、潜在的な要求性能を雄弁に物語っている。
周波数特性:意図された「マジコ・ハウスカーブ」か?
Stereophile誌やHi-Fi News誌が公開した測定データを見ると、A5の周波数特性には2つの顕著な特徴がある 34。まず、中音域から10kHzあたりまでは驚くほどフラットで、これはMagicoのエンジニアリング精度の高さを証明している 34。しかし、その両端には意図的な味付けが見られる。
- 低域の盛り上がり (The Bass Bump): 実際の部屋での測定(インルームレスポンス)では、50Hzから150Hzにかけて一貫してエネルギーの過剰が観測される 34。これは部屋の音響特性(ルームゲイン)の影響も大きいが、多くのレビューで指摘される「豊か」あるいは「過剰」な低音という主観的印象を裏付けるものだ 12。
- 高域のロールオフ (The Treble Roll-off): 無響室特性、インルーム特性ともに、10kHz以上から緩やかに下降するスロープを描く 19。これはツイーターの性能限界ではなく、意図的なチューニングである可能性が高い。これにより、現代のデジタル録音にありがちな高域の鋭さを和らげ、長時間のリスニングでも聴き疲れしないサウンドを目指していると推測できる。
アンプの悪夢:インピーダンスとEPDR
公称インピーダンス4Ωというスペックは、A5の真の顔を隠している 5。Stereophile誌のジョン・アトキンソンによる測定では、インピーダンスは93Hzで最小値2.6Ωまで低下し、さらに70Hzでは3.4Ωと低いインピーダンスに-50°という大きな位相角が重なる 34。これにより、アンプにとっての実質的な負荷を示すEPDR(Equivalent Peak Dissipation Resistance)は、音楽エネルギーが集中しやすい70Hzでわずか1.0Ωという極めて厳しい値にまで落ち込む 34。これは、並のアンプではドライブしきれず、スピーカーのポテンシャルを全く引き出せないことを意味する。A5を意のままに操るには、2Ω負荷をものともしない、大電流供給能力を持つ強力なアンプが不可欠だ。
静寂の証明:歪率とキャビネット共振
Magicoが最も誇るエンクロージャの不活性さは、測定データによって客観的に証明されている。加速度計によるテストでは、422Hzと547Hzに僅かな共振モードが検出されたものの、そのレベルは極めて低く、聴感上の影響は皆無と結論づけられている 34。歪率も同様に驚異的で、Hi-Fi News誌の測定では、90dB SPLという大音量再生時の中音域(1kHz)において、THD(全高調波歪)はわずか0.06%を記録した 24。これは、A5が発する音が、いかにドライバーユニット由来の純粋なものであるかを示している。
微細な瑕疵:バッフル回折
測定データには、4kHz付近に非常に狭く深いディップ(落ち込み)が観測される 34。これは、A5の角張ったバッフルエッジでツイーターの音波が回折し、干渉を起こすことで生じる現象だ 34。より高価なモデルの滑らかな曲面バッフルと比較した場合の、コストダウンに伴う設計上のトレードオフと言える。ただし、このディップは非常に幅が狭いため、音楽再生において聴感上問題になる可能性は低い。
これらの測定結果を総合すると、A5のサウンドが、極めて高度で意図的なボイシング戦略の産物であることが見えてくる。それは、無響室でのフラットさよりも、実際のリスニングルームでの音楽的な快さを優先する思想だ。低域の僅かなブーストは音楽に土台と権威を与え、高域の緩やかなロールオフは長時間の没入を可能にする。この「味付け」が許されるのは、キャビネットの鳴きやドライバーの歪みといった不純物が限りなくゼロに近いからに他ならない。Magicoは、欠点を覆い隠すためのEQではなく、磨き上げられた純粋な信号を、より魅力的に聴かせるための彫刻を施しているのだ。この思想の違いが、測定値至上主義者と、最終的な出音を評価する主観レビュー派との評価の分岐点となっている。
4. オーディション:サウンド、ステージ、そして魂
技術的な分析と測定データの解釈を経て、いよいよA5が奏でる音楽そのものに耳を傾けてみよう。世界中のレビュアーたちの言葉を借りて、その音響的肖像画を描き出す。
| レビュアー / 媒体 | 引用抜粋 (和訳+原文) |
|---|---|
| Jim Austin / Stereophile | 「このスピーカーは最適な条件下だけでなく、常に消える。音楽の音量が極めて小さいときでさえも」 (“These speakers don’t only disappear under optimal conditions; they disappear always, including when the volume of the music is extremely low.”) |
