Audio Review Blog Logo
To English
Magico Q5 レビュー:音の解剖学者か、魂なき監視者か。アルミニウムの巨人が投じた一石

Magico Q5 レビュー:音の解剖学者か、魂なき監視者か。アルミニウムの巨人が投じた一石

2025/11/03 公開
Magico
Q5

2010年、ハイエンドオーディオの世界は静かな、しかし確実な均衡の中にあった。長年の歴史を持つ名門ブランドが築き上げた設計思想と、木材や複合素材といった馴染み深い材料が織りなすサウンドスケープ。そこに、カリフォルニアから現れた新進気鋭のMagicoが、冷たい輝きを放つアルミニウムの巨人を投下した。その名は「Q5」。それはスピーカーというより、音響工学の思想を具現化したモニュメントだった。木材の響きを捨て、共振という名の「音楽性」を徹底的に排除する。その狂信的なまでの中立性の追求は、我々に根源的な問いを突きつけた。これは音楽再生の新たな地平か、それとも魂を置き忘れた、ただの精密な監視装置なのか。本稿では、このオーディオ史に屹立する一石が何であり、どこへ向かおうとしたのかを徹底的に解剖していく。

Magico Q5 — Overview

関連記事

まずは、このアルミニウムの巨人の素性を確認しよう。

Magico Q5 スピーカー - アルミニウム製エンクロージャーを採用した4ウェイフロアスタンディングスピーカー
  • メーカー: Magico, LLC. (米国カリフォルニア州ヘイワード)
  • モデル: Q5
  • 発売年: 2010年 3
  • 発売時価格 (USD): $59,950/ペア (仕上げにより$71,500までの価格設定あり) 2
  • 発売時価格 (JPY): 国内代理店価格は時期により変動するが、オーディオユニオンでは中古品などが11,880,000円(税込)でリストされた記録がある 7

主要スペック

  • 形式: 4ウェイ5ドライバー、密閉型フロアスタンディング・スピーカー 2
  • ドライバー構成: 1インチ ベリリウム・ドームツイーター、6インチ Nano-Tecコーンミッドレンジ、9インチ Nano-Tecコーンミッドバス、9インチ Nano-Tecコーンウーファー ×2 2
  • 周波数特性: 22Hz – 50kHz (±2dB, in-room) 8
  • 公称インピーダンス: 4 Ω 8
  • 能率: 87 dB/2.83V/m (メーカー公称値) 8
  • 推奨パワー: 50 – 1200 W 8
  • 寸法 (高さ×幅×奥行): 1194 mm × 298 mm × 533 mm 2
  • 重量: 176 kg/本 8
  • 出典: Magico オーナーズマニュアル, Stereophile スペック

1. 衆議は果たして一致したか? 世界のレビュー総まくり

Q5の登場は、単なる新製品レビューの対象に留まらず、オーディオ再生の理想像を巡る哲学的な論争を巻き起こした。ここでは、世界中の批評が何を語り、その背後にどのようなバイアスが潜んでいたのかを読み解いていく。

メディア引用抜粋 (和訳+原文)評価点
Stereophile (M. Fremer)「全体として、Magico Q5は私が聴いた中で最もスムーズで、最もディテールに富み、最もメカニカルな響きのしないスピーカーだった…自身の個性をほとんど持たないため、最初は退屈に聴こえるかもしれない。しかし、スピーカーにおいてはそれこそが望ましいのだ。」 / “Overall, the Magico Q5 was the smoothest, most detailed, least mechanical-sounding speaker I’ve heard… When you first listen to it, the Q5 may also sound uninvolving because it has little or no personality of its own. But in a loudspeaker, that’s what you want.” 5★★★★★
The Absolute Sound (J. Valin)「Q5が『最高の』スピーカーだとは言わない…しかし、私にとっては最高だ。まさに夢が叶った。」 / “I’m not going to call the Q5 ‘the best’ speaker out there… What I will say is that they are, as of this writing, the ‘best for me.’ A dream come true.” 12★★★★★
Hi-Fi+ (via Absolute Sounds)「Q5の音は、あなたのディスクと同じだけ良く、それ以上ではない…これは、ソース音に対する飾り気のない忠実さを通じた、クオリティの鍵である。」 / “It’s as good as your discs, and no better… That is the key to quality, through the medium of unvarnished fidelity to the source sound.”★★★★☆
AudioShark Forum User “Penthouse-D”「Q5は非常にパワーを食い、アンプの選択に極めて敏感だった。私が所有した中で最も扱いにくいスピーカーだ。」 / “I found my Q5’s extremely power hungry and VERY subject to amp choice. The most challenging speaker I’ve ever owned.” 14N/A