| Matthew Clott / The Absolute Sound | 「マイクロレベルの解像度を提供しながらも、決して分析的にはならない。高域の伸びは成層圏に迫るほどで、カミソリの刃の上で踊りながらも、決して踏み外すことはない」 (“It offers micro-resolution, yet never approaches sounding analytical. Treble extension is near stratospheric, while dancing on the razor’s edge but never falling off.”) |
| Reddit ユーザー ‘GeorgedeMohrenschild’ | 「3基の9インチ密閉型ウーファーは、タイトな低音とともに、ビッグなサウンドと深いボトムエンドをもたらす」 (“The three 9” sealed woofers really bring a big sound and a deep bottom end with tight bass.”) |
| AudioShark ユーザー ‘devianet’ | 「音質的には、彼らは別の惑星から来たかのようだ。最も重要なのは、そのミッドレンジが静電型レベルの純度と一貫性を持っていること…」 (“Sonically they are from/on another planet. Most importantly, the midrange is of an electrostatic level of purity and coherence…”) |
ジャンル別パフォーマンス分析
クラシック & アコースティック:
A5の最も得意とする領域だ。超低歪みなドライバーと不活性なエンクロージャの組み合わせは、弦が擦れる際の松脂の質感、ホールに響くピアノの余韻の最後のひとかけらまで、驚異的な解像度で描き出す 12。音場は広大かつ精密で、各楽器の位置関係が微動だにしない。これは、優れたペアマッチングと制御された指向性の直接的な結果である 12。オーケストラのクライマックスでは、その巨大なダイナミックレンジが炸裂し、リスナーを音楽の渦へと引きずり込む。
ジャズ:
スピードと音色の正確性の両立は、ジャズ再生に理想的だ。A5は、ジョン・コルトレーンのサックスの音色に含まれる新たな抑揚など、聴き慣れたはずの録音に隠された未知のニュアンスを暴き出す 12。密閉型ならではの低域は、ブーミーさや余分な響きを一切伴わず、アコースティックベースの弦の弾ける様を俊敏かつメロディアスに再現する。シンバルの金属的な輝きから、ウッドベースの胴鳴りまで、全ての要素が混濁することなく、生々しいリアリティをもって立ち現れる。
ロック & エレクトロニック:
A5は、凄まじいパワーとスケール感をいとも簡単に提供する。3基の9インチウーファーが動かす空気の量は尋常ではなく、「雷鳴のような低音」を、物理的なインパクトと厳格なコントロールを両立させながら叩き出す 11。しかし、ここがA5の評価が分かれる点でもある。そのあまりに正直な性格は、ロック音源にありがちなコンプレッションの効きすぎたマスタリングや録音の粗を、容赦なく白日の下に晒してしまう。大音量で再生した際に、音が「高域寄り(tipped-up)」に感じられることがあるという指摘は、この性質に起因する 14。A5は、質の悪いソースを「美化(sugarcoat)」するスピーカーではないのだ 14。
5. 最終判断:バランスの取れた評決
あらゆる角度からMagico A5を分析した今、その総合的な価値を評価する時が来た。
評価スコアカード
| 評価軸 | 採点 (5点満点) | 解説 |
|---|---|---|
| 技術性能 | ★★★★★ | 航空機グレードアルミニウム、ベリリウム、グラフェンといった最先端素材を惜しみなく投入。クラス最高レベルの低歪みと、驚異的に不活性なキャビネットを実現している。エンジニアリングは絶対主義的かつワールドクラス。唯一、バッフルエッジの回折が僅かな減点要素となりうるが、聴感上の影響は軽微 [1, 34, 37]。 |
| 音楽的魅力 | ★★★★☆ | 息をのむほどの透明度、解像度、ダイナミクスが、深く引き込まれる「ライブ」な体験を生み出す。特に中音域の純度は静電型に匹敵する [16]。満点でない理由は、録音の質に対する非情なまでの正直さが、多様なライブラリを持つユーザーにとって音楽の楽しみを削ぐ可能性があるため 14。 |
| ビルドクオリティ | ★★★★★ | 科学測定器か軍事兵器のように作られている。機械加工されたアルミニウムの仕上げと嵌合精度は完璧。1本81.6kgという重量は、圧倒的な堅牢性と耐久性を物語っている [2, 13]。 |