批評の総括:条件付きの満場一致

専門誌の評価は、Q5の技術的達成に対してほぼ満場一致の称賛を送った。前例のないレベルの中立性、解像度、そしてエンクロージャーの響きからの解放。これらが共通の賛辞だ 5。しかし、これらのレビューはメーカーから貸与されたサンプルに基づいている点を忘れてはならない。Fremer氏やValin氏のような百戦錬磨の評論家による技術的観察の信頼性は極めて高いが、ポジティブなバイアスが皆無とは言えない。彼らの興奮は本物だろうが、その裏で彼ら自身も指摘する実用上の困難さと天秤にかける必要がある。

共通して語られるのは、「カメレオンのよう」11、「ほとんど個性がない」5、「一部のリスナーには無色すぎ、分析的に聴こえるかもしれない」12 といった評価だ。これこそがQ5をめぐる中心的な二律背反である。

この点を補強するのが、ユーザーフォーラムの生の声だ。彼らの議論は専門家の評価を裏付けつつ、オーナーの視点からアンプ駆動の途方もない難しさを浮き彫りにする 14。これは単にスピーカーをシステムに繋ぐという行為ではない。その要求の厳しい電気的特性を中心に、システム全体を再構築する覚悟を迫られるのだ。

つまり、Q5は単なるコンポーネントではない。それはシステム全体を定義する存在なのだ。プロのレビューが絶賛する透明性と、ユーザーが嘆く駆動の難しさは、実は同じコインの裏表である。Q5の極めて高い解像度と厳しい負荷特性は、音楽だけでなく、上流にある全ての機器の素性を情け容赦なく暴き出す。これはシステムへの「追加」ではなく、システムそのものの「定義」なのだ。オーナーはスピーカーを買うのではなく、高電流・高制動のアンプと完璧なソースを前提とする、特定のシステム構築哲学へのコミットメントを求められる。この点が、より寛容で「音楽的」なスピーカーとの決定的な違いだ。Q5は、あなたに選択を強いるのである。


2. 音楽を消すための筐体:Qシリーズの設計思想と技術的特異点

Q5を理解する鍵は、その心臓部であるエンクロージャーにある。それは音楽を豊かに響かせるための「楽器」ではなく、音楽以外のあらゆる響きを抹殺するための「無響室」として設計された。

「Q」の創世記:製造業としての革命

Magicoが初期に評価を確立したVシリーズやM5は、積層バーチ合板とアルミニウムを組み合わせたハイブリッド構造を採用していた 9。Qシリーズは、そこからのラディカルな決別を意味する。その転換を可能にしたのは、設計思想の変化だけではない。自社でCNC(コンピュータ数値制御)加工工場を所有するという、経営上の決断だった 16。この戦略的投資により、複雑なアルミニウム構造の削り出しが、天文学的ではないコストで実現可能になった。創業者アロン・ウルフは、この能力がなければQ5の価格は$120,000/ペアに近付いただろうと語っている 17

Qプラットフォーム:アルミニウムの骸骨

Q5のエンクロージャーは、単なる箱ではない。50以上の削り出しアルミニウムおよび真鍮パーツを、650を超える留め具で固定した「スペースフレーム構造」と呼ぶべき内部骨格を持つ 5。これにより、信じられないほど剛性が高く、高質量でありながら、効果的にダンピングされた構造が生まれる。

FEA(有限要素法解析)によって検証されたその設計思想は、エンクロージャーの共振周波数を可聴帯域のはるか上方に追いやることで、キャビネットをドライバーにとって音響的に完全に不活性な土台(プラットフォーム)とすることにある 16。これこそが、評論家たちが口を揃えて語る「スピーカーの存在が消える」感覚の技術的根拠だ。

中立性の声:ドライバーユニット

  • Nano-Tecコーン: ミッドレンジ、ミッドバス、ウーファーには、ローハセルフォームをカーボンナノチューブ素材で挟んだサンドイッチ構造のコーンが採用されている 5。この航空宇宙グレードの素材は、極めて高い剛性と軽さを両立し、歪みの主原因であるコーンの分割振動(不完全なピストンモーション)を抑制する。
  • ベリリウムツイーター: 1インチのドームツイーターには、軽さと剛性に優れ、周波数特性を50kHzという超高域まで伸ばすことが可能なベリリウムを採用 5。これが「空気感」やディテールの再現性に寄与するが、同時に非常にデリケートで取り扱いには注意を要する 8
  • アンダーハング構造モーター: 見過ごされがちだが重要なのは、ドライバーのモーターシステムだ。巨大なマグネットで磁気回路を飽和させることで、渦電流を最小限に抑える設計がなされている 18。これにより、後のQ7では0.085mHという記録的な低インダクタンスを実現。ボイスコイルが電磁的な抵抗を受けにくくなり、より速く、制御されたトランジェント応答を可能にする 16

スペック比較:2010年の巨人たち

この比較表は、当時のトップコンテンダーたちが、それぞれ異なる哲学で頂点を目指していたことを可視化する。Magicoの密閉型、Wilsonのポート型、素材選択の違い、そしてそれらがもたらす重量、能率、インピーダンスの差異。これは「耳」による主観評価を、「データ」によって裏付ける重要な視点だ。

特徴Magico Q5Wilson Audio Sasha W/PYG Acoustics Anat Ref. II Studio
筐体素材航空機グレードアルミニウム (6061-T6) 12, 17独自開発複合素材 (‘X’ & ‘S’ Material) 20, 21航空機グレードアルミニウム 22, 23
設計原理密閉型、内部マトリックス構造 8, 9リアポート型、モジュール構造 20, 24密閉型、モジュール構造 22
ウーファー9インチ Nano-Tecコーン ×2 28インチ ポリマーコーン ×2 2010.25インチ BilletCore ×1 (サブ部)
ミッドレンジ6インチ Nano-Tecコーン ×1 27インチ パルプ複合コーン ×1 206インチ BilletCore ×2
ツイーター1インチ ベリリウムドーム 21インチ チタン逆ドーム 201インチ ForgeCore
能率87dB (公称) / 84dB (実測) 2, 1991dB 2090dB
公称インピーダンス4Ω (最低 2.75Ω @ 56Hz) 2, 194Ω (最低 1.8Ω @ 92Hz) 204Ω (最低 3.5Ω)
重量 (片ch)176 kg 889.36 kg 20約127 kg 22

この表から浮かび上がるのは、「完璧」への三者三様の道筋だ。Magicoは質量と剛性によってエンクロージャーという変数を消去しようとした。対するWilson Audioは、独自素材とポートチューニングによってエンクロージャーを積極的に活用し、音楽的な躍動感と部屋を満たす低音を創り出した。YG AcousticsはMagico同様アルミニウムを用いるが、自社削り出しの「BilletCore」ドライバーなど、また別のアプローチで高忠実度再生を追求した。Q5は単なる高級スピーカーではなく、当時最も過激で純粋な「不活性キャビネット」哲学の体現者だったのだ。ライバルたちは劣っていたのではなく、単に違う問いに答えていただけなのである。


3. 冷徹なる数字の証言:測定データが暴くQ5の素顔

Stereophile誌のジョン・アトキンソン氏による測定は、Q5の素顔を客観的な数値で描き出す。その176kgという途方もない重量ゆえ、通常の測定手順が不可能となり、マイケル・フレマー氏の私道のど真ん中に台車で設置して行われたという逸話自体が、このスピーカーの物理的な異質さを物語っている 9