| 価格対価値 | ★★★☆☆ | 米国市場であれば星4つに値する。しかし、600万円を超える日本市場では、より手強い競合と渡り合う必要があり、「お買い得感」は薄れる。価格以上の性能を発揮するが、必須となる大電流アンプへの投資も考慮すると、その初期投資は極めて大きい 3。 |
| 将来性 / 修理性 | ★★★★☆ | その堅牢な作りは、数十年単位での使用を想定させる [13]。Magicoのブランド評価も高く、信頼性は高い。唯一の懸念は、その厳しい負荷特性が将来のアンプ選びを制限する可能性があること。ユーザーによる改造を前提とした設計ではない。 |
バイアスチェック:長所と妥協点
長所:
- 他の追随を許さない透明度と解像度
- 静電型に匹敵する中音域の純粋さ
- 圧倒的にパワフルでありながら、俊敏で明瞭な低音
- ホログラフィックな音場再現能力
- 戦車のように堅牢なビルドクオリティ
妥協点:
- アンプに極めて厳しい負荷を要求し(低いEPDR)、高価で強力なパートナーが必須 34
- 部屋によっては制御が難しいほど豊かな低音 12
- ソースの質を容赦なく暴き出す、良くも悪くも正直なキャラクター 14
- 日本市場における高価格設定
6. 文脈の中のA5:妥協なき純粋性のオブジェ
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Magico A5を単体で評価するだけでは、その真の価値を見誤る。オーディオ市場という大きな文脈の中に置いて初めて、その特異な存在意義が浮かび上がってくるのだ。
不活性キャビネットという信仰
A5は、アロン・ウルフの哲学「キャビネットは語るべからず」を、この価格帯で最も純粋に体現したモデルだ。これは、家具としての美しさよりも音響ツールとしての性能を優先する、エンジニアリング至上主義、マテリアルサイエンス主導のアプローチの帰結である 2。その無骨で機能的な外観は、まさにその思想の現れなのだ。
ライバルとの音質的長所と短所
vs. Bowers & Wilkins 803 D4:
A5が単一素材(アルミニウム)によるエンクロージャで全体の一貫性を追求するのに対し、803 D4はタービンヘッドやマトリックス構造といった複数の要素を組み合わせることでドライバー間の分離を図る、異なるアプローチをとる 27。低域は、A5の密閉型がより速くタイトな反応を示すのに対し、803 D4のポート型はより豊かな響きと量感を提供する可能性があるが、過渡特性は異なるだろう。一般的にB&Wサウンドが持つ「華やかさ」や「鮮やかさ」に対し、Magicoはより厳格なニュートラルさと純度を志向している 38。
vs. Revel Ultima Salon2:
これは、測定値を重視する二大巨頭の戦いだ。両者ともベリリウムツイーターを搭載し、極めて低い歪みを誇る。決定的な違いは哲学にある。Revelは軸上・軸外ともにスムーズな周波数特性を最優先し、教科書的に完璧な指向性とニュートラルなサウンドで知られる 28。一方、A5は意図的な低域のブーストと高域のロールオフにより、その教科書的な中立性から一歩踏み出し、特定の、よりパワフルなインルームでの体験を演出する。数字の上ではSalon2がより「正しい」スピーカーかもしれない。しかし、実際に部屋で聴いたときのドラマティックさではA5に軍配が上がる可能性がある。
vs. KEF Reference 5 Meta:
点音源 vs. 仮想的なラインソース、という根本的な違いがある。KEFのUni-Qドライバーは、空間上の一点から全ての音を放射することで、完璧に位相の揃った波面を作り出し、卓越した音像定位と広いスイートスポットを実現する 29。対するA5は、ツイーター、ミッド、3つのウーファーを垂直に配置するアプローチだ。KEFがより自然で空間的にまとまりのあるイメージを提供するのに対し、Magicoはより壮大なスケール感と、むき出しのダイナミックパワーを提供するだろう。
7. 結論:アルミニウムの心臓
このスピーカーを推奨する人 / 推奨しない人
おすすめしたい人:
解像度、スピード、透明性を何よりも優先するオーディオの純粋主義者。所有する音源のありのままの真実を聴きたいと願い、A5の性能を最大限に引き出すための大電流アンプと適切に処理されたリスニングルームを用意できる人。
やめた方が良い人:
暖かく、寛容で、ロマンティックな音調を求める人。主に録音状態の良くない、あるいは強く圧縮された音楽を聴く人。そして、予算やアンプの電流供給能力に制限がある人。この点に妥協の余地はない。
将来性