無視できない現実:能率とインピーダンス

  • 能率の乖離: Magicoの公称スペックは87dB。しかし、アトキンソン氏による独立した測定値は、それより遥かに低い84dB(B)/2.83V/mだった 19。これは誤差ではない。能率が3dB下がれば、同じ音量を得るためにアンプは2倍の出力を要求される。この数値こそ、ユーザーたちが「パワーを食う」と口を揃える理由の、動かぬ証拠だ 14
  • 「アンプ殺し」の負荷: インピーダンス曲線が、物語の続きを語る。インピーダンスは56Hzで2.75Ωまで落ち込み、さらに45Hzでは3.85Ωと-56°という厳しい位相角の組み合わせを見せる 19。これは並大抵のアンプでは御せない、極めて困難な負荷だ。十分な電流供給能力と低インピーダンス駆動能力を持たないアンプは、あっけなくクリッピングを起こして音が痩せ細るか、最悪の場合は保護回路が作動するだろう。

不活性の証明

  • インピーダンスのグラフには、キャビネットの共振を示すはずの細かな波形(ディップやピーク)がほとんど見られない 19。これこそ、エンクロージャーが音響的に不活性であることのデータ上の証明である。
  • アトキンソン氏が聴診器を当てて行ったテストは、その結論に最後の釘を刺した。彼が検出できたのは「418Hzにおけるわずかな活気」のみだったという 19。大型のマルチウェイスピーカーとしては驚異的な結果であり、Qプラットフォームの設計目標が達成されたことを示している。

周波数特性とクロスオーバー

  • 周波数レスポンスは全体として非常にフラットであり、そのニュートラルな性格を裏付けている 19
  • 各ドライバーの近接測定では、2基のウーファーからミッドバス(約500Hzでクロス)、そしてミッドレンジへと、極めてスムーズな繋がりが確認でき、「最適なクロスオーバー設計」が示唆されている 9
  • 累積スペクトラル減衰(CSD)プロットは「際立ってクリーン」であり、主観的な試聴で感じられる「粒子感のない高域」と直接的に相関している 19

これらの測定値は、単なる学術データではない。それはQ5の、書かれざる取扱説明書だ。このデータは、購入希望者に必要な全てを物語っている。第一に、メーカー公称の能率を信じてはならない。第二に、世界トップクラスの大電流型ソリッドステートアンプ(あるいはValin氏が示唆したような巨大な真空管アンプ)への投資を覚悟しなければならない 12。そして第三に、その条件を満たした時、あなたはキャビネットの響きという呪縛からほぼ完全に解放されたサウンドを手に入れるだろう、と。この数字は、適切なアンプで試聴したプロの評論家たちの熱狂的な賛辞と、その要求の高さを見誤った一部のオーナーたちの悲鳴の両方を、完璧に説明している。


4. 試聴室の告白:耳はそれをどう聴いたか

技術と測定値が示す特性は、実際のリスニングにおいてどのように現れるのか。世界中の耳が捉えた印象を統合してみよう。

レビュアー / 媒体引用抜粋 (和訳+原文)
Michael Fremer / Stereophile「Q5は、馴染みのある録音に自身の個性を最も押し付けず、全体として最も『音』がしないスピーカーだった。」 / “The Q5 imposed on familiar recordings the least amount of its own personality, and overall had the least ‘sound,’ of any speaker I’ve heard.” 11
Jonathan Valin / The Absolute Sound「素晴らしい録音では、Q5の音は本物そっくりで息をのむほどだ…他の多くの大型マルチウェイ・ダイナミックスピーカーを不鮮明で不透明に聴こえさせる。」 / “On great recordings, the Q5’s sound is described as being so much like the real thing that it ‘will take your breath away’… makes many other large multiway dynamic speakers sound ‘smears and opaque.’” 12
Frank / Dagogo (Owner)「私は音楽を聴くとき、ニュアンスや微細なディテール、弦の周りの空気の動きを聴く傾向がある。これらの要素が、特に小編成のクラシックやジャズ、ボーカル演奏において、私を演奏家に近づけてくれる。」 / “I tend to be detail oriented when I listen to music, I tend to listen for the nuances, minute details, the movement of air around strings. I find those things draws me closer to the performers, especially in small classical and jazz ensembles and vocal performances.” 6