A5の基本設計は時代を超越している。そのキャビネットの不活性さとドライバー技術は、今後長年にわたり一つの基準であり続けるだろう。Magicoブランドの特性として、リセールバリューも高く維持されることが期待できる。
総合評価:★★★★☆ (4.5)
Magico A5は、かつては青天井のフラッグシップ機でしか到達できなかったレベルの純度とダイナミックなリアリズムを実現した、スピーカー設計における記念碑的な達成である。その中音域は透明性の模範であり、その低音はスピードとコントロールが支配する地殻変動だ。
しかし、この妥協なき真実の探求は、システムとリスナーにも同等の妥協のなさを要求する。その過酷な電気的負荷と日本での高価格は、A5を万人のための選択肢ではなく、志を同じくする少数の献身的なオーディオファイルのための存在としている。
引用文献
1. Magico A5 Speakers (pair) - audiofi.ca, https://audiofi.ca/products/magico-a5
2. Magico A5 Loudspeaker Preview - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/magico-a5-loudspeaker-preview/
3. A5 MAGICO - 株式会社エレクトリ, https://www.electori.co.jp/magico/A5.html
4. MAGICO Aシリーズ 価格改定情報 - SIS AUDIO, https://www.sisaudio.co.jp/post/magico-a%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E4%BE%A1%E6%A0%BC%E6%94%B9%E5%AE%9A%E6%83%85%E5%A0%B1
5. Magico A5 loudspeaker Specifications - Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/magico-a5-loudspeaker-specifications
6. Magico Introduces A5 Loudspeaker - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/magico-introduces-a5-loudspeaker/
7. マジコ | スピーカーシステム | フロア型 (価格別) | Joshin webショップ 通販, https://joshinweb.jp/pc/9892/?LVC=100&LVT=0&MKN=%83%7D%83W%83R
8. Magico A5: Reviews, Competitors, Used Pricing - ExtremeHiFi, https://www.extremehifi.com/product/magico-a5-30mD
9. 展示情報 新製品 MAGICO A5を常設展示しました!, https://sisaudio.blogspot.com/2020/11/magicoa5.html
10. Magico A5 Owners Manual, https://www.gcaudio.com/images/uploads/A5_Owner_Manual.pdf
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29. Customer Reviews: Bowers & Wilkins 803 D4 Diamond 1” Diamond Tweeter, 5” Midrange in Turbine Head, Dual 7” Woofer Floorstanding Speaker (each) Rosenut 803 D4 Rosenut - Best Buy, https://www.bestbuy.com/site/reviews/bowers-wilkins-803-d4-diamond-1-diamond-tweeter-5-midrange-in-turbine-head-dual-7-woofer-floorstanding-speaker-each-rosenut/6476387
30. Revel Ultima Salon2 Loudspeaker - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/revel-ultima-salon2-loudspeaker-1/
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