ジャンル別サウンドキャラクターの統合分析

  • クラシック & ジャズ (アコースティック音楽):
    ここはQ5の独壇場だ。その至高の解像度と無色透明なキャラクターは、楽器本来の音色を息をのむようなリアリズムで描き出す 12。オーケストラやジャズコンボ内の複雑な楽器の旋律をいとも簡単に分離し、リスナーは個々の演奏家の動きを自在に追うことができる。しんと静まり返った「驚くほど黒い背景」から、チェロの弓が弦を擦る質感や、ピアニストの繊細なペダルワークといった微細なディテールが、静寂の中から浮かび上がる。まさに「音の解剖学者」という名がふさわしい領域だ。
  • ボーカル:
    声は、外科手術のような精度と「あたかも部屋にいるかのような即時性」をもって再現される 12。ベリリウムツイーターのクリーンな減衰特性のおかげで、サ行の歯擦音は滲みやエッジが立たず、極めて明瞭だ。その中立性は、人工的な暖かみや厚みを一切加えないことを意味する。マスターテープに記録されたものを、ただそのまま再生する。純粋で脚色のないボーカル再生を求めるファンにとって、これは一つの到達点だろう。
  • ロック、ポップス & EDM (密閉型のジレンマ):
    これらのジャンルでは、Q5の評価は二分される。そのスピードと制動力は、タイトで明瞭、そして音階が正確なベースラインを描き出す。一方で、これらの音楽に物理的なエネルギーを与える「内臓を揺さぶるようなパンチ」や中低域の量感に欠けると感じられることがある 11。これは密閉型設計の直接的な帰結だ。ポート型システムが持つバスレフポートの共振を利用した低域の増強や部屋の空気の圧迫感よりも、過渡応答の正確さを優先した設計思想の表れである。キックドラムの一発一発は驚くほどクリアに聴き取れるが、Wilson Sashaのようにそれを胸で「感じる」ことはないかもしれない。これは欠点ではなく、根本的な設計思想の選択なのだ。

5. 価値の天秤:Magico Q5のスコアカード

評価軸採点 (5点満点)解説
技術性能★★★★★2010年当時、量産機としてこれほど徹底してキャビネット共振を排除した設計は画期的だった。オールアルミのスペースフレーム構造、独自開発のNano-Tecドライバー、ベリリウムツイーターの採用は、まさに技術の頂点。測定結果がその性能を裏付けている 16, 17, 19
音楽的魅力★★★☆☆これは最も意見が割れる点。「音楽の素顔」をありのままに提示する純粋さに魅了されるリスナーがいる一方、その分析的な性格を「冷たい」「魂がない」と感じる向きもある [5, 12]。暖かみや心地よい響きを求めるなら、他を選ぶべきだろう。
ビルドクオリティ★★★★★176kgの重量、寸分の狂いもないアルミ削り出しパーツ、無数のボルトで組み上げられた筐体は、オーディオ機器というより航空宇宙産業の産物。仕上げの美しさ、構造的な堅牢性は疑う余地がない [13, 17]。
価格対価値★★★★☆発売価格$59,950は絶対的には高価だが、当時のフラッグシップ機M5の性能を凌駕しつつ価格を3分の2に抑えた点は革命的だった [16]。中古市場では、その価値はさらに高まるが、適切なアンプへの投資は必須である。
将来性 / 修理性★★☆☆☆すでにレガシー製品であり、メーカーサポートは限定的と推測される。特にベリリウム振動板は破損しやすく、交換は困難かつ高価。ドライバーの独自性が高いため、サードパーティによる修理もほぼ不可能。長期保有にはリスクを伴う [6, 8]。

バイアスチェックと結論

圧倒的にポジティブな専門誌のレビューは、Q5の画期的な技術性能を正しく評価した。しかし、その性能を現実のシステムで引き出すことの途方もない困難さを、時には過小評価していたかもしれない。Q5のネガティブな側面は、その潜在的な音質にあるのではなく、その過酷な電気的負荷、万人の好みに合うとは限らない分析的なキャラクター、そして旧製品として修理が困難という実用上の制約にある。Q5は間違いなくマスターピースだが、それはカジュアルな賞賛ではなく、オーナーの全的なコミットメントを要求する、気難しい傑作なのである。


6. 時代の座標軸:ハイエンドオーディオ史におけるQ5の功罪

関連記事

Magico Q5は、単に優れたスピーカーであった以上に、業界全体に波紋を広げた一つの声明だった。それは、エンクロージャーを調整された楽器としてではなく、圧倒的なエンジニアリングと先進的な素材科学によって沈黙させるべき敵として扱うことで、スピーカーが前例のないレベルの中立性と低歪みを達成できることを証明した。そして、削り出しアルミニウムを、ハイエンドスピーカー設計における高価だが有効な選択肢として確固たる地位に押し上げたのである。

哲学の分水嶺:Magico vs. Wilson

Q5の登場は、現代ハイエンドオーディオにおける中心的な論争、すなわち**「正確性 vs. 音楽性」**を先鋭化させた。

  • Magicoの道 (分析家): Q5は「ゲインのある単なる電線」という理想を体現する。ソース信号に何も足さず、何も引かない、完全な透明性への追求だ 5。その密閉型設計は、低域の量感よりも過渡応答の正確さを優先する。録音エンジニアの意図を、欠点も含めて全て聴き取りたいリスナーのための選択肢である。
  • Wilsonの道 (芸術家): 同時代のライバル、Wilson Audio Sasha W/Pは異なる哲学を代表していた。独自開発の複合素材とポート型エンクロージャーを用い、Wilsonのスピーカーはより「ダイナミック」「魅力的」「内臓に響く」と評されることが多い 23。このアプローチは、厳密な中立性からわずかに逸脱したとしても、主観的により説得力のある、あるいは感情的に満足度の高い音楽体験を創り出すために、スピーカー設計を積極的に活用するものと見なせる。

Q5の成功は、Wilsonを含む競合他社に、キャビネットの響きを低減させるための素材や内部補強のさらなる改良を促したと言えるだろう。業界全体における「低共振エンクロージャー」の基準を引き上げたのだ。

この文脈でQ5を捉え直すと、その真の歴史的意義が見えてくる。Magicoが最初に大きな成功を収めたのは、ブックシェルフスピーカーの概念を塗り替えた「Mini」だった 15。Q5は、そのMiniの哲学を究極のスケールで実現したものと見なせる。Miniはその帯域内で「存在が消える」感覚と低着色で賞賛された。Q5は、遥かに高度で高価な技術的解決策を用いて、同じ「消える感覚」を、フルレンジかつ大音量再生が可能なスケールで達成したのだ。それは、ニュートラルなモニタースピーカーという核となるアイデアを、コスト度外視のステートメントピースへと昇華させ、大型ダイナミックスピーカーに対する認識を根本から変えたのである。


7. 結論:この「無個性」は誰のためのものか

推奨ユーザー (おすすめしたい人)

  • 分析的な純粋主義者: スピーカーによる脚色を一切排し、マスターテープに何が記録されているかを正確に解剖したいリスナー。
  • アコースティック音楽の愛好家: クラシック、ジャズ、優れた録音のボーカルを主に聴く人々。Q5の正確な音色再現性と解像度は、まさに啓示となるだろう。
  • パワーを意のままに操るシステムビルダー: このスピーカーのポテンシャルを解放するために、真に強力で安定した大電流型アンプを所有している、あるいは投資を厭わないオーディオファイル。

非推奨ユーザー (やめた方が良い人)

  • 暖かみを求める人: 「音楽的」で、暖かく、寛容なサウンドを好むリスナーは、Q5を冷たく、無機質で、聴き疲れするものと感じる可能性が高い。
  • 「スラム」を求めるロック/EDMファン: 内臓を揺さぶるような低音のインパクトを最優先するなら、Q5のタイトで正確だが、量感で劣る密閉型の低域には物足りなさを感じるだろう。
  • (中古市場であっても)予算を重視する人: スピーカー本体の価格は、始まりに過ぎない。その性能を引き出すために必要なアンプへの投資は、スピーカー本体の価格を軽く超える可能性がある。

将来性

レガシー製品であるため、公式なアップグレードパスは存在しない。その統合的かつ独自性の高い構造ゆえに、改造は事実上不可能だ。その価値は、歴史的な重要性と、あるがままの完成された性能にある。

総合評価:★★★★☆ (4.5/5)

総評
Magico Q5は、スピーカーを「楽器」ではなく「科学測定器」の領域へと押し上げた、オーディオ史における記念碑である。その徹底した中立性は、録音の隅々までを白日の下に晒す驚異的な解像度をもたらす一方、音楽から人間的な温度感を奪いかねない諸刃の剣でもある。
このスピーカーの本質は、ソースへの絶対的忠誠。求めるべきは、音楽による「癒し」ではなく、音による「真実」だ。

ニックネーム: The Aluminum Anatomist (アルミニウムのアナトミスト)

引用文献

1. Magico’s 20th Anniversary, https://www.magicoaudio.com/news/magicos-20th-anniversary
2. Magico Q5 loudspeaker Specifications - Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/magico-q5-loudspeaker-specifications
3. Magico A5 Loudspeakers - SoundStage! Ultra, https://www.soundstageultra.com/index.php/equipment-menu/1042-magico-a5-loudspeakers
4. The Best Loudspeaker I’ve Heard? The Magico Q5 - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/the-best-loudspeaker-ive-heard-the-magico-q5/
5. Magico Q5 Speaker - Sound & Vision, https://www.soundandvision.com/content/magico-q5-speaker
6. Magico Q5 loudspeakers Review, Part 2 - - Dagogo, https://www.dagogo.com/magico-q5-loudspeakers-review-part-2/
7. MAGICO : Q5 - 新品 - オーディオユニオン, https://www.audiounion.jp/ct/detail/new/105670/
8. MAGICO Q5 User’s Guide - Magico Loudspeakers, https://magico.net/support/Q5/Q5_Owner_Manual.pdf
9. Untitled - BM, http://www.bm.rs/Magico/Magico%20Q5%20-%20Stereophile%20November%202010.pdf
10. MAGICO Q5 LOUDSPEAKERS - thehificonsultants, https://hificonsultants.co.uk/products/magico-q5-loudspeakers
11. Magico Q5 Loudspeakers - Ultra High-End Audio and Home Theater Review |, https://www.ultrahighendreview.com/review-magico-q5-loudspeakers-michael-fremer/
12. Magico Q5 Loudspeaker (TAS 214) - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/magico-q5-loudspeaker-tas-214/
13. New Magico Q5 Review…go figure | AudioShark Forums, https://www.audioshark.org/threads/new-magico-q5-review-go-figure.12225/
14. Redefine - Magico Loudspeakers, https://www.magicoaudio.com/redefine
15. SoundStageGlobal.com - Magico Q7 … - SoundStage! Global, https://www.soundstageglobal.com/index.php/shows-events/twbas-2012-north-carolina-usa/84-twbas-2012-product-profiles/198-magico-q7-loudspeakers
16. Magico Q5 loudspeaker | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/magico-q5-loudspeaker
17. Q7 - Magico Loudspeakers, https://www.magicoaudio.com/q-series-q7
18. Magico Q1 Loudspeakers - SoundStage! Ultra, https://www.soundstageultra.com/index.php/equipment-menu/251-magico-q1-loudspeakers
19. Magico Q5 loudspeaker Measurements - Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/magico-q5-loudspeaker-measurements
20. Magico Q5 loudspeaker Page 3 | Stereophile.com, https://www.stereophile.com/content/magico-q5-loudspeaker-page-3
21. Former Sasha 1 owners…what have you moved to? | AudioShark Forums, https://www.audioshark.org/threads/former-sasha-1-owners-what-have-you-moved-to.9555/
22. Wilson Maxx 2. vs. Magico S5 mk2 | AudioShark Forums, https://www.audioshark.org/threads/wilson-maxx-2-vs-magico-s5-mk2.13420/
23. Wilson vs. Magico - SoundStage! Ultra, https://www.soundstageultra.com/index.php?view=article&id=274:wilson-vs-magico&catid=32
24. TAC - Magico Spaekers, https://www.theaudioco.com/pages/speakers/Magico/Magico.html

関連記